落下したエレベーターから助かる現実的な方法

落下したエレベーターからは生還できる?

 ディズニーシーでは、名物の乗り物としてタワーオブテラーというアトラクションがある。

 具体的な説明は省くが、罰当たりな経営者が古代の置物を盗んだ結果、呪いによって経営者は最上階から地上に向けてエレベーターごと落下したというのが大まかなストーリーである。

 そして跡地に訪れる者(来場者)は、同じようにエレベーターで落とされるという設定でアトラクションは進行していく。

 ある時私は件のアトラクションで列を待っている際に、1つの疑問を感じた。

 もし実際のエレベーターが高層階から地上に落下したとして、どの程度の確率で生還できるのか?

 まずその疑問に答えるには、近代的なエレベーターが誕生してから150年、約1兆3000億人ほどが約8000億も利用してきたという歴史を少し振り返る必要がある。

 おそらくは大多数の人が「事故でエレベーターのケーブルが切れたら、潰れて死ぬ」と一度は考えたことだろう。

 そう思うのも無理はない。実際にそういう事故が起きているからだ。

 例えば1945年、アメリカ陸軍のB-25爆撃機が霧で方角を見失い、エンパイアステートビルの79階に激突したことがある。

 この事故のせいで2台のエレベーターのケーブルが切れ、両方ともエレベーター・シャフトを急降下していった。

 当時は、エレベーターが自動化される前の時代のため、添乗員(エレベーター・ガール)が客を目的の階層に案内することは当たり前だった。

 事故があったとき2台のうち1台の添乗員は、最も幸運なタイミングで「タバコ休憩」をするために席を外していた。

 しかしもう1台の添乗員、ベティ・ルー・オリヴァー夫人はビルの底まで75階分も落下した。

 一応言っておくが、電動式の乗り物は数々あれど、エレベーターほど安全なものはない。

 もちろんリスクがないわけではないく、例えばアメリカでは年間平均27人がエレベーター事故の犠牲になっている。

 だが、事故の多くが機械ではなく「操作者のミス」である。

 エレベーターがこれほど安全なのは、1853年にエリシャ・グレーヴズ・オーティスが安全ブレーキを発明したおかげでもある。

 このブレーキはエレベーターの箱自体に取りつけられているので、ケーブルが切れてもエレベーター本体を停止させることができる。

 オーティスがこれを考えだすまで、 エレベーターには人気がなかった。

 そりゃそうだ、 自分の命がたった1本のヒモかっているような箱には誰だって入りたくない。

 オーティスがそれを変え、それを境にすべてが変わった。

 今の都会暮らしを送るうえで、 エレベーターはなくてはならないものだ。

 しかしエレベータが生まれる前の時代は、ビルの高さはせいぜい6階までだった。

 重い買い物袋をもってそれ以上の階に上がりたがる勤労な人間はどこにもいないからだ。

 だから当時のマンションで家賃が一番高いのは最上階ではなく、なんと1階だった。

 つまり現在の価値観とは違って、タワーマンションのカーストは下の階層の住むことで決まる。(これは半分ジョーク)

 それはさておき、エレベーターによって建物は高層化し、一街区に詰めこめる人の数も増えたことは明白だ。

 もしエレベーターがなければ、人は市の中心部から収容人数を気にせず際限もなく広がることなど不可能だ。

 あるいみロサンゼルスみたいな都市ばかりにならずに済んだのも、オーティス氏のおかげといえるだろう。

 仮にオーティスの発明が上手く機能しなかったと仮定して話を進めてみよう。

 エレベーターが摩天楼の最上階からオリヴァー夫人のように落下したとしても、あなたがお陀仏になるとは限らない。

 多少の幸運に恵まれれば物理現象がウソみたいに都合よく重なって、助かるかもしれないのだ。

 昨今では、エレベーターでどれだけ長い距離を落ちたくても、700メートルあまりがせいぜいである。

 その理由は、それ以上の高さにエレベーターを設置すると、ケーブルが重くなりすぎてしまうことが原因だ。

 例えば1973年にワ ールド・トレード・センターでエレベーター乗換えフロアが考案されるまで、高層ビルはこの限界を超える高さにはなれなかった。

 さらに、もし500メートルの高さからエレベーターが自由落下したら、地面に激突するときの速度は時速300km強に達するため、エレベーターの中にいる人間が生存できる可能性は、ほぼ間違いない。

 ところが素晴らしい幸運に恵まれ、シャフトにぴったりフィットしたエレベーターに乗れたとしたら、箱の下にある空気がそうそう遠くは上に逃げていけない。

 結果的に柔らかいエアバッグのような圧力の枕が生みだされて、それが落下速度を下げてくれる可能性がある。

 だが、生きて帰るためにはそれだけでは足りない。

 体に加わる「G力」を軽減するには、落下速度を徐々に落としてゆっくり停止するのが肝心だ。

 G力とは加速や減速によって体にかかる力のことで、地球の重力を基準にした単位である。

 たとえば、今現在あなたが受けているG力は「1G」だ。

 やたらと動きの激しいジェットコースターで最大5G前後である。(体重が実際の5倍である)。

 訓練を受けた戦闘機パイロットなら、9Gに耐えて飛びつづけることができる。

 じゃあ、人間の限度はどれくらいなのか。

 ほんの数秒間だけ約50Gを耐えて生還できる限界のようだ。

 そこで仮に落下中のあなたのエレベーターに乗っていたとしよう。

 助かる可能性が一番高いのは、全身をできるだけ平らにすることだ。

 跳びあがっても無駄である。奇跡的に激突の寸前にジャンプできたとしても、衝突の衝撃は時速1.5kg ~3kg程度しか減らない。

 おまけに、床に叩きつけられるときに内臓をつないでいた動脈が切れたせいで内臓が体の下からこぼれでて、グロテスクな山をつくる羽目になる。

 あぁ…先にいっておくが天井の照明からぶら下がるのもやめたほうがいい。

 結局は手を引きはがされ、最上階から飛びおりたのと同じくらいの強さで床に激突することになる。

 それから、気持ちはわかるが 隣の人の肩によじ登るのも意味がない。

 不安定だし、どっちみちその人も衝突の瞬間には倒れる。

 じゃあどうするのが一番いいのかって?

 仰向けに寝ることだ。

 内臓の山なしに体を止めたければ、 それにまさる方法はない。

 面白いことに、1945年に潰れたエレベーター内で発見されたとき、オリヴァー夫人は床で仰向け になってはいなかった。

 隅で椅子に腰掛けたままだったのである。ただしそんな体勢は間違ってもおすすめできないのに、それでも一命を取りとめたんだから驚く。

 確かに肋骨や腰骨を折りはした。

 けれど、もしも床に寝そべっていたら、シャフトの底にたまっていた瓦礫に串刺しにされていたかもしれない。

 実際、 エレベーターの床はその瓦礫に貫かれていたのだ。

 だから、この点はくれぐれも誤解のなきように。

 そもそも乗っているエレベーターのケーブルが切れたら、生きのびられる望みは相当に薄い。

 でもご安心を。 そもそもそんな事故はまず起きないから。

 起きる確率はどれくらいかって?

 実に1億分の1未満だ。

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