『岸部露伴、ルーヴルに行く』を鑑賞【映画感想/批評】

岸部露伴というキャラクター

 映画の元ネタである『岸部露伴は動かない』は、一風変わった主人公の岸部露伴(演:高橋一生)のキャラクターが際立つ作品だ。

 彼は漫画家としては成功を収めるが、大衆的な名声や富に微塵の興味がなく、彼が漫画を描く唯一の理由は「読者を楽しませるため」である。

(その徹底ぶりは、1つの怪異を調査するために山を買いあさるほどである。しかも読者が楽しめる漫画のネタのためだけに、山を買い過ぎて破産してしまっているほどだ)

 その独特な性格が故に作品全体の魅力のひとつとなっているの間違いない。

 彼の負けず嫌いな性格や、他人の弱点を突く策略を重要視する姿勢が、彼のキャラクターを象徴しており、彼の言動はしばしばジョジョ好きのネタとして引用されている。

 しかし彼は単なる「変わり者」という枠組みでは収まり切れない人間性を持ち、じゃんけんをする子供に真剣勝負を挑む一方で、背中を見られたくないという男を罠に嵌めて背中を覗き込むなど、自ら怪異に手を出してしまう、異常者である。

 また相手を打ち負かすことへの執念や、リアリティを求めるあまりに実際に蜘蛛を解剖してしまう行動も、彼の個性を浮き彫りにしている。

 彼は自身のスタンド能力を巧みに使用し、他人の経験をネタに取り入れることもあるが、それでもその能力を悪用することは好まず、善人では無いが一貫した信念を持つ一面も見て取れる。

映画の感想

 『岸部露伴、ルーブルに行く』は、もともと漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の一編であり、それがドラマ化して、ついに映画としても公開された形になる。

 高橋一生が演じる主人公である岸部露伴は、漫画家として大成する前に出会った一人のある若い女性が残した「このようで最も邪悪な絵」という言葉を思い出し、時を同じくして「邪悪な絵」に関する怪異が発生する。

 その影を追いながらついに、フランスパリのルーブル美術館に訪れ、そこに待ち構えていた奇想天外な体験についての物語である。

 基本的に実写化した中では大成功を収めた本作品には魅力的な要素も多分に含まれているが、一方で今回の映画に関しては批判的な面も見逃せない。

 まず作中の人物との対話が不足していることで、映画や主人公の内面について深く理解することが難しい。(キャラクターそのものが行動を読むことが難しいという側面もあるが)

 そのため、岸部露伴に対して感情移入することが難しく、彼の成長や葛藤に共感する障壁となっていたのだ。

 しかしながら、岸部露伴から随所で語られる芸術や漫画への姿勢は、「岸部露伴は動かない」の魅力的な要素である。読者にとっては一つの魅力であり、岸部露伴の漫画家としての葛藤だけでなく俗物的な側面が今回も物語に深みを与えていた。

 少し不満を言えば、もっと主人公以外の登場人物についての描写を多くしていれば、岸部露伴のキャラクターがより立体的になり、作品に対する感情移入がより容易になったかもしれない。

 そして今回の物語の肝でもあるルーブル美術館における奇想天外な出来事は、作品の幻想的な要素を強調している。

 とは言え、その展開において、説明や背景の不十分さが気になったが、そもそもこの作品全体に言えることだ、絵画で言うところの寓意的な意味が含まれているところもあるため、観ただけで意味を思考をしないタイプの人間にはキツかもしれない。

 それゆえ、視聴者は謎めいた要素をそのままにして物語を楽しむ必要が出てくるため、作品の論理性が欠如していた部分もあった。

 より詳細な設定や背景描写があれば、作品の深化と一般視聴者の理解を助けることができたであろう。

 それでも謎めいた展開と幻想的な描写が、作品の独自性と魅力を引き立てていたのも確かである。

 ジョジョシリーズは個性的なキャラクターと複雑なストーリーが特徴であり、多くのファンを魅了してきた。

 岸部露伴が自らの絵画や漫画を通じて表現したいものを追求する姿勢は、作品の中で光り輝く一面である。

また、作品の世界観やスタンド能力の独創性は、ジョジョシリーズの魅力を象徴していると言える。

 総括すると、『岸部露伴、ルーブルに行く』はジョジョシリーズの一部として楽しむ価値があるが、他の作品に比べてキャラクターやストーリーの魅力に少し劣る面も見受けられる。

 岸部露伴のキャラクターには改善の余地があったが、彼の芸術への情熱と創作への姿勢は作品の魅力を引き出していた。

 映画の前売り券を手に入れたファンにとっては特別な体験が用意されており、作品への愛着を深めるための貴重な要素となっているのである。

岸部露伴は、ルーブル美術館で奇想天外な体験をする過程で、自らの芸術への情熱と向き合い、人間的な成長を遂げるのだろうか。

 作品の後半では、岸部露伴のキャラクターがより複雑に描され、彼の内面に迫る描写が増えてくる。

 物語が進むにつれて、ルーブル美術館の奇妙な出来事の背後に潜む真相が明らかになっていく。

 謎めいた展開や幻想的な描写が、徐々に解き明かされることで作品の論理性が高まり、読者は物語の核心に迫っていく。岸部露伴自身が、芸術作品を通じて描きたかったものと向き合う中で、彼の成長が見られるのだろうか?

 ぜひ、この記事を読んだ読者が視聴する機会に恵まれたのなら、腰を据えてじっくり見ると良いだろう。

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