
心の重さは体重と比例する

最初の実験では、被験者の半分には「重大な個人な秘密」を半分には「些細な個人的秘密」を思い出させたあと、まったく無関係の実験を装って、ある坂の勾配を見積もらせた。(1)
すると、重大な秘密を思い出した人のほうが坂を急勾配と判断する傾向が明確にあらわれた。
秘密の重大さが物理的な重さの感覚を呼び起こし、物理的な重さと同様の影響を被験者に及ぼしたと見ることができる。
2つ目の実験でも、被験者の半分には「重大な秘密」を、もう半分には「此細な秘密」を思い出させ、約2.5メートル先に置いてある容器にお手玉を投げ入れさせた。
この実験では被験者の距離感を調べようとした。
容器までの距離を実際より遠く感じている人は、容器より遠くにお手玉を放ってしまう。
一方、距離を短く感じている人は、容器の手前にお手玉を落としてしまうはずだ。
さて、結果はどうだったか?
重大な秘密を思い出した人は、実際に重い荷物を持った人と同じように距離を遠く感じ、お手玉を遠くまで投げすぎる傾向があった。
3つ目の実験では、ある特定のタイプの秘密に着目した。浮気の秘密である。
最近浮気をしたと認めている人たちに、浮気行為をどのくらい後ろめたく思っているか、そのことをどれくらい気に病んでいるかを7段階で回答させた。
6種類の課題の半分は、体を動かす必要があるもの、残り半分は、体を動かす必要がないものだ。
そのありきたりな課題を他人のために実行することに、それぞれどの程度の労力を要するかを七段階で見積もらせる。
すると、浮気を気に病んでいて、強い罪悪感をいだいている人ほど、体を動かす必要がある課題に多くの労力が必要だと判断した。
それに対し、体を動かす必要がない課題についての評価には、罪悪感の強さによる違いが見られなかった。
秘密を気にして、重荷に感じている人ほど、ありふれた肉体的課題を手ごわく感じたのだ。
黒色は不誠実で暴力的に見える?

NHLのペナルティーについて調べた研究では、黒とほかの色のユニフォームの違いだけでなく、黒い色のユニフォームのチームは審判から、ひじ打ちやフェンスへの押しつけなどの危険行為によるペナルティーが割合が高かった。(2)
そこでフランクとギロヴィッチは巧妙な実験を考えた。
実験では、フットボールのプレーの様子を映した動画を二つ用意した。
選手たちには前もって用意しシナリオどおりに行動してもらったので、二つの動画のプレー内容に違いはない。
違うのは、守備側のチームのユニフォームの色だけだ。一方の動画では白を、もう一方の動画では黒を着せてある。
これらの動画をフットボールフアンの大学生とフットボールの審判に見せて、守備側のチームにペナルティーを科すべきかそして、そのチームがどのくらい乱暴にプレーしていると思うかを暴尋ねた。
するとそれに対して、大学生も審判も、ユニフォームが黒のとき、ペナルティーを科すと答えた人が多かった。
また、別の実験からは黒のユニフォームを着たグループは、白のユニフォームのグループより攻撃的なゲームを選ぶ傾向が見られた。
黒のユニフォームを着るだけで、攻撃的なゲームをやりたいという意欲が強まるようだ。
暗い部屋はズルくなる

この実験では、被験者の大学生を「明るい部屋」と「薄暗い部屋」の2グループに分けた。
そして全員に、20問の問題が記された紙を渡した。(3)
すべて、いくつかの数字のなかから、足して10になる二つの数字を選び出すという問題だ。
解答時間は五分で1問正解するごとに、0.5ドルの報酬を受け取れるものだ。
実際には、5分間では時間が足りず、20問すべてを解くことは不可能だ。解答時間が終わると、被験者は自分の正解数を別紙に記入し、その紙を回収箱に入れる。
そして、報酬として正解数に応じた金額を自分で封筒から取り出して持ち帰る。解答用紙には氏名を記入しないので、本当の正解数は誰にもわからず、簡単にズルができると、被験者たちは思ったに違いない。
しかし実際は、本当の正解教を研究者たちが把握できる仕組みになっていた。
さて、どういう結果になったか?
「明るい部屋のグループ」と「薄暗い部屋のグループ」の間に本当の正解数の差は見られなかったが、薄暗い部屋の学生たちのほうが多くズルをした。
部屋にはほかに誰もおらず、ぜったいに不正がバレない状況でも、部屋が暗いときは、人が不正に手を染める確率がいっそう高まるらしい。
心理学的に言えば、人は暗い部屋にいると不正に走りやすく、明るい部屋にいれば不正をする確率が低くなるのである。
カメラアングルで影響力が変わる

この研究グループは、タイム誌の(「世界で最も影響力のある100人」)に掲載されていた写真と、同じ人物のWikipediaやFacebookの写真も比べてみた。(4)
するとアングルの違いは明白だった。
WikipediaやFacebookよりも「力」の側面が強く意識されているタイム誌のリストでは、下から撮られた写真が多かった。
とくに、被写体の強さを印象づけたいという思いが強いケースほど、より低い場所から撮られた写真が用いられる傾向があった。
では、力の弱い人たちを写した写真のアングルはどうなっているのか?同じ研究グループがこの点も調べている。
2007年の世界報道写真展の年鑑に掲載されている写真を三人の人物に検討させ、それぞれの写真が強さを表現しようとしたものか、弱さを表現しようとしたものかを判断させた。
一方、これとは別に、プロの写真家たちにそれぞれの写真のアングルを推定させた。
この2つの回答を照合すると、強さを感じさせる写真は下から、弱さを感じさせる写真は上から撮られているケースが多いと分かった。
コーヒーカップのサイズは権力の大きさ?

1つの実験では被験者に数種類のストーリーのいずれかを読ませ、登場人物について質問した。ストーリーの基本的なパターンはすべて同じだ。(5)
ある人物がスムージー店やピザ店、コーヒー店に入り、注文するサイズをS、M、Lのなかから選ぶという設定になっている被験者には、いくつかの項目でその人物を評価させた。
そのうち二つの項目は、ステータスの高さや尊敬を集めている度合いなど、地位と関係があるもので、そのほかの項目は、正直さや魅力の度合いなど、地位と直接関係がないものである。
結果はどうだったか?
被験者は、Lサイズを選んだ人物を、SサイズやMサイズを選んだ人物より地位が高いと判断する傾向があった。
最も地位が低いとみなされたのは、Sサイズを選んだ人物だった。
私たちは大きなカップのコーヒーを持っている人を見ると、その人物が大きな力をもっているとみなすらしい。
自分を強く見せたいときは、実際には半分しか飲まないとしても、大きなサイズのコーヒーを買うほうが得策だろう。
同じ研究グループは別の実験で、自分にどのくらい力があると感じているかによって、選ぶサイズが変わるのかも調べている。
まず、142人の学生の被験者たちを3つのループにわけた。
「強い」グループには、他人に権力を振るったり、他人に評価をくだしたりした経験を回想せた。
「弱い」グループには、誰かに権力を振るわれたり、評価をくだされたり、自分の希望が実現するかどうかを他人の意思に左右されたりした経験を回想させた。
もう一つのグループは「対照群」として、直近にスーパーマーケットに行っときのことを回想させた。
これは、力の有無とはまったく関係のない経験だ。
次に、これとは無関係のマーケティング上の調査だと説明して、被験者たちに三種類のスムージーの画像を見せたそして、大学の学生食堂で売られていたら、どれを買いたいかと尋ねた。
三種類のスムージーはサイズが異なり、それぞれ「S」「M」「L」と明記してある。
これに対し、弱いグループの人たちは、強いグループや対照群の人たちに比べてしサイズを選ぶ制合が大きかった。
自らの弱さを感じていて、地位を高めたい人は、大きなサイズを選ぶ傾向があったのである。
参考文献
(1)D. R. Proffitt, J. Stefanucci, T. Banton, and W. Epstein (2003). The role of effort in perceiving distance. Psychological Science, 14 (2), 106-12.
(2)G. D. Webster, G. R. Urland, and J. Correll (2012). Can uniform color color aggression? Quasi-experimental evidence from professional ice hockey. Social Psychological and Personality Science, 3 (3), 274-81. 4.
(3)C Zhong. V. K. Bohns. and F. Gino (2010). Good lamps are the best police: Darkness increases dishonesty and self-interested behavior. Psychological Science, 21 (3). 311-14
(4)S. R. Giessner, M. K. Ryan, T. W. Schubert, and N. van Quaquebeke (2011). The power of pictures: Vertical picture angles in power pictures. Media Psychology, 14 (4), 442-64.
(5)D. Dubois, D. D. Rucker, and A. D. Galinsky (2012).Super size me: Product as a signal of status. Journal of Consumer Research, 38 (6), 1047-62.