アルコール摂取の真実:健康への影響と科学的見解

 酒にはアルコールが含まれており、度を超えると肝臓や脳に悪影響を与えることが知られています。

 しかし、実際にどの程度の量が身体に悪影響を与えるのか、多くの人々は知らないことがあります。

 近年の研究により、酒が身体に与える悪影響やその程度が明らかになってきています。

 本記事では、酒が身体に与える悪影響について科学的な観点から解説します。

「酒は体に良い説」は本当か?

 かつて「酒は百薬の長」などと称され、数多くの統計でも証明されており、女性は1日にグラス1杯、男性はグラス2杯までなら心疾患のリスクが下がると言われていました。

 ところが近年の研究では、「酒の効果は遺伝子によるんじゃない?」という結果も出てきています。

 例えばヨーテボリ大学の実験で、心疾患の患者さん618名と健常者2,921名を対象に日ごろの全員の酒量を調べたうえで、遺伝子をチェックしました。

 それぞれの酒の量は、以下の3パターンに分類されております。

  • 酒量少:男性は1日のアルコール量が6.5g以下、女性は3.2g以下
  • 酒量中:男性は1日のアルコール量が6.5〜13.1g、女性は3.2〜6.3g
  • 酒量多:男性は1日のアルコール量が13.1g以上、女性は6.3g以上

 1日に350mlの缶ビールを一本飲むだけでも大酒飲みになっちゃいますね。

 そして調査の結果は以下の様になりました。

  • B2B2遺伝子型を持つ人が中レベルの酒を飲むと、酒量が少ない人にくらべて79%も心疾患のリスクは下がる。
  • B1B1またはB1B2遺伝子型を持つ人は、酒を飲んでも健康には関係ない

 B1やB2はコレステロールの増減に関わる遺伝子でして、B2B2を持つ人は生まれつきHDL(善玉)の数値が高くなりやすいんですね。

 つまり、もともと心疾患のリスクが低い人は酒で健康効果が得られるものの、逆に何の意味もない人も多いそうです。

 研究者の推定によればB1やB2を持つ人は全人口の19%で、微妙な数値ではあります。

 しかも、もし遺伝子に恵まれていたとしても、1日に缶ビール1本までの酒量を守らなきゃいけないのも難しい点になるでしょう。

 また遺伝と酒量の問題をふまえて計算すると、酒の健康効果はすべての人口に対して6%ぐらいだそうです。

「酒は体に良い説」は完全否定された?

 続いてはビクトリア大から出た論文で、「適度に酒を飲んでも健康にはならない」という結論なっています。

 この論文では、アルコールと健康に関する87件のデータを分析した系統的レビューが行われました。

 そして、その結果は以下の様になりました。

  • 従来の研究データは統計に間違いがあった
  • 統計のミスを正すと、酒の健康効果は消えてしまう

 調査を行った研究者は以下のように述べています。

 アルコールによる健康効果は、研究のデザインと特性によって、明らかにねじ曲げられていた。

 どうらや従来の研究は「酒を飲まない人」の定義に問題があったようです。

 というのも、これまでの研究では、「1日2杯〜3杯の酒を飲む人」と「いま酒を飲んでいない人」の2パターンをくらべて「酒は体にいい」って結論を出してたんですね。

 ところが、現時点で酒を飲んでない人たちのなかには、過去に体を壊して酒を止めちゃった人も多いわけです。

 当然ながら、体を壊して酒を止めた人たちは、適度に酒が飲める人よりも健康状態が悪く、寿命も短くなってしまうため、統計上は酒を飲む人のほうが長生きのように見えてしまうんですね。

 この統計ミスを正すと酒の健康効果は完全に消えまして、結局のところは、酒をまったく飲まない・飲んでも週に1杯以下という人たちがもっとも長生きするようです。

酒は長期的に人生の満足度を下げる?

 ケント大学の実験で、アルコールと幸福度の関係を調べるために2つのリサーチを行い、まず1970年に生まれた29145人を対象に、全員が30才・34才・42才になった時点で、そのときの飲酒頻度と人生の満足度をチェックしました。

 そのうえで、病気や収入といった変数を調整したところ、酒を飲む回数と人生の幸福度には基本的に関連性はありませんでしたが、むしろ酒で不幸になってしまう人が一定数いたそうです。

 もうひとつの実験は、31,000名にiPhoneアプリ(mappiness)を使ってもらい、酒を飲んでる間の幸福レベルを記録、そしてデータは2010〜2013年にかけて集められて、およそ200件の記録が集まったそうです。

 その結果は「酒は一瞬だけ喜びを上げるけど、人生の幸福度は改善してくれない。または低下する可能性がある」というもの。

 酒を飲むとエンドルフィン(脳内麻薬の一種)が出て脳の気分が良くなりますが、アルコールによる健康ダメージで人生の満足度が下がる可能性も高いそうです。

 調査を行った研究者は以下のようなことを述べています。

 間違いなく酒は楽しい。一時的には確実に幸福感をもたらしてくれる。しかし、それ以上のものではない。驚くことではないが、長期的に酒を飲み過ぎれば人生の総合的な満足度は下がってしまう。

 もちろん、これは価値観が関わってくるため「刹那的に生きたい」という考え方でも問題はないですが。

酒は1杯でも寿命に悪影響かも?

 ワシントン大学の研究では、1990年〜2016年のあいだに行われた694のデータセットと世界195の地域から集めたサンプルを使い、心疾患のリスクや酒と癌の発症率、事故死の可能性まで調査しました。

 そして調査から得られた結論は以下のようになっています。

  • 酒による健康への悪影響を最小化するためには、1週間の酒量をゼロユニットにしなければならない。

 つまり、週に1杯の酒を飲むだけでも、なんらかの悪影響の可能性があるそうです。

 ちなみに、「酒の1ユニット」はアルコール10g分ぐらいの意味で具体的には、週にビール1缶、グラスワイン1杯、ウイスキーのワンショットでも悪影響が出るかもしれません。

 さらに、その他の知見としてましては、以下のようになっています。

 50歳以上になると、酒は癌リスクの大きな原因になる。あとは事故、自傷、肺結核などとも関連がある
全年齢において、酒によるダメージは、おもに心疾患か癌の形で現れる
「1日2杯の酒」で心疾患と糖尿病リスクの低下も見られたが、その他の健康リスクをカバーできるほどのインパクトはない

 確かにアルコールが健康に良い側面も全否定できませんが、影響が非常に小さいためほとんんど意味はないそうです。

酒を飲むと本当に人格は変わる?

 ここで少し変わり種として、「酒を飲むと人格が変わる」という話はよく聞きますが、ミズーリ大学の実験では156人の男女を対象に、全員にアンケートを行って「酒を飲むと性格がどう変わりますか?」と尋ねたうえで、実際に血中のアルコールレベルが90mgになるまでウォッカを飲んでもらいました。

 さらに、酔った参加者たちに簡単なゲームを命じて、それぞれのパーソナリティがわかりやすく見えるように調整し、その状態をシラフの第三者に観察させて、酔った参加者がどんな性格だと思ったかを採点してもらいました。

 その結果は以下の様になりました。

 酒を飲んだ側は、自分のマジメさや協調性が減り、感情が安定したと報告した
ただし端から見ると、酒を飲んだ人はやや外向性が増したぐらいで、他の要素にはなんにも違いがなかった

 つまり、酒を飲むと「オレは不マジメで大胆な人間になったぞ!幸せだ!」と思い込みやすいんだけど、実際には元の性格とほとんど変わってないんだ、と。

 調査を行った研究者は以下のように述べています。

 酒飲みはアルコールで自分のキャラが変わったと思いがちだが、他人から見れば性格はほぼ変わらない。このアンバランスさは驚くべきものだ。

 酒を飲んだ参加者は、ビッグファイブのすべてにおいて「性格が変わった」と報告した。ところが、他人から見て唯一少しだけ変化があったのは「外向性」だけ。その他の要素は、酒を飲もうが飲むまいが同じだった。

週150分の運動で酒のダメージは相殺できる

 シドニー大学から出た論文ではイギリスの健康統計を使い、「酒の悪影響はエクササイズでカバーできるか?」という問題について調査を行いました。

具体的には、40代以上の男女36370人のデータを使い、日常的なアルコールとエクササイズの量の関係をチェックしました。

 その結果は以下のようになりました。

  • ほぼ運動しないで酒を飲んでる人は、早死にする確率(75才の前に死ぬ確率)が間違いなくアップする
  • 運動をしていない場合は、適度な酒(1日グラス2杯ぐらい)でも、早死にの確率は16%あがり、癌の発症リスクは47%あがる
  • 運動をせずに深酒をすると、癌の発症リスクは87%もあがる
  • しかし、適度な運動(自転車とかエアロビとか水泳ぐらいの負荷)を週に150分やれば、ほとんどの死亡リスクは相殺できる(癌の発症リスクは36%減る)

どうやら癌の発症リスクこそ残るものの、その他の死亡要因は、かなりエクササイズで打ち消せるようです。

 またエクササイズが酒のダメージに効くのは、以下のような作用が働いているからだそうです。

  • 酒→肝臓の働きをジャマして脂肪酸をためこむ
  • 運動→肝臓にはたらきかけて脂肪酸をエネルギーとして使う

 もちろん、最終的には酒は1日グラス2杯までに止めておくのが良いと思いますが、それより飲む場合は、1日30分のエクササイズを週5日程度は行った方がいいのではないでしょうか。

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