
子供への体罰は、家庭や教育環境において重要な問題となっています。
近年の研究からは、体罰が子供たちの健康や精神的な幸福に甚大な悪影響を及ぼす可能性があることが明らかになっています。
特に、IQの低下と攻撃性の増加といった問題が浮き彫りになっています。
この記事では、子供への体罰がもたらす影響についてその深刻さを明らかにしていきます。
体罰は人間の暴力性を加速させる

日本はわりと今も体罰に寛容な国だと考えられており、「学生を躾けるためには仕方ない」という意見も根強く残っています。(個人的に40後半~50代前半くらいに多い印象があります。あと体罰を称賛する人ほど、パワハラをしたり問題行動が多い気がします)
つまり、「言葉よりも肉体的な罰のほうが効果が高い」みたいな考え方です。
この問題についてシステマチックに「体罰の有効性」を調べてたのがマギル大学の研究で、世界の88カ国からおよそ 400000人分のデータを処理しました。
ここでは、各国の体罰に対する態度を以下の3パターンに分けています。
- 家庭でも学校でも法律で体罰が禁止されている国=30カ国
- 体罰禁止の法律が存在しない国=20カ国
- 学校だけは体罰が禁止されている国=38カ国
これに各国の子どもたちが「どれぐらい暴力的な行動をしたか?」を数値と照らし合わせて、体罰との相関をチェックしました。
調査の結果、具体的に数字は以下の通りになっています。
- 「体罰が全面的に禁止の国」は「体罰を容認してる国」と比べて、子どもの暴力が男性は69%も低く、女性は42%も低い
- 「体罰が全面的に禁止の国」と「学校だけ体罰禁止の国」を比べた場合は、女性の場合は体罰禁止の方が暴力が56%低く、男性には違いがなかった
この傾向は、各国の「裕福さ」や「犯罪発生率」を調整しても残ったそうで、どうも体罰って子供を暴力的にしてるだけなんじゃないか?という疑問が出てきました。
また調査を行った研究者は以下のように述べています。
この調査では体罰と暴力の因果関係はわからない。「体罰は良い教育法ではない」という考え方が社会的に受け入れられた国ほど、積極的に体罰禁止の法律を作るだろう。他の文化的な要因も考えられるため、はっきりとは言えない状況だ。
ここでは「体罰が暴力性を上げる」という点については可能性の1つだと強調してます。
とは言いつつも、さらに研究者は以下のように強烈な批判も展開しています。
ときどき「体罰にも良い面があるはずです。そこを探したらどうですか?」と言われることがある。しかし、私たちはすでに体罰のメリットも探している。そのうえで、体罰には何のメリットも認められなかったのだ。体罰とは、単に暴力の方法を教えているに過ぎない。
子供時代の体罰は成人なるほど悪影響が大きい

新たな分析では「子供時代に体罰を受けた人は成長して精神の問題とIQの低下を起こす」という結論になっています。
これはロンドン大学が行ったナラティブレビューで、体罰のメリットとデメリットについて調べた過去の69件のデータをまとめたもの。
メタ分析は行われてないものの、その知見は参考になると考えていいでしょう。
まず調査の結果を簡潔にまとめると、以下のようなデータが挙げられています。
- 子供をいくら叩いても、悪い行動は防げない
というか、親が体罰をすればするほど、その結果として子供の行動は悪化する - 子供の頃に親から叩かれると、大人になってからIQが低下する可能性がある
- 子供の頃に親から叩かれた人は、大人になってから気分が沈み、お酒を飲み過ぎたり、違法薬物を使用したり、自殺未遂をする可能性が高い
つまり体罰は子供に悪影響どころか、大人になってからも悪影響を及ぼすという結果になっております。
調査を行った研究チームは以下のようなことを述べています。
体罰が子どもにとって良いという証拠はない。すべての証拠は、体罰が子どもの発達と幸福に有害であることを示しています。
「体罰は子供に悪影響しかもたらさない」というメタ分析

テキサス大学とミシガン大学の調査では、過去に行われた「子供を叩くとどうなるか?」という点について調べた研究から50年におよぶ160927人のデータを分析しました。
ちなみに、今回のデータも信頼性は高めです。
今回、使用されたデータは観察研究とRCTの両方を活用していて、短期と長期の両面から体罰の問題をチェックしました。
またここでいう体罰は主に「平手打ち」のことで、「悪いことをした子供をビンタで叱り続けるとどんな影響が出るのか?」 をチェックしました。
まず、結論を並べると以下のようになっています。
- ビンタは子供を攻撃的な性格に変え、反社会的な行動を増やす
- ビンタは子供にとって身体的な虐待と変わらない影響を持ち、メンタルヘルスも悪化させる
- ビンタにポジティブな影響はなにもなし
また調査を行った研究者は以下のように述べています。
子供への体罰は、あらゆる好ましくない結果を引き起こす可能性を高める。親の希望とは完全に逆効果でしかないのだ。にも関わらず、世界ではおよそ80%の親が日常的にビンタを使ってるそうで、なかなか困ったもんです。
今回の研究により、すべての親が体罰の悪影響に気づいてくれると望ましい。そのうえで、よりポジティブで懲罰に頼らずに、子供へ自制心を教える方法を使って欲しい。
やはり体罰は子どもに悪い影響しかない

「体罰には百害あって一利なし」というデータを多数紹介してきましたが、ここでも新たな分析によって、体罰のデメリットを強調するという結果が得られています。
こちらは、1950年から2017年までに世界97カ国から集めたデータを分析したもので、まずは結果は以下のようなものになっています。
家庭、学校、保育所などのどんな場面でも、体罰を容認しているところでは、15歳から19歳の女性の自殺者がほぼ2倍になっている。10歳から14歳の男子の自殺率は68%高かった。
体罰を禁止した学校では、禁止が決まってから約12~13年で、15~19歳の男女ともに自殺率が低下していた。
特に自殺は青少年の死因の第一位であるため、体罰が思春期の自殺の危険因子のひとつとして明確になったのは良いことです。
ちなみに、ここでは体罰を以下のように定義しておられます。
- 行動の矯正やコントロールの手段として、物理的な力を使って意図的に子供に苦痛を与えること(怪我はさせない)。一般的な方法には、スパンキング、平手打ち、叩くなどがある。
体罰は自殺率を上げるだけでなく、子どもの攻撃性をアップさせ、メンタルヘルスを損ない、親子の絆を壊すって証拠もあるそうです。
とにかく幅広い面で悪い影響があると言えます。
参考文献
・Elgar FJ, Donnelly PD, Michaelson V, et alCorporal punishment bans and physical fighting in adolescents: an ecological study of 88 countriesBMJ Open 2018;8:e021616. doi: 10.1136/bmjopen-2018-021616.
・Gershoff ET, Grogan-Kaylor A. Spanking and child outcomes: Old controversies and new meta-analyses. J Fam Psychol. 2016 Jun;30(4):453-69. doi: 10.1037/fam0000191. Epub 2016 Apr 7. PMID: 27055181; PMCID: PMC7992110.
・Laura Cramm, Frank J. Elgar, William Pickett,Corporal punishment bans and adolescent suicide rates:An international ecological study,Child Abuse & Neglect,Volume 137,2023,106022,0145-2134,https://doi.org/10.1016/j.chiabu.2023.106022.
・【Physical punishment and child outcomes: a narrative review of prospective studies】
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00582-1/fulltext
・【子どもに対するしつけのための体罰等の意識・実態調査結果報告書】
https://www.savechildren.or.jp/jpnem/jpn/pdf/php_report201802.pdf