実は効果が不明なもの3選「水分は二日酔に効く説・腰痛と背筋を伸ばせ説・水風呂は体に良い説」

 日常生活において、様々な健康に関する情報で溢れています。

 しかし、中には一見合理的に思えるものの、実際の科学的根拠が不明確な情報も存在します。本記事では、特に「水分は二日酔に効く説」・「腰痛と背筋を伸ばせ説」・「水風呂は体に良い説」といった健康に関する説に焦点を当て、それらの効果や科学的根拠について詳しく探求していきます。

 一般的な信念や説が実際にどのように検証されているのかを明らかにし、効果が明確でないとされる健康に関する情報について、その根拠に光を当てていきましょう。

二日酔いの対策は存在しない

 「酒を飲む時は必ず水を飲んだ方が良い」というアドバイスは、昔からよく聞くアドバイスですね。

 このような説が出てきたのは、かつては「二日酔いは脱水症状によって起きる」と考えられたからです。

 以前から「アルコールの代謝には水分が必要なので、酒を飲むほど脱水が進み、それによって二日酔いが起きる」と考えられていました。

 ただ、2010年代に行われた研究をいくつか参照してみると、水を飲んでも二日酔いには効果が薄いという結論が多いです。

 いかに大量に水を飲もうが、電解質やビタミンを補給しようが、翌日の二日酔いは軽減しないらしいんですな。

 この結果は、世界中の二日酔い研究者が結束して行った2020年代の研究でもあきらかにされていて、って結論になってます。

  • 二日酔いになるかどうかと、二日酔いの症状が重いかどうかに脱水は関係ない
  • 二日酔いの辛さと関係しているのは、アルコール代謝とアルコール摂取にともなう炎症反応である

 もちろん、脱水が進むと体は辛くなるので、「水を飲んだ方が良い」というアドバイス自体が悪いとは言えませんが、「水をえたくさん飲めば二日酔いは防げる」という説はシンプルに間違いでしょうね。

 また、「二日酔いの原因はアセトアルデヒドにある」という説も近年では怪しい情報です。

 アセトアルデヒドってのはアルコールが分解される物質で、毒性が強いので二日酔いの最大原因だと言われてきました。

ところが、ユトレヒト大学が行った2020年の研究では、アルコール代謝を研究した結果、二日酔いの有無と重症度を決定するのはアセトアルデヒドの量ではなく、エタノール自体の量が重要であるという結論になりました。

 エタノールは脳のバリアを通過して脳に入り込むのに対し、アセトアルデヒドは脳のバリアで弾かれますので、その点が違うところでしょう。

 こう考えると、アセトアルデヒドと二日酔いの関係は昔から言われている程には強いものとは言えませんね。

 実際、エタノールの代謝が早い人ほど、脳に入るエタノールが少ないので、二日酔いの重症度が低くなるという報告もあります。

 ただし、これは「アセトアルデヒドは全く悪くない」という話ではないのでご注意ください。

 アセトアルデヒドが肝臓の酸化ストレスを増やしますが、そこで起きた炎症反応が二日酔いにつながる可能性はありますが、やはり我々が考えているよりもアセトアルデヒドは二日酔いに関係してない点です。

 また、二日酔いに対する具体的な対策としては、現在時点では「確立された対策無い」としか言えないところです。

 そもそもまともな二日酔い研究自体が多くなく、 クイーンズランド工科大学の系統的レビューでは、二日酔いを調べたとしても、時代遅れの理論をベースにしていて意味がなくなっているという結論になっています。

 どうやら二日酔いを調査したほとんどの研究は、二日酔いの重症度を不適切に評価しているし、サンプルサイズが小さいし、または誤った統計量を使用しているケースもあるようです。

 また「二日酔いを改善する方法」と題する研究の大半は、特定の二日酔い症状(吐き気や倦怠感など)にフォーカスしており、全体的な二日酔いの重症度を評価していないという問題もあります。

 似たような結論は、キングス・カレッジ・ロンドンの系統的レビューでも出ており、こちらは「いまのところ見込みがありそうなのは、クローブエキス、トルフェナム酸、ピリチノールの3つだが、推奨するレベルでは無い」という結論になっています。

 もちろん免疫系が二日酔い関係しているのは間違いないので、炎症反応を調節できれば症状の対策になるとは思いますが、いまのところNACのような抗炎症効果が高い成分にも効果が認められていないので、基本的には二日酔いには勝てないのではないか気になっております。

 実際、二日酔いについてはまだわかっていないことが多いので、二日酔いが起きる原因でもコンセンサスがありません。

腰痛の原因は不明

 昔から「姿勢が悪いと腰痛が起きる」とよく言われていましたね。

 実際、整体やカイロプラクティクの世界ではもはや常識です

 ほかにも、反り腰やらスウェイバックやらフラットバックやら、腰痛の原因とされる姿勢はいろいろありまして、お悩みの方も少なくないのではないかと思います。

 ところが現実の研究では「姿勢と腰痛の関係」はほとんど立証されていません。

 もちろん腰痛と姿勢の関係を調べた研究は山ほどありますが、その多くは、腰痛持ちと普通の人をあつめて骨盤や背骨などのX線写真をとり、実際の痛みとくらべてみる手法を取っております。

  • 両足の長さのバランスと腰痛の関係を調べたが、左右の足の長さが違っても腰痛は起きていなかった
  • 321人の男性を調べたところ、背骨のねじれや足の長さは腰痛のレベルとは関係していなかった
  • 首のゆがみと首の痛みには、明確な関連性が見られなかった
  • 600人を対象にした調査では、腰骨のゆがみ、骨盤のかたむき、両足の長さのバランス、腹まわりの筋肉のバランスは、腰痛のレベルとは関係がなかった
  • 姿勢が悪い若者と姿勢が良い若者をくらべた調査では、大人になってからの腰痛の発症率には差がなかった
  • 悪い姿勢で働く仕事を調べた調査でも、姿勢と腰痛には明確な関連性が出なかった

 猫背や反り腰、背骨のねじれ、骨盤のゆがみ、両足や筋肉のバランスなど、世間で言われる「腰痛の原因」がすべて否定されております。

 この結果は、1980年代から近年にいたるまでほぼ一貫してまして、どうにも「姿勢が悪いと腰痛が起きる」説を信じるのは難しいです。

 では、腰痛の1番の原因はなにかといえば、「実は心の病である」説が、かなり有力です。

 参考になるのが2008年の系統的レビューで、過去に出た「腰痛と姿勢」に関する研究54件をまとめたもので。「姿勢の悪さと痛みは関係なし」との結論となっていおり、実際は以下の要素がとても大きいそうです。

  • 仕事への満足度
  • 教育のレベル
  • 日常的なストレス
  • タバコへの依存
  • エクササイズのレベル

 あきらかに、ほぼストレスが原因になっております。

 つまり、姿勢が悪いから腰痛が起きるんじゃないくて、ストレスで腰痛が起きた人は姿勢が悪くなりがちなだけなんじゃないかという点ですね。

 世の中では「姿勢が悪いと腰痛になる」とか言われますが、この説については、実はまったく明確な証拠がないという話です。

 最近のデータも同じ結論に至っており、良い姿勢を心がけても、背中の痛みや腰痛の予防にはならないみたいになります。

 さらにカーティン大学などの研究では、姿勢と腰痛に関する昔のデータをあらためて調べ直して、この問題に関する大きな結論を出しました。

 そのポイントをいくつかピックアップすると、以下のようになります。

  • 大量の若者を調べた大規模な調査では、背中が丸まった人、ずっと猫背の人などをチェックしても、背中の痛みや腰痛とは目立った関係が見られなかった。
  • 肉体労働に従事している人を調べた研究では、腰痛に悩んでいない人ほど、実は背中を丸めた姿勢を取っている傾向があった。
  • 逆に、腰痛に悩んでいる人ほど、実は背筋を伸ばしたよい姿勢を取っていた。
  • ある小規模な研究では、腰痛の症状がやわらいだ人ほど、姿勢が悪くなる傾向もあった。

 どうやら姿勢と腰痛には関係がなく、むしろ姿勢が悪い人ほど腰痛が少ない可能性すらあると考察されています。

 では実際に腰痛に効く方法について調査を行った研究チームは以下のようなことが挙げています。

  • ストレス対策をする
  • 気分がへこんだらすぐに切り替える
  • 疲れがたまったら休む
  • よく寝る
  • 日中によく身体を動かす
  • 腰痛が不安になったら注意をそらす

 要するに、あまり心配しすぎず、普通に健康的な生活を心がけようという意味らしいです。

水風呂の効能は確立されていない

 サウナブームのおかげで、冷水浴も流行っており都内のサウナ施設では、10℃を下回る極寒の水風呂もでていますね。

 では、この冷水浴の効果は実際にはどれほどあるのかについてノルウェイ大学が、冷水浴のメリットを良いレビューを出しました。

 具体的には、過去の冷水浴に関する研究から104のデータを調査したもので、一般的な水風呂や寒中水泳の効果を掘り下げてくれてます。

 水風呂の効果を示したデータはいくつかあるんだけど、正味な実力をガッツリと調べたものは少ないのでありがたいところです。

 大きな結論からまとめると、主筆のジェームズ・マーサー先生は以下のようなことを述べています。

冷たい水に身をさらすことで、いくつかの健康効果を得られる可能性を示した科学的なデータが増加している。冷水浴によって、生理的・生化学的パラメータが変化を起こすことは、多くの研究で実証されていない。

しかし、これらが健康にとって本当に意味があるかどうかについては、評価が難しい。冷水浴に関する複数のデータをレビューしてみると、定期的な冷水浴で得られると言われる健康上のメリットの多くは、因果関係がない可能性がある。

冷水浴で得られるメリットとは、アクティブなライフスタイル、ストレス処理のうまさ、社会的な交流の多さ、ポジティブな考え方など、他の要因によって説明できる可能性が高い。

 ということで、先生が主張するポイントをざっくりまとめると、

  • いまの時点では、冷水浴に関するデータはイマイチなものが多く、これといった結論は出せない。
  • ただし、いろいろとデータを総合してみると、冷水浴の効果って、冷水そのものが原因じゃない可能性がある。

 まだ明確なデータがないので、冷水浴のメリットについては何も言えず、どちらかというと「冷水は体に良い」というわけではなく、「冷水を浴びれるような人はもともと元気ではなか?」という可能性のほうが高いのではなかという結論です。

 例えばビクトリア大学などが2014年に行ったテストでは、健康な男性30人を集めたうえで、全力のサイクリング(自転車で30秒×4回の全力疾走)を行った後、3つのグループに分けました。

  • アイスバス(10℃前後)
  • ぬるめのバスコントロール(35℃前後)
  • プラセボ(新開発の「リカバリーオイル」の効能を詳しく説明した偽のパンフレットを見せ、運動能力の回復に氷浴と同等の効果があると信じ込ませる)。

 すると、アイスバスとプラセボを実践したグループは、運動から48時間後の筋力の回復が同じレベルだったそうです。

 また、温浴コントロールと比較した場合は、プラセボの方が脚力の回復が早かったそうです。

 もちろん、研究チームも、アイスバスの生理学的な効果を否定しているわけじゃないものの、「冷水浴の効果ってもしかしたらプラセボではないか?」と考察してしています。

 もっとも、今回のノルウェイ大学のレビューでも、「冷水浴による効果があるかも?」ってとこは否定していなくて、ざっくり以下のようなメリットを推測してたりします。

  •  冷水浴をすると、褐色脂肪細胞が増える可能性はあるから、悪い体脂肪をカットし、糖尿病などの障害のリスクを減らすかもしれません。
  •  冷水浴をすると、体に一時的なストレスがかかって、体内のノルアドレナリン、β-エンドルフィン、脳内のノルアドレナリンの量が増えるから、メンタルヘルスと脳の発達に良い影響を与える可能性も否定はできない。冷水によって皮膚の冷受容体が刺激されて、これが抗うつ効果をもたらすかもしれないしない。
  •  冷水浴をすると水中または空気中で寒さにさらされると、脂肪組織がアディポネクチンというタンパク質の産生を増やす可能性もある。このタンパク質は、インスリン抵抗性や糖尿病などの病気から身を守るために重要な役割を担っているから、これが健康によい可能性も十分にあるよかもしれません。
  •  冬季に冷水につかったらどうなるかを調べた研究でも、参加者のインスリン感受性が有意に高まり、インスリン濃度が低下したと言われてるから、糖尿病の予防になるかもしれません。

 やはり冷水浴にはそれなりのポテンシャルがあるのだろうとは言えましょう。

 ただこれらのデータを見ても、定期的な冷水浴で現実的なメリットを得られるかどうかは定かではなく、やはり「もともと健康な人が冷水浴をやってるだけでは?」って可能性は否定できないです。

 というわけで、「プラセボの可能性もあるが、冷水浴が気持ち良い人は継続しても問題ない」ぐらいに認識しておくと良いかもしれません。

 寒冷ショックや低体温症のリスクを押さえつつ、「あくまでもリラックスがメインで、もしかしたら体に良いかもしれない」程度で望むのがよさそうです。

参考文献

・Coppersmith, V., Hudgins, S., Stoltzfus, J. et al. The use of N-acetylcysteine in the prevention of hangover: a randomized trial. Sci Rep 11, 13397 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-92676-0

・Christensen ST, Hartvigsen J. Spinal curves and health: a systematic critical review of the epidemiological literature dealing with associations between sagittal spinal curves and health. J Manipulative Physiol Ther. 2008 Nov-Dec;31(9):690-714. doi: 10.1016/j.jmpt.2008.10.004. PMID: 19028253.

・Dieck GS, Kelsey JL, Goel VK, Panjabi MM, Walter SD, Laprade MH. An epidemiologic study of the relationship between postural asymmetry in the teen years and subsequent back and neck pain. Spine (Phila Pa 1976). 1985 Dec;10(10):872-7. doi: 10.1097/00007632-198512000-00002. PMID: 2938272.

・Grob D, Frauenfelder H, Mannion AF. The association between cervical spine curvature and neck pain. Eur Spine J. 2007 May;16(5):669-78. doi: 10.1007/s00586-006-0254-1. Epub 2006 Nov 18. PMID: 17115202; PMCID: PMC2213543.

・Grundy PF, Roberts CJ. Does unequal leg length cause back pain? A case-control study. Lancet. 1984 Aug 4;2(8397):256-8. doi: 10.1016/s0140-6736(84)90300-3. PMID: 6146810.

・Kösem, Z. & Loo, Aurora & Fernstrand, Amanda & Garssen, J. & Verster, Joris. (2015). P.6.b.008 The impact of consuming food or drinking water on alcohol hangover. European Neuropsychopharmacology. 25. S604. 10.1016/S0924-977X(15)30852-X.

・Jayawardena R, Thejani T, Ranasinghe P, Fernando D, Verster JC. Interventions for treatment and/or prevention of alcohol hangover: Systematic review. Hum Psychopharmacol. 2017 Sep;32(5). doi: 10.1002/hup.2600. Epub 2017 May 31. PMID: 28568743.

・Mackus M, Loo AJV, Garssen J, Kraneveld AD, Scholey A, Verster JC. The Role of Alcohol Metabolism in the Pathology of Alcohol Hangover. J Clin Med. 2020 Oct 25;9(11):3421. doi: 10.3390/jcm9113421. PMID: 33113870; PMCID: PMC7692803.

・Mackus M, van Schrojenstein Lantman M, Van de Loo AJAE, Kraneveld AD, Garssen J, Brookhuis KA, Verster JC. Alcohol metabolism in hangover sensitive versus hangover resistant social drinkers. Drug Alcohol Depend. 2018 Apr 1;185:351-355. doi: 10.1016/j.drugalcdep.2017.11.040. Epub 2018 Feb 21. PMID: 29500954.

・Nourbakhsh MR, Arab AM. Relationship between mechanical factors and incidence of low back pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2002 Sep;32(9):447-60. doi: 10.2519/jospt.2002.32.9.447. PMID: 12322811.

・Papageorgiou AC, Macfarlane GJ, Thomas E, Croft PR, Jayson MI, Silman AJ. Psychosocial factors in the workplace–do they predict new episodes of low back pain? Evidence from the South Manchester Back Pain Study. Spine (Phila Pa 1976). 1997 May 15;22(10):1137-42. doi: 10.1097/00007632-199705150-00014. PMID: 9160473.

・Pope MH, Bevins T, Wilder DG, Frymoyer JW. The relationship between anthropometric, postural, muscular, and mobility characteristics of males ages 18-55. Spine (Phila Pa 1976). 1985 Sep;10(7):644-8. doi: 10.1097/00007632-198509000-00009. PMID: 4071274.

・Saraceni N, Campbell A, Kent P, Ng L, Straker L, O’Sullivan P. Exploring lumbar and lower limb kinematics and kinetics for evidence that lifting technique is associated with LBP. PLoS One. 2021 Jul 21;16(7):e0254241. doi: 10.1371/journal.pone.0254241. PMID: 34288926; PMCID: PMC8294511.

・van de Loo AJAE, Mackus M, Kwon O, Krishnakumar IM, Garssen J, Kraneveld AD, Scholey A, Verster JC. The Inflammatory Response to Alcohol Consumption and Its Role in the Pathology of Alcohol Hangover. J Clin Med. 2020 Jul 2;9(7):2081. doi: 10.3390/jcm9072081. PMID: 32630717; PMCID: PMC7408936.

・Verster JC, Anogeianaki A, Kruisselbrink D, Alford C, Stock AK. Relationship between Alcohol Hangover and Physical Endurance Performance: Walking the Samaria Gorge. J Clin Med. 2019 Dec 31;9(1):114. doi: 10.3390/jcm9010114. PMID: 31906222; PMCID: PMC7019771.

・Walker BF, French SD, Grant W, Green S. Combined chiropractic interventions for low-back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews 2010, Issue 4. Art. No.: CD005427. DOI: 10.1002/14651858.CD005427.pub2

・【Trends, Major Medical Complications, and Charges Associated With Surgery for Lumbar Spinal Stenosis in Older Adults】

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/185630

・【The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain】

https://www.cpdo.net/Lederman_The_fall_of_the_postural-structural-biomechanical_model.pdf

最新情報をチェックしよう!