インターネットの暗黒面: SNS荒らしの心理学と対処法

 ネットやSNS上の荒らしは、一部の個人が行うものであると同時に、集団で行われる場合もあります。

 そのような荒らし行為を行う集団には、一般的には攻撃的な性格特性を持つ人々が多く含まれることが報告されています。

 具体的には、攻撃性、反社会性、ナルシシズム、マキャヴェリズムなどの性格特性が見られることが多いとされています。

 また、荒らし行為は、匿名性や非現実感などの要因が影響して、個人の行動が集団に伝染しやすくなることが知られています。

ネット上で言い合いをする人は、他人を支配したいだけ?

昨今ではネット上の議論は罵詈雑言が飛び交う不快なものになりがちです。

 そこで、「SNS上の議論は過激で不快な言い争いに発展するのか?」ということを調べた調査を紹介します。

 先に結論から言うと、ネットの議論が荒れるのは「道徳的スタンドプレー」が関係しているようです。

 この「道徳的スタンドプレー」とは、「他人に自分を印象づけて社会的なステータスを得ようとすること」という意味合いがあり、例えば一見すると現在の政治への深い信念を説いているようですが、実際には「激しい議論で社会的に上の地位を狙いたい動機があるのでは?」ということです。

 これについて研究チームは、「道徳的スタンドプレーにはさまざまな形があり、周囲に自分を印象づけたいがために、道徳的な非難を押しつけたり、公共の場で恥をかかせたり、自分に同意しない人の間違いを高らかに宣言したり、大げさな感情表現を行ったりする。」と述べています。

 調査の内容は、研究チームが「道徳的スタンドプレー」を計測するための10項目の質問を行い、参加者に以下の文章に賛成するかどうかを聞きました。

  • 私の道徳的または政治的信念は、他の人を触発するものでなければならない
  • 私は、自分に反対する人たちを不快にさせるために道徳的または政治的信念を表明している

 つまり、「ネットで激しくバトルをする人たちってのは、自分の意見によって仲間からの名声を高め、さらに周囲を支配するために厳しい批判を行ってるのではないか?」とチームは推測したようです。

 3つの研究を実施して、1000人以上のアメリカ人男女に複数のテストを行いました。

  • 道徳的スタンドプレーテスト
  • パーソナリティテスト
  • 政治的ポリシーについての質問
  • 参加者たちが、政治や道徳的な問題についてどれだけネットでバトルしたか?

 すると、全体的には一貫したパターンが確認されてます。

  • 道徳的スタンドプレーレベルが高い人ほどネットで激しい言葉を使ったバトルを行う
  • 仲間からの名声を集めたい欲望は、ナルシシズムおよびビッグファイブの外向性の高さと相関していた
  • 他人を支配したい欲望は、自己愛性敵意(個人の利益のために他人を利用する傾向)と強く相関し、さらに誠実性、協調性、開放性の低さと相関していた
  • どのような政治的信念を持つかどうかは、道徳的スタンドプレーの高さとは相関がなかった
  • 道徳的スタンドプレーが高い人は、自分に賛成する人たちを盛んにリポストし、意見が違う人をからかうためにも盛んにリポストする

 つまり、ネット上で「政治は終わっている」や「日本は腐っている」などと声高に叫ぶ人は、基本的には「名声の獲得」と「他者の支配」という2つの欲望で動いてるのではないか?ということが考えられます。

 もちろん、以上の知見はすべて自己申告のテストで得られたものなので、解釈に限界はありますが。

ネット上にネガティブなコメントを書き込む人は、Sっ気がある

 かつて「ネットを荒らす人って、要はどんな性格なの?」か調査した研究が行われ、被験者にネットの使い方を聞いてみたところ、「荒らし」の割合はネットユーザー全体の5.6%程度だったことが分かりました。

 よくネットといえば、誹謗中傷の問題が騒がれますが、問題を引き起こしてるのは全ユーザーのたった5.6%程度で、残りのネットユーザーの大半は、たんに「ネットを見てるだけ」で、特にアクションを起こさない人たちでした。

続いて、その「荒らし」たちに性格テストを行ったところ、以下のような偏りが出ました。

  • マキャベリアン=他人を操ったりダマそうとする性向
  • ナルシシズム=自己チューで自分が大好き
  • 精神病質=他人への共感や後悔の感情がない
  • サディズム=他人を苦しめるのが楽しくてしょうがない

 これについて研究者は「『荒らし』は単に楽しんでいるだけなので、一般的に行われる対策(承認制とかIPで弾くとか)は効果が薄い可能性がある。なぜなら、その行為は『荒らし』の神経を逆撫でしているからだ」とコメントしています。

 とりあえず、『荒らし』を見かけたら、むやみに近づかない方が無難です。

あなたがオンラインで嫌な奴なら、オフラインでも嫌な奴かも?

 「荒らしってどんな人なの?」という調査に対して有名な心理学者である、アダム・グラント氏が以下のような文章をツイートしていました。

 インターネットが人々を荒らしに変えているわけではない。たんにインターネットが荒らしを目立たせているだけだ。

 8000人以上の被験者を対象にした、8つの研究による結論。もしあなたがオンラインで嫌な奴なら、おそらくあなたは人の前でも嫌な奴だ。

 荒らしは注目を集めるために攻撃性を選ぶ。エサを与えるよりも無視したほうがいいだろうね。

アダムグラントが参照した研究はオーフス大学などの研究チームによるもので、8434人を対象に8種類の調査と実験が行われました。

 簡単に言うと、みんなにネットで攻撃的な行動をしたかどうかを調べ、以下のような質問を尋ねたようです。

  • 過去30日間に、政治的なコンテンツやコメントをオンラインで投稿ししたが、サイトのガイドラインに違反して警告を受けたり、削除されてしまったり、後になって後悔したり、周囲から攻撃的だと受け取られたりしたことがありますか?
  • 過去30日間に、オンラインにおけるテキストベースの政治討論で、政敵をからかったり、他人が傷つくようなコメントを投稿したり、他人をいじめたりしたことがありますか?
  • 過去30日間に、オフラインの対面で行った政治の討論で同様の発言をしましたか?

 ネット上の政治的な議論はとかく罵り合いに発展しがちですけど、オンライン上で攻撃的な人は、果たしてオフラインでも攻撃的なのか?を調べたわけっすね。

 またこの研究では、以下のような文章に賛成するかどうかも尋ねています。

  • たとえ暗殺される危険性が高くても、有名な権力者になってみたい
  • 危険な場所で金持ちや権力者として生きるよりも、安全な場所で普通の人として生きる方がいい

 この質問の意図は、近年の研究では「地位を求める傾向が高い人ほど、大義のために他人を攻撃したり、暴力を支持する傾向がある」という報告が多いからです。

 ネットでケンカをくり返す人は、もしかしたら地位への欲求に取り憑かれているのでは?と研究チームは考えたわけですね。

 そしてすべてのデータをまとめたところ以下のような結果になりました。

  • オンラインとオフラインの攻撃性には違いがない(ネットで攻撃的な人はオフラインでも攻撃的)
  • 政治的な議論で攻撃的になる人は、やっぱりステータスを求める欲求が強かった

 つまり、ネットで嫌な人は現実でも嫌な人であり、その背景には「他人の上に立ちたい」という欲望があるという話です。

 これについて研究チームは、「攻撃性は、不幸な状況によって引き起こされる事故ではない。(攻撃的な人々が)オンライン上で欲しいものを手に入れるために用いる戦略なのだ。ネット上の憎しみは無知から生まれるものではないため、教育で取り除くことはできない。敵対的な人々は、自分の言葉が人を傷つけることを知っているからこそ、その言葉を使うのだ。我々は、特定の議論ごとに何がOKで何がNGなのかを説明し、モデレーターを使うなどして、そのルールを取り締まることが必要だと考えている。」

誰もが「ネットの荒らし」になり得る時代になった

 スタンフォードとコーネル大の共同研究では、2つの調査で構成されており、1つ目は667人の男女が対象の実験です。

 まず全員に「解くのが難しいクイズ」と「解くのが簡単なクイズ」のどちらかに挑戦してもらう
クイズが終わったあと、全員の「気分」を採点してもらいました。

 そして実験用のニセニュースを用意して、その記事の内容は同じだが「コメント欄に誰も書き込んでいない状態」と「すでに荒らしコメントが3つ付いている状態」の2パターンを用意しました。

さらに参加者にどちらかの偽のニュースを読んでもらい、「最低でもひとつ以上のコメントを残してください」と指示しました。

 要するに、参加者の環境によって「荒らしたい欲求」が活性化するかを調べたのです。

 するとその結果は以下の様になりました。

  • 簡単なクイズ+コメントがない記事を読んだグループ=35%がネガティブなコメントを残した
  • 難しいクイズだけを受けた、または荒らしコメントがついた記事だけを読んだグループ=50%がネガティブなコメントを残した
  • 難しいクイズ+荒らしコメントつきの記事を読んだグループ=68%がネガティブなコメントを残した

 難しいクイズで気分が落ち込んだときに、さらに「他人も荒らしてる」という状態であれば、その人も荒らしになってしまう確率は急上昇するそうです。

 いわゆる「ムシャクシャしてやった。今は反省している」という状態です。

 もうひとつの研究は、CNNニュースのコメント欄を使ったもの。2012年から約115万ユーザーのコメント2600万件をピックアップして、以下の2つで選り分けました。

  • どれぐらい荒らしレベルがヒドいか?
  • 荒らしコメントが書き込まれた時間

 どうしてコメントの投稿時間を調べたかというと、過去の研究により、ヒトの気分は時間と曜日に大きく左右されることがわかっているからだそうです。

 具体的には、多くの人は日中と週末のほうが、夜間や平日よりもポジティブな傾向があるとのことです。

そして結果は研究者の推測の通り、夜間や月〜火曜日あたりに荒らしコメントが増えていく傾向が見られたようです。

 また、ひとつネガティブなコメントが出ると、あとは雪崩式にコメント欄が荒れていくパターンも確認されたとのこと。

 これまでの研究では「ネットを荒らすようなヤツは単純に嫌な性格なんだ!」ってデータもありまして、こちらもまた真実ではありましょう。ただし、以下のような形で炎上が拡大している可能性は考えられます。

  • サイコパスやサディストが荒らしの先陣を切る
  • たまたま嫌なことがあった人がそれを見る
  • 内なる荒らし心が発動!

「コラム」ツイフェミは女性差別を拡大させる?

 これはセントルイス大学の研究で、被験者を2つのグループにわけて、一方には「女性差別は珍しい現象です」と伝えて、もう一方には「女性差別は一般的な現象です」と伝えたんですね。その後、全員に女性への認識をたずねたところ、「差別は一般的だ」と言われたグループは、女性は仕事に向いてないと答える確率が上がったそうな。

また、この論文では、経営者を対象にした実験も行われたんですが、やっぱり結果はおんなじ。「差別は一般的だ」と言われた経営者は、その後のアンケートで女性は採用したくないと答える確率が28%もアップしたらしい。

 こういった現象が起きるのは、人間には無意識のうちに大勢に従っちゃう傾向があるので、という心理が働くようです。

  • 女性差別は一般的な現象だと知らされる
  • 無意識に「女性差別は社会的に認められた現象だ」と変換される
  • 女性差別は気にしなくてもいいという気分になる
  • 女性差別が悪化する

 しかし同論文では解決策も示されており、「女性差別は一般的な現象です」と伝えたあとで、「しかし、多くの人はその偏見を克服しようと頑張っています」と付け加えたところ、女性を採用したいと答える人の確率が28%アップしました。

思わず大勢につきたくなっちゃう心理を利用したわけですね。

 ちなみに、過去にも似たような話がありまして、学生の飲酒を減らすには、たんに「飲酒の事故が増えてます」と注意するよりも、 「優秀な学生ほど酒を飲んでいない」と教えたほうが成功率は高かったとか、いろんな面で応用が効きそうなテクニックです。

参考文献

・Brubaker, Pamela Jo, et al. “The Power of Schadenfreude: Predicting Behaviors and Perceptions of Trolling Among Reddit Users.” Social Media + Society, Apr. 2021, doi:10.1177/20563051211021382.

・BOR, A., & PETERSEN, M. (2022). The Psychology of Online Political Hostility: A Comprehensive, Cross-National Test of the Mismatch Hypothesis. American Political Science Review, 116(1), 1-18.

・Duguid, M. M., & Thomas-Hunt, M. C. (2015). Condoning stereotyping? How awareness of stereotyping prevalence impacts expression of stereotypes. Journal of Applied Psychology, 100(2), 343–359.

・Erin E. Buckels, Paul D. Trapnell, Delroy L. Paulhus,Trolls just want to have fun,Personality and Individual Differences,Volume 67,2014,97-102,0191-8869.

・Feinstein, Brian A., et al. “Rumination Mediates the Association Between Cyber-Victimization and Depressive Symptoms.” Journal of Interpersonal Violence, vol. 29, no. 9, June 2014, pp. 1732–1746.

・Naomi Craker, Evita March,The dark side of Facebook®: The Dark Tetrad, negative social potency, and trolling behaviours,Personality and Individual Differences,Volume 102,2016,79-84, 0191-8869.

・https://files.clr3.com/papers/2017_anyone.pdf

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