砂糖の真実: 中毒性の神話と健康への真の影響

 「砂糖で中毒になる」という主張は、一時期SNSやメディアで広がり、多くの人々に誤解を与えた話題の一つです。

 しかし、科学的にはこの主張に根拠はなく、砂糖が脳内の報酬系を刺激し、依存を引き起こすという考え方は誤りです。

 実際に、砂糖の過剰な摂取は、肥満や糖尿病、歯の腐食などの健康問題を引き起こすことが知られていますが、中毒性はありません。

 ただし、人は甘いものに対して好みを持ち、その好みが摂取量に影響を与える場合があるため、注意が必要です。

 砂糖の摂取量を適切に管理し、バランスのとれた食事を心がけることが、健康の維持につながると言えます。

本当に砂糖を食べすぎると頭が悪くなる?

 砂糖が頭を悪くする原因は、脳のBDNFを減らす可能性があるからで、BDNFは脳から分泌されるタンパク質の一種で、これがないと脳は新しいことを覚えられなくなってしまいます。

 BDNFは運動やブルーベリーなどで増えることがわかってますが、逆に糖尿病やインスリン抵抗性が高い人のように糖代謝に異常がある人は、どんどん分泌が減っていくことが知られております。

 これは2000年の初頭から言われてきたことでして、高脂肪と砂糖を食べ続けたマウスは、脳の記憶と学習をコントロールするエリアが小さくなってしまうようです。

 さらに2014年の論文によれば、マウスに糖分(砂糖や果糖ブドウ糖液糖)が入ったジュースを飲ませ続けさせたところ、脳に炎症が起き、学習能力が完全に破壊され、いったんこの状態になると、脳がおとろえていきまして、修復も難しくなるようです。


 もちろん、以上の論文はいずれも動物実験ですし、1日の摂取カロリーの25〜40%も糖分にしてありますので、普通に生活している限りは、そこまで心配する必要はなさそうです。

 ただし、「人間は脳から太っていく」でもご紹介したとおり、砂糖には慢性的な食べ過ぎをうながす作用がありますので、気を抜くとガンガンと消費量が増えていくのが怖いところ。

「糖質にはドラッグと同じ中毒性」は本当か?

 糖質の中毒性を実証したデータって、いまのところマウス実験しか存在しておりません。

 代表的なのは2008年の実験で、マウスたちに断続的に砂糖をあたえ続けたところ、大量のドーパミンとオピオイド(モルヒネに近い脳内麻薬の一種)が分泌され、実験を止めたあとには、砂糖の禁断症状まで確認され、ドラッグ中毒にそっくりな状態になっちゃった模様です。

 ところが、ヒトを対象にした研究では同じ現象が出てきませんでした。

 有名なのは、肥満研究で有名なアキム・ピータース博士が2012年に出したレビューです。

 ここで博士は、過去に行われた糖質とドーパミンに関する実験を再検討しつつ、『動物実験で「糖質中毒」が見られたという事実を、軽はずみに人間の肥満の原因として当てはめるべきではない。』と言いきっております。

 個人的にも、マウスで糖質中毒が見られたのは、そもそも実験デザインに問題があるので、砂糖の悪影響とは言い切れない可能性も指摘されています。

 糖質研究で有名なデビッド・ベントン博士の論文でも結論は同じで、『ヒトを対象にした研究で、糖質が身体的な中毒症状を引き起こし、摂食障害につながることを実証したデータはなかった。』

 ベントン博士によれば、過食障害をわずらった人の一部には、砂糖中毒に近い症状も見られるものの、多くの人にとっては考えるほどのレベルではありません。

砂糖でどこまでデブの原因になってる?

 「トータルの糖質の摂取量はデブと関係があるのか?」という疑問については、ほぼ否定されております。

 たとえばジェームズ・ヒル博士が1995年に出したレビューによれば、『糖質、とくに精製された砂糖は、肥満の原因だとみなされている。しかし、実際の疫学データを見れば、この主張は間違いだ。ほぼすべての研究データは、高炭水化物や砂糖が多い食事をとる人ほど体重が少ないことを示している。しかも、この相関関係は決して小さなものではない。』

 実際のところ、「糖質をとるほど逆に体重は少ない!」って観察データのほうが多いです。

 ポイントは以下のようにまとまります。

  • 加工食品や外食で糖質をとりすぎるとヤバい!
  • ただし、それはあくまで食べ過ぎちゃうのが原因
  • 肥満の原因はあくまでカロリー

 しかし、最近はWHOが「遊離糖の摂取を減らそう!」というアナウンスを出してますし、そのへんは意識しとくといいかもしれません。

砂糖を食べると食欲が増えて食べすぎるは本当?

 アバディーン大学の研究で、33歳前後で健康な29人の男女(そのうち76%は女性)に2パターンの食事を指示しました。

  • 32gの砂糖を添加した朝食
  • 8gの砂糖しか入ってないおかゆ

 実験はクロスオーバー形式で、全員が上記の食事の両方を3週間ずつ交代で食べました。

 もちろん、2つの食事はカロリーが等しくなるよう調整されております。

 ここで調査したのは以下の項目です。

  • 空腹感
  • エネルギー摂取量
  • 代謝マーカー

 計6週間にわたって毎日のカロリー摂取をモニターしたらしい。

 そして結果は以下の様になりました。

  • 参加者の1日あたりの糖質摂取量は、砂糖を加えた朝食を食べた時は287g、砂糖を加えない朝食を食べた時は256gだった(P = 0.009)
  • 砂糖が多い朝食を食べた場合のカロリー摂取量は1日あたり9,908kJ、砂糖を加えない朝食を食べた時は1日あたり9,393kJだった
  • どっちの朝食を取った場合でも、参加者の体重、安静時代謝率、満腹感、身体活動エネルギー消費量、総コレステロール、 空腹時血糖 には違いがなかった

 砂糖の量が食欲の増加に関係することもなく、1日の摂取カロリーも増えなかったようです。

 これについて研究チームは、『砂糖の多い朝食は、特に甘いものへの欲求をかき立てることはなかったし、同時にその後のカロリー摂取を減らすわけでもなかった。朝食で砂糖をたくさん食べても、食欲のコントロール能力に影響を与えることはないようだ。』

 この実験では、砂糖による悪影響はみられなかったわけですね。

 なんだかんだで、砂糖が多い朝食の方が1日あたり225 kcalの違いが出てる(ただし、明確に「違いがある!」と言うには参加者の数が少なすぎる)


 食品の記録が不正確な感じがするので、カロリー摂取量の推定にエラーがある可能性もそこそこ高いので「この研究じゃ決定打とは言えない」という感じです。

「糖質を摂ったほうが頭が働く」は本当なのか

オタゴ大学の実験で、研究チームは以下のようなかことを述べています。

『ブドウ糖を飲むと脳の海馬エリアに影響があり、若者でも高齢者でも、記憶力テストの成績が良くなることはよく知られている。この傾向は、代謝に問題があったり(糖尿病とか)、神経疾患(パーキンソン症候群とか)を抱える者にほど顕著だ。ところが一部の研究では、ブドウ糖による認知機能への影響については食い違った結果が出ている。なかでも、ワーキングメモリ、反応速度、注意力、顔の認識力といったタスクについては、ブドウ糖の影響はよくわからない。たとえば、いくつかの実験では、脳の情報処理スピード、注意力、ストロープテストの成績が上がったとの報告が出ている。ところが、その他の実験では、ブドウ糖でまったく変化がなかったか、逆に悪影響が出たとの報告も少なくない。』

つまり「糖質が頭にいいのか悪いのか分からない」ということです。

この「食い違い問題」が起きる原因については、「認知テストの違い」や「ブドウ糖とフルクトースの違い」が指摘されていますが、こちらも原因が不明です。

とにかく砂糖の擁護派も否定派も、みんな少ないデータをもとに適当なことを言ってるのが現状と申せましょう。


そんな状況下でこの研究が何を調べたかと言いますと、まずは実験デザインは以下のような感じです。

  • 参加者は49人の男女。平均年齢は22.6才でBMIは17.6 – 32.7 kg/m2ぐらい
  • 調査に使われた甘味料は、ブドウ糖、果糖、スクロース(砂糖の主成分)、スクラロース(人工甘味料)の4種類
  • 4種類の甘味料を飲んだあとで、刺激への反応速度、計算能力、ストループテストをやってもらい、認知機能の変化を調べる
  • 実験期間は16週間で、それぞれの甘味料につき4週間にわたってデータを集める

いろんなタイプの糖質と認知テストを組み合わせて、どんな変化が出るかを調べました。

計算能力やストループテストなどは、いずれも前頭前野の能力を計るテストとしては定評の方法であります。


さて、結論が以下の様になりました。

  • ブドウ糖とスクロースは、有意に認知テストのパフォーマンスを下げた。いっぽうで、果糖と人工甘味料には、そのような悪影響は見られなかった (p<0.05)。

なんと、砂糖やブドウ糖では脳機能が一時的に下がり、果糖と人工甘味料にはなんの問題もないという結果であります。

また、この実験では「空腹時」と「食後」でも効果の違いをくらべてまして、お腹が空いた時間が長くなるほど、ブドウ糖&砂糖による認知テストの低下率は大きかったとのこと。

もちろん、この実験はあくまで短期的な変化しか比べいなので、長期的な影響は不明です。

また、ブドウ糖と砂糖で認知機能が下がる理由もよくわかりませんが、とりあえず「脳を働かせるために定期的に何かを食べよう」といったアドバイスに従う必要はありません。

そもそも、脳が正常に動くのにそこまで大量の糖質は不要なので、普通に食事をしてれば、あえて追加で補う必要もないです。

砂糖は麻薬やコカインと同じ中毒性?

有名なところでは、「『砂糖』をやめれば10歳若返る!」の白澤卓二さんとか、

糖質が脳へダイレクトに影響を与える物質だからです。

白砂糖や炭水化物を摂ると脳のA10神経系というところが刺激されます。すると、ドーパミンという物質が分泌されて、強い快感をもたらします。

このメカニズムは、コカインなどのドラッグを服用したときとまったく同じです。糖質の摂取時とコカイン摂取時で脳の同じ回路が使われていると考えれば、その中毒性の恐ろしさがわかっていただけるのではないでしょうか。

「『砂糖』をやめれば10歳若返る!」より

「炭水化物が人類を滅ぼす」で有名な夏井睦さんとか、

糖質摂取者の体内では、糖質摂取直後に「何か」が上昇して精神的満足を生み出し、その後にその「何か」が低下した時に、精神的飢餓感が発生しているはずだ。それは何だろうか。

その「何か」とは血糖だろう。糖質摂取直後に起こる血糖の急激な上昇が、食後の陶酔感と幸福感をもたらし、その後に血糖値が低下し始めると、体は「血糖切れ」状態となる。すると、喫煙者がニコチン切れでタバコを欲するように、糖質摂取者は血糖切れでイライラし始め、糖質を食べたくなる。

「 炭水化物が人類を滅ぼす 」より

かなり恐ろしげな言葉がならんでおります。これが事実なら「やはり糖質は悪!」って話になっちゃいますが、個人的には、この説はどうにも怪しいのではないかと。

2017年にマーストリヒト大学が行った研究で、1495人の学生を対象に「なんらかの食事に関する依存症はあるのか」と質問した上で、BMIとの関連がどれぐらい調べました。

その結果、以下のようなことが分かりました。

  • 95%の学生は何らかの食品に依存した経験がある
  • 依存しやすい食品としてもっとも多いのは砂糖と脂肪が組み合わさったもの
  • 砂糖だけの食品に依存を起こすケースは少ない
  • 結局、太った学生は「砂糖+脂肪」の消費量が大きく、主に砂糖だけをふくむ食品は肥満との相関がなかった


これについて研究者は、『今回のデータは、砂糖が多い食品は依存性が低く、肥満のリスクにもなりにくいことを示している。過去の研究と合わせてみれば、食べ過ぎをもたらすのはカロリーの密度と、それぞれの個人の環境によるところが大きいだろう。』

さらにケンブリッジ大学が出したレビュー論文で、過去に行われた砂糖中毒に関する実験データをまとめたものです。

以下にポイントだけ書きだしました。

  • 人間が砂糖依存を起こすという証拠は存在しなかった。
  • 動物実験のデータを見ると、確かに砂糖中毒のような行動はみられる。しかし、それはあくまで断続的に砂糖へアクセスできる環境があったときだけだ。
  • 砂糖中毒のように思える行動は、報酬が多い食品が断続的に手に入る環境によって引き起こされる。決して、砂糖に神経科学的な作用があるわけではない。

つまり、砂糖で脳がおかしくなるような事実はなくて、たんに「お菓子屋が近所にある」とか「戸棚にケーキが置いてある」といった環境によって依存っぽい行動が起きるようです。


つまり、砂糖を減らしたいときは、別に難しいことを考えなくても「飲み物とお菓子を遠ざければ間食は減る」といった問題なさそうです。

普通に考えても、砂糖にそこまで中毒性があるなら、最強のお菓子は角砂糖ということになりかねませんしね。

参考文献

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・Markus, C Rob et al. “Eating dependence and weight gain; no human evidence for a ‘sugar-addiction’ model of overweight.” Appetite vol. 114 (2017): 64-72. doi:10.1016/j.appet.2017.03.024

・Mitra, Anaya et al. “Chronic sugar intake dampens feeding-related activity of neurons synthesizing a satiety mediator, oxytocin.” Peptides vol. 31,7 (2010): 1346-52. doi:10.1016/j.peptides.2010.04.005

・Molteni, R et al. “A high-fat, refined sugar diet reduces hippocampal brain-derived neurotrophic factor, neuronal plasticity, and learning.” Neuroscience vol. 112,4 (2002): 803-14. doi:10.1016/s0306-4522(02)00123-9

・Peters, Achim. “Does sugar addiction really cause obesity?.” Frontiers in neuroenergetics vol. 3 11. 13 Jan. 2012, doi:10.3389/fnene.2011.00011

・Te Morenga L, Mallard S, Mann J. Dietary sugars and body weight: systematic review and meta-analyses of randomised controlled trials and cohort studies BMJ 2013; 346 :e7492 doi:10.1136/bmj.e7492

・Westwater, Margaret L et al. “Sugar addiction: the state of the science.” European journal of nutrition vol. 55,Suppl 2 (2016): 55-69. doi:10.1007/s00394-016-1229-6

・https://medicalxpress.com/news/2014-10-sugar-linked-memory-problems-adolescent.html

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