情報の洪水が押し寄せ、SNSや動画サイトでの情報収集が日常の一部となりました。
さらに、生成AIのChatGPTやBing AIなどの登場によって、情報速度は指数関数的に増えて行っています。
その一方で、目まぐるしい情報の中で真実を見つけることは容易ではありません。
この記事では、科学的な視点から、情報洪水時代における賢い情報収集の方法を紹介します。難しい言葉は使わず、どなたでも理解しやすい言葉で、科学が提供する知見を駆使して、SNSや動画サイトの情報を見極めるためのヒントをお伝えします。
これから先、情報社会で生き抜くために知っておくべき科学的な視点、探っていきましょう。
判断するときは情報を集めようは間違い?
物事を判断する際に情報を集めるのは基本中の基本でが、科学的な調査からは必ずしもそうとは言い切れないデータも報告されているのはご存知でしょうか?
これは1718人の参加者を対象にしたテストで、まず全員に以下の問題を出しました。
ジェーンは大学に入学したばかりで、授業や課外活動の多忙なスケジュールに慣れようとしているところです。大学生の新入生は、入学から1年で平均6.5kgも体重が増えると言われていますが、ジェーンはちゃんと友だちと交流したり、宿題や勉強をこなしたりしつつ、体重の増加をふせごうとしています。
この状況で、ジェーンが目標を達成するためにすべきことは何だと思いますか? ベストなものをひとつだけ選んでください。
A. 毎週末、30分のウォーキングをする
B. 健康的な食生活を維持する
C. 友達と遊ぶのを避ける
D. テレビを見る時間を減らす
この問題に取り組むにあたって、研究チームは参加者を事前に3つのグループに分けてます。
- 1つ目のグループ:特に質問以外の情報を与えない
- 2つ目のグループ:テキストベースで「体重管理に必要なもの」の情報を伝える
- 3つ目のグループ:図解で「体重管理に必要なもの」の情報を伝える
「体重管理に必要なもの」のテキストが以下のような内容でした。
現在の体重維持のガイドラインでは、「健康的な食生活」と「1回30分以上の運動を週に3回」が推奨されています。一方で「友人との交流」はアルコールの消費量を増やすため、体重の管理には悪影響があるかもしれません。
上記の情報を基に判断すると、質問の答えは「B」です。
そしてまた「図解」グループが見たのは以下のようなもで表現してることは文章バージョンと同じですが、わかりやすいかは微妙です。
そして最終的な結果は以下のようになりました。
- 質問以外の情報がないグループには88.8%が正確した
- 文章の追加情報を読んだグループは82.7%が正確した
- 図解を見たグループは80.1%が正解した
なんと「なんの情報も入れずに答えたグループがもっとも優秀だった」そうです。
もっとも、「余分な情報など入れずに判断すればいい」という短絡的な結論ではなく、研究チームは「過去に経験があるような内容については情報が邪魔しているのでは?」と推測しています。
例えば「体重の維持」や「体重の減量」については誰もが一度は体験があるので、下手に追加の情報を手に入れると逆に混乱してしまうのではないか?という意味です。
そこでチームは追加で「2型糖尿病の管理に最適な行動とは?」という実験を行いました。
多くの人にとって他人事ではない病気なので、本当に追加情報の有無が邪魔になるかどうかが判断するのには最適だと研究者たちは考えました。
そしてこちらは研究チームの推測どおり、「経験があるものに情報を追加すると判断が狂う」という結果になりました。
- 糖尿病の経験がない人が追加の情報を与えられた場合、正解率が86.6%
- 糖尿病の人が追加の情報を与えられた場合、正解率はたった50.0%だった
なぜこのような現象が起きるかというと、以下のようなことが原因である可能性は十分に考えられます。
- 多くの人間は入ってきた情報をそのまま吸収するわけではなく、脳内にある信念や体験をもとに情報をカスタマイズしている
- しかし、そこに余分な情報が入ってくると、「自分の判断は正しいのか?」という疑念が生まれる
知ってることは反射的に答えが出せるはずが、追加の情報によって考えすぎの状態が起こってしまうそうですね。
つまり、今回の研究の内容から言えることは以下の2点です。
- 既に過去で何か経験があるようなことについては追加の情報を入れずに判断したほうがいい
- 初めてのことについては追加情報を入れたほうが格段に判断の精度は上がる
頭が良くてもフェイクニュースにダマされる
テレビや新聞、ネットのブログ記事からYouTubeなどの動画まで、情報を得る手段には事欠きません。
しかし、一旦、誤った情報を信じてしまった場合、その人の考えを訂正するのは至難の業です。
さらに私たちがフェイクニュースなどを信じてしまう要因は様々ですが、例えば「真実の錯誤効果」という、「人間は何度も聞いたことを本当だと思いやすい」という、いわゆる「嘘も100回言えば真実になる」という俗説の正しさを証明するような話です。
こういった現象が起きるシンプルな理由は「楽だから」です。
我々の脳は基本的に手抜きをしたがる器官なので、「この情報はよく聞くから正しいと考えておこう」と思う性質があります。
そこで「真実の錯誤効果」に関する内容で、「頭がよければフェイクニュースにダマされにくくなるのか?」という問題を扱った論文を紹介します。
これはゲント大学の実験で、7つの研究によって「知性と真実の錯誤効果」の関係を調べたものです。
それぞれの実験は199人〜992人の参加者を対象にし、一見すると実験のやり方などもバラバラですが一番調べたい部分は同じです。
- 参加者に「偽の情報」を読んでもらう
- その偽情報をどれぐらい信じているかを尋ねる
- その偽情報を過去にどれぐらい見かけたかを尋ねる
- 全員に認知テストをして頭の良さを調べる
実験で使われた偽情報の種類はさまざまで、「木の年輪で東西南北がわかる」という身の回りの嘘雑学から、トランプ大統領の偽の演説動画という、かなりセンシティブなフェイクニュースまでいろんなパターンを用意したそうです。
そして各実験から判明したことは以下のような点でした。
- 頭が良かろうが、何度も目にした情報を真実だと思う傾向がありました。
やはり「真実の錯誤効果」は知性とは関係なく万人に起きる現象だそうです。
また「頭の良さ」は、以下の3つのポイントで構成されています。
- 認知機能(どれだけ頭が効率よく情報を処理できるか)
- 認知的閉鎖欲求(確固たる答えを欲する気持ちがどれだけあるか)
- 認知スタイル(直感で考えるタイプか、それとも分析的に考えるタイプか)
生まれつきの頭の回転の速さや分析能力が高かろうが、フェイクニュースを信じる可能性は他の人とさほど変わらないみたいです。
そして調査を行った研究チームは以下のように述べています。
人にとって情報の「くり返し」は、真実を示すサインとして働く。それだけ一般的な情報だと考えられるし、そのぶんだけ多くの文脈で正当性が確認されたものだと捉えられるからだ。
フェイクニュースを信じる相手を説得するのは不可能に近い
フェイクニュースの問題が騒がしい昨今ですが、「フェイクニュースを信じる人を改心させる方法」という点をイリノイ大学は調べるために、1994年〜2015年のあいだに出た「間違った情報を信じ込んでいる人を正す方法」に関する論文から質が高い 6878人分のデータをまとめ、メタ分析を行いました。
フェイクニュースに関する多くの実験では、以下のような手順が行われていました。
- 参加者にあえて間違った情報を読ませる(オバマの医療改革は老人を殺す陰謀だ)
- そのうえで、参加者に新しい情報を伝えたり、感情に訴えてニセ情報を信じないようお願いしたりと、いろいろ試す
その結果、まず何がわかったかと言えば以下のようなことです。
- 誤情報の影響は非常に強い。一般的に、ある程度の思い込みを正すことはできるが、完全に修正するのはほぼ不可能
いったんフェイクニュースを信じた場合、逆の洗脳をかけるのは絶望的のようです。
不都合な情報は知りたくないと考える人の特徴
自分にとっては重大な情報でも、「そんな情報は知りたくない」と思うようなケースは意外とあるのではないでしょうか?
このような心理はとても普通らしく。フォードハム大学の実験では、参加者380人で、みんなに以下のような質問をしました。
- 投資のチャンスを逃した後で、そのパフォーマンスを見てみたいですか?
- 命に関わるような病気のリスクが高いかどうかを知りたいですか?
- あなたのスピーチが他人からどれだけ評価されてるかを知りたいですか?
「自分にとって不快な情報を得たいか?」を聞いた後、さらに全員の性格も調べて、その傾向をチェックしました。
すると以下のようなことが分かりました。
- 参加者はだいたい32%ぐらいが「情報を受け取りたくない」と答えた
- 不快な情報を知りたくない人の割合は一定しており、人間関係の質問は24%ぐらいで、健康に関する情報は29%ぐらいの数値だった
- この傾向は、なぜか「俺は不快な情報も望んで受け入れる人間である」と答えた人にも確認された
どうやら嫌な情報を避けるというのは、人間の一般的な傾向のようです。
では、どのような性格の人間ほど不快な情報を避けるのかと言えば、具体的に以下のような点が挙げられます。
- 参加者が不快な情報を避ける傾向は、性別、収入、年齢、教育とは関係していなかった
- しかし、ビッグファイブにおける外向性、誠実性、および新開放性が高い人はより多くの情報を求める傾向があり、神経症的傾向のスコアが高い人は情報を避けやすかった
神経症傾向が高い人は不安になりやすいので、不快な情報から逃げようとするのは不思議ではありません。
ただし、本当に有用な情報を逃すことにもなるので、自分がどんな情報に対して警戒しているのかを把握しておくといいかもしれません。
良い決定をするための「正しい情報の選び方」
我々が何かを選ぶとき、「一気に選ぶほうがいいか? それとも、ひとつずつ選ぶほうがいいか?」って問題がありますね。
たとえば、予算内でベストのレストランを選びたいってときに、以下のような行動を取る人が多いのではないでしょうか?
- よさげな店をひとずつつ検討していく
- 候補店の情報をすべてリストアップして比較検討する
どちらのほうが正しい選択ができるのか?という問題は常に付きまといます。
誰もが日常的に出くわす問題かと思いますが、その点を正確に調べてたのがシンガポール大学の実験であり、2,783人の男女を対象にした研究です。
論文内では全部で7種類の実験が紹介されてまして、ひとつめの実験では、参加者に5種類のデジタルガジェット(ノートPCとか電子レンジとかデジカメとか)を見せて、「最適なものを選んでね」と指示したそうな。
それぞれのガジェットには6パターンのモデルが用意されていて、たとえばノートPCだったら、各機種についてRAMやHD容量、バッテリー寿命などの細かいスペックを提供したらしい。そのうえで、参加者を2つのグループにわけております。
- 6つのモデルの情報をスクリーンにまとめて表示させた状態で、性能と価格のバランスがベストな機種を選ぶ
- 6つのモデルの情報がひとつずつスクリーンに表示される状態で、性能と価格のバランスがベストな機種を選ぶ(もちろん、いったん確認した情報でも再チェックはできる)
その結果は、以下の数値になりました。
- 情報をまとめて見ながら選んだ場合の正答率は84%
- ひとつずつ情報を見ながら選んだ場合の正答率は75%
別の実験では、参加者に「自分がレストランのオーナーだったら、と想像してください」と指示しました。
そのうえで、様々なサプライヤーのなかから、もっともコスパがいい食材の仕入先を選んでもらったそうです。
こちらも全体を2つのグループにわけていて、「A社の牛乳は35ガロンで73ドル」「B社は29ガロンで69ドル」のような情報を、以下の2つに分けて提示しました。
- まとめて提示する
- ひとつずつ提示する
さらにこの実験では、参加者へ「自分が選択をしたときの思考をノートに記録してください」という作業を頼んでおり、これによって「よりよい選択をもたらす原因は何か?」が分かる可能性が高まります。
そして、こちらも結果は同じで、「情報をまとめてチェック」したグループの勝ち(正答率は61% vs 55%)でした。
また、参加者の記録したノートをチェックしたら以下のような傾向が分かりました。
- 情報をまとめて見たグループは「YよりもXのほうが価値があると思う」や「それゆえに、Xのほうが正しい選択だと考える」といった文章が多かった
簡単に言えば、可能なオプションを一気に検討したほうが比較が効果があるようです。
実験をおこなった研究者は以下のように述べています。
「選択肢の提示の仕方」はささいなことに思えるが、実はヒトの意思決定の質を上げるうえで大きなインパクトを持っている。
言われてみると意外に「すべての選択肢をまとめてチェックする」という作業はやってない気がしますね。
参考文献
・De Keersmaecker, Jonas et al. “Investigating the Robustness of the Illusory Truth Effect Across Individual Differences in Cognitive Ability, Need for Cognitive Closure, and Cognitive Style.” Personality & social psychology bulletin vol. 46,2 (2020): 204-215. doi:10.1177/0146167219853844
・Shankha Basu, Krishna Savani,Choosing one at a time? Presenting options simultaneously helps people make more optimal decisions than presenting options sequentially,Organizational Behavior and Human Decision Processes,Volume 139,2017,Pages 76-91,ISSN 0749-5978,https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2017.01.004.
・Zheng, Min et al. “How causal information affects decisions.” Cognitive Research: Principles and Implications 5 (2020): n. pag.
・https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0956797617714579?journalCode=pssa