もしかしたらいつか使える?色々な心理学研究【努力の正当化・偽の合意効果・クラスター錯覚・平均より上効果】#9

「時間」と「労力」を費やしたときほど注意する

「努力の正当化」をメンバーの団結を強めるために利用される。

仲間に加わるときに行われる「加入儀礼」がそれに当たる。(1)

若者の遊び仲間のグループやドイツ語圏にある大学の学友会は、「不快感をもよおすような儀式や暴力的な儀式を通過した者」だけをメンバーとして迎え入れる。

「加入試験」 が厳しければ厳しいほど、そのあとに感じる誇りも大きいことは、研究によって証明されている。 同様のことはMBAの学校でも起きる。

MBA取得のために、学生たちは休みなしに、 疲労困憊するまで学ばなくてはならない。

その結果、こなした課題が有益なものであろうとばかげていようと、MBAを取得した 学生は、それが自分のキャリアに不可欠な資格だとみなすようになる。

その取得のために 多大な労力をつぎ込んだからだ。

「自分の意見が多数派」と思い込んでいる

私たちは、ほかの人たちと自分の意見の一致具合を過大評価する傾向にある。

ほかの人 たちも自分と同じように考え、同じように感じているのだろうと、ついそう思い込んでしまいます。

この思考の誤りは、「偽の合意効果」と呼ばれている。この心理傾向は、スタンフォード大学の心理学者リー・ロスによって、1977年に見出された。(2)

ロスは「ジョーのレストランで食事をしよう」という宣伝文句の書かれた看板をつくり、 無作為に選んだ学生たちに、「サンドイッチマンのようにこの看板を身につけてキャンパスを30分歩いてほしい」と頼んだ。

同時に、「どれくらいの学生がこの頼みを承諾する と思うか」とも尋ねた。 すると、サンドイッチマンの格好をすることを承諾した学生は、学生たちの大半(62%)が自分と同じように承諾の返事をするだろうと答えた。

それに対して頼みを 重に断った学生は、自分と同じように、学生たちの大半 (67%)がサンドイッチ マンの格好をするのはばかばかしいと考えるだろうと答えた。

頼みを承諾した学生も断った学生も、「自分の意見が多数派」だと思い込んだのだ。

ほとんどのものは「単なる偶然」にすぎない

ランダムに起きる現象を脳が認めたがらず、なんらかのパターンや法則を見出そうとす るこうした現象は、「クラスター錯覚」と呼ばれている。

○XXX○XXX〇XX〇〇〇X〇〇XX〇〇

この並びは単なる偶然だろうか、それとも意図的なものだろうか?

心理学の教授、トーマス・ギロヴィッチは数百人にこの質問をした。(3)

するとほとんどの 人が、この文字の羅列が偶然だとは思いたがらなかった。

「そこにはなんらかの法則があ るに違いない」と考えたのだ。 だが、そこには法則など存在しなかった。 ギロヴィッチは回答者たちにその旨を告げ、 この文字の並びはさいころの目のようなものだと説明した。 「さいころを振っても、続けて四回同じ目が出ることがあるが、あくまで偶然だ」と言ったのだ。多くの回答者は、 その説明に厳然としたという。

ささいな 「共通点」だけで一気に好ましく感じるのはなぜ

集団状況に置かれることによって起きる私たちの行動や心理の変化が訪れる。

例えば、大したことのない基準でも集団は形成できる。

それがスポーツでいえば、「自分の出身地のチーム」というだけでそのチームと自分を同化でき るし、ビジネスの世界でいえば、「同じ会社で働いている者同士」というだけで集団意識 を持つことができる。

イギリスの心理学者、ヘンリー・タジフェルは、コインを投げて表が出たか裏が出たか で、互いに面識のなかった人々をふたつのグループに分けた。(4)

そして片方のグループのメンバーに、「このグループに分けられた人は全員、彼ら(もうひとつのグループ)がこれ まで知らなかった特定のタイプの芸術を好む傾向があるのだ」と告げた。

すると、驚くべきことが起きた。彼らは、 互いのことを知らず、単なる偶然 からよせ集められ、芸術のことなどまったくわからなかったにもかかわらず、「同じ グループのメンバーを、もうひとつのグループのメンバーよりずっと好ましいと感じた」 のだ。

自信のある人はたいてい勘違いしている

何か難しいもの、たとえば代数などについて、どれぐらい得意か尋ねられたとしよう。

たしいの人は、平均より上だと答えるはずだ。

そしてもちろん、大多数の人が平均より上にいるのは不可能だ。

この「自分は平均より上だ」という思い込みは、自分をよく思いたいという無意識の欲求から来ている。

この欲求はたいていの人が持っているだろう。

実際、自分 能力を過大評価しないのは、自信のない人だけだ。

つまり、もしあなたが「平均より上」 いう幻想を持っていないのなら、ほとんどの人よりも勘違いが少ないということになる。

驚くべきことに、この「自分は平均より上」という勘違いは、あらゆる分野で見ることができる。

たとえば、ほとんどの人が、自分の記憶力は平均より上だと考えている(5)。 健康状態でも同じだ(注25)。

また、ほとんどの管理職は、自分は平均より上のリーダーで ビジネスパーソンだと考えている(6)。

サッカー選手などのプロアスリートも、自分の 能力は平均より上だと評価している(7)。

そして私たちのほとんどが、自分と恋人との関係は平均より上だと考えている(8)。 この「平均より上」 バイアスが、特に顕著に見られる分野がある。たとえば、車の運転の 能力に関しては、90%の人が自分は平均より上だと考えている。

高校生の90%は、自分の社交スキルは平均より上だと考えている(9)。

そして大学教授のほぼ100% が、自分の教える技術は平均より上だと考えている(10)。もちろん、平均より上という自己評価が正しい人も中にはいるだろう。

しかしたいていの 人は、自分の実力を過大評価している そもそも、90%から100%の人が平均より上に なるのは不可能だ。

原則的に、平均より上の人と下の人の数はだいたい半々になるからだ (11)。それに加えて、自分を「平均より下」と評価した人たちの中にも、実際は平均より 上の人だっているはずだ。

その事実を考慮すると、「平均より上」と評価した人たちの勘違 いっぷりがさらに明らかになる。この「平均より上」という評価が勘違いであることが、もっとも明らかになる調査結果がある。

それは、ほとんどの人が、自分は平均よりも偏向が少ないと考えているということだ (12)。

この点については、プリンストン大学で心理学を教えるエミリー・プロニンが詳し い研究を行っている。

研究の中で、プロニン博士は、偏向についての一般的な説明文を被験 者に読んでもらっている。

たとえば次のような説明だ。心理学の研究によると、学力や仕事の能力を自己評価するとき、たいていの人は自分の利益になるような考え方をするという。

つまりどういうことかというと、成功した場合は自分 の手柄だと考え、失敗した場合は自分のせいではないと考えるということだ。

成功すると、失敗したは自分のせいではないと考えるということだ。自分の能力が高かったから、または努力したからなどと考え、逆に失敗すると、先生の教え 方が悪かったから、上司が自分にふさわしくない仕事 やらせたからだなどと考え、外側の 要因に責任を転嫁する(13)。

説明を読んだ被験者は、今度は自分がこれにどれくらい当てはまるかを考える。たいてい の人に当てはまる偏向だと言われていても、被験者の大部分は、アメリカ人の平均に比べて 自分は偏向が少ないと答えるという。

プロニン博士はこの結果を受けて、次のように結論し ている たとえ偏向の存在を知っていて、その偏向がたいていの人に当てはまるというこ とまで知っていても、自分もまたその偏向の影響を受けていると自覚できるわけではない。

実際に、実験の被験者たちは、たとえ偏向についての説明を受けていても、自分の能力を 評価するときも、またはある特定の成功や失敗の要因を考えるときも、自分に偏向があるこ とを認めようとはしなかった。(14)

もちろん、ほとんどの人が平均より上になるケースもまったくないわけではない。たとえば、ほとんどの人が平均 より足の本数が多い。

少数ではあるが、足が一本の人、または足のない人がいるために、平均が二本より少なくな るからだ。また、これとは逆のケースで、ほとんどの人が平均より下になることもある。

この一般的な例が収入だ。

たいていの人が平均より収入が低い。

ごく一部の超高収入の人が平均を押し上げているからだ。

とはいえ、た いていのケースで平均値はだいたい中央値と同じくらいになっている。

苦痛を感じる程、大事に思える心理

1959年に発表された、エリオット・アロンソンとジャドソン・ミルズという2人の若い研究者は「何かを得る為に大変な困難や苦痛を経験した人は、苦労なく得た人よりも、得たものの価値を高く見積もるようになる」のではないかという問についての答えが隠されていました。(15)

彼らは「性に関する討論グループ」に入るにのにとても恥ずかしい加入儀礼に耐えた女子学生たちが、新しく入った討論グループのメンバーと討論の内容は、とても価値があると自ら確信するようになっていたと見いだしました。

彼らが討論グループのメンバーを出来るだけ価値がなく、面白くなく思われるように稽古させていたのにも関わらずです。

ずっと緩やかな加入儀礼を経験した女子学生や加入儀礼を経験しなかった女子学生たちは自分たちが新しく参加した「価値のない」グループに対して断然低い評価をしました。

さらに続いて行われた別の研究でも、同じ結果になりました。

このときは恥ずかしさの代わりに痛みに耐えさせる加入儀礼を行いましたが、その加入儀礼の一環として、強い電気ショックを受けた女子学生ほど、新しく加入した集団とその活動は面白く、知的で、望ましいと確信していました。

参考文献

・(1)Aronson. E: Mills, J. The effect of severity of initiation on liking for a groupe. Journal of Abnormal and Social Psychology 59, 1959,177-181

・(2)Ross, L. Greene, D: House. P: The False Consensus Effect: An egocentric bias in social perception and attribution processes*, Journal of Personality and Social Psychology. 13 1977: 279-301

・(3)Gilovich, Thomas: How we know what isn’t so: The fallibility of human reason in everyday life. Free Press 1991

・(4)Tajfel, Henri: »Experiments in intergroup discrimination<. Scientific American 223, 1970: 96-102

・(5): V. Hoorens and P. Harris, “Distortions in Reports of Health Behaviors: The Time Span Effect and Illusory Superiority,” Psychology and Health 13, no. 3 (1998): 451-66.

・(6) L. Larwood and W. Whittaker, “Managerial Myopia: Self-serving Biases in Organizational Planning.” Journal of Applied Psychology 62, no. 2 (1977): 194-98.

・(7) R. B. Felson. “Ambiguity and Bias in the Self-concept,” Social Psychology Quarterly 44, no. 1 (1981): 64-69.

・(8) Y. Endo. S. Heine, and D. Lehman, “Culture and Positive Illusions in Close Relationships: How My Relationships Are Better Than Yours,” Personality and Social Psychology Bulletin 26, no. 12 (2000): 157: 0. Svenson, “Are We All Less Risky and More Skillful Than Our Fellow Drivers?” Acta Psychologica 47. no. 2 (1981): 143-48.1-86.

・(9)O. Svenson. “Are We All Less Risky and More Skillful Than Our Fellow Drivers? Acta Psychologica 47, no. 2 (1981): 143-48.

・(10) College Board. “Student Descriptive Questionnaire” (Princeton, NJ: Educational Testing Service, 1976-1977).

・(11) K. P. Cross, “Not Can, But Will College Teaching Be Improved?” New Directions for Higher Education 17 (1977): 1-15.

・(12) J. Friedrich, “On Seeing Oneself as Less Self-serving Than Others: The Ultimate Self-serving Bias?” Teaching of Psychology 23, no. 2 (1996): 107-9.

・(13) E. Pronin, D. Y. Lin, and L. Ross, “The Bias Blind Spot: Perceptions of Bias in Self Versus Others,” Personality and Social Psychology Bulletin 28, no. 3 (2002): 369-81.

・(14) E. Pronin, D. Y. Lin, and L. Ross, “The Bias Blind Spot: Perceptions of Bias in Self Versus Others,” Personality and Social Psychology Bulletin28, no. 3 (2002): 378.

・(15)Gerard, H. B., & Mathewson, G. C. (1966). The effect of severity of initiation on liking for a group: A replication. Journal of Experimental Social Psychology, 2, 278 287

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