オーガニック食品の真実:健康と環境への影響を科学的に解明

 日本では主に有機(オーガニック)野菜が有名ではないでしょうか?もちろんオーガニックと名の付く製品は広く販売されていますが、果たして本当に有用なものなのでしょうか。

 そこで記事では、「オーガニックは本当にメリットあるのか?」や「有機農業はデメリットってなんだろう?」と考えている人に向けて科学的な知見から紹介をしたいと思います。

有機農業は主義主張に過ぎない

 まず、有機農業は農薬や化学肥料を使っていない、と思われがちですが、無農薬・無化学肥料とは限りません。

国や団体が使ってよい農薬や資材の規格を決めており、たとえば 農薬であれば日本では30品目の使用が認められています。

除虫菊やクロレラ、鉱物など天然物由来のものですが、遺伝子組換え品種の一種、害虫抵抗性作物が体内で作る毒性たんぱく質も、微生物から抽出してあれば 「BT剤」という名称となり有機農業で使えます。

有機農業(オーガニックファーミング)を「究極の安全の証」などと賞賛し、食の救世主のように扱うムーブメントがあります。

そして、オーガニック食品は安全→遺伝子組換え品種・ゲノム編集品種は危険、という三段論法が主張されます。

しかし、そこにも多くの誤解があります。

自然天然だからといって、必ずしも「安全性が高い」とか「環境に良い」などとは言えません。

たとえば、オーガニック・ワインのためのブドウ栽培においては、銅を含む物質が殺菌剤としてよく用いられます。

銅はたしかに天然の物質ですが毒性はむしろ一般的な農薬よりも高いのです。

しかも、銅は分解しないので、長年使っていると土壌に蓄積します。

フランスはオーガニック志向が強く、ワイン畑で大量に銅を含む農薬が使われてきました。

その結果、銅による人体影響や環境汚染が大きな問題となり、一部のワイン生産者 はオーガニックによる栽培を止め始めている、と報じられています。

化学合成農薬は、人の体内でも環境中でも分解性が高くないと使用を認められない制度となっていますので、銅の農薬のような問題は起きないでしょう。

なんとも皮肉な現象で有機農業、オーガニックはもともと、安全と環境によい、というような科学的な判断に基づくものではなく、主義主張なのです。

そこで、遺伝子組換え技術について 「利用してはいけない」というルールが作られました。

ゲノム編集技術を用いた品種については明確には決まっていませんが2020年9月時点では、オーガニック関係者の間では「認められない」とする意見が優勢です。

突然変異育種による品 種は有機農業においても利用を認められています。

有機農業のルールは極めて恣意的と言わざるを得ません。とはいえ、欧米ではオーガニックの生産者も消費者も増え続けています。

EUでは全農地面積の75%がオーガニック農場です。

オーストリア、エストニア、スウェーデンでは20%を超し、イタリア、スイスなどでも15%を占めています(2018年)。

アメリカでも食品の5.7%はオーガニック食品と見積もられ、増加中です (オーガニ ックトレード協会調べ)。

面白いことに、アメリカ農務省(USDA)は規模の小さな農家には有機農業を勧めています。

付加価値が高く、流通を介さずファーマーズ・マーケットなどで消費者に直接高く売れるため、農家の収入増につながります。

つまり、アメリカにとって、有機農業は遺伝子組換え品種を駆使する大規模農業と同じように、ビジネスにおける多様な選択肢の一つなのです。

現在、有機農業で大きな問題となっているのは、単位面積あたりの収量の低さです。

収量につては品目や国によって異なりますが、欧州委員会は「一般的な農産物の40%~85%の収量で止まる」と報告しています。

また現在の森林や草原などを農地に変えれば、樹木などの二酸化炭素の吸収量は 減り、森林や草原などの生物多様性は減少します。

有機農業推進が環境によいのか悪いのか確定的な説は無く、研究は進行中です。

世界では現在も食料増産が求められています。

ところが有機農業は単位面積あたりの収量が低く、農地を増やさなければいけないと考えられています。

しかし収量の低さは環境破壊に直結します。

それは地球規模で考えた場合、有機農業は良くて、大規模農業は悪いというような割り切りは無理だと考えます。

気になるのは日本の農水省や環境省の姿勢は、「生物多様性保全」の観点から有機農業を推進していますが、アメリカ農務省のように「選択肢の一つ」としての位置づけとするかどうか、明確ではありません。

有機農業が遺伝子組換えやゲノム編集を排除することについて説明もありません。

日本は大量の遺伝子組換え作物を他国に生産させ輸入し利用しているのに、自国ではその技術を排除する農法を国が推奨し「生物多様性を守ろう」と呼びかける。

その姿勢の矛の技術を排除する農法を国が推奨し「生物多様性を守ろう」と呼びかける。

その姿勢の矛盾に、不信を抱く人も出てきています。

【真実】遺伝子組み換え食品・製品は悪影響があるか?

オーガニックが健康に良いか?

今現在、普通の野菜よりもオーガニックのほうが体に良いなどという結論は出ておりません。

そしてオーガニック野菜に関する研究で有名なのが2009年にロンドン大学が行った調査です。

過去に行われた162の研究データをまとめた系統的レビューです。

使われたデータは1958〜2008年のもので、50年の間にオーガニック野菜の栄養分析が大量に行われました。

その結論は、オーガニックと従来の食品のあいだに栄養の違いは見られず、一部の穀物には少しだけ栄養の違いが見られたが、これは肥料と収穫時期の違いによるでした。

とりあえず栄養価に関しては、特にオーガニックが優れているということはないようです。

これについて研究者は、『オーガニックな食品を食べても、特に体に良いことはないだろう。もちろん、オーガニックが従来の食品よりも劣っているというわけではない。』

さらに2010年にも系統的レビューが行われ、今度はオーガニック食品の健康効果を直接的に調べました。

1958〜2008年に行われた12件のデータを精査したところ、大半の研究データは、オーガニックだろうが従来の食品だろうが、どっちを食べても健康的には違いがないことを示しています。

厳密に言えばオーガニックの乳製品には幼児の湿疹リスクの低下が認められたものの、大半のデータでは、栄養の差はもちろん、残留農薬の影響についても目立った違いは見られなかったそうです。

オーガニックのほうが農薬が少ないのは確かですが、結局は微妙な差でしかないため、長期的にみても大きなメリットは無いようです。

オーガニックの乳製品はどこまで体に良い?

一般的に、オーガニックの乳製品は「ビタミンが豊富」とか「良質な脂肪が多い」と言われますが、オレゴン州立大学の実験では、全米から300の牧場の協力を集めて、それぞれの牛から取れた乳製品をチェックしました。

全体の割合は、オーガニック系の牧場が192社・普通の牧場が100社となっています。

5年をかけてすべての牧場で牛の健康状態、病気の発症率、衛生状態を調べました。

そのうえで、すべての牧場から取られた乳製品をチェックしたところ、以下のような結果が出ました。

基本的にオーガニックも普通の牛乳も栄養価はほとんど同じ

別にオーガニックだからビタミンが多いということもなかったようです。

また、オーガニックミルクにデメリットとしては以下の通りです・

  • オーガニックで育った牛は、普通の牛にくらべて43%ほど牛乳を出す量が少ない
  • 抗生物質を使わないせいで、普通の牧場では根絶されたバクテリアが残っている

つまりオーガニック牛は、栄養価が変わらないわりに生産量も良くないということです。

これについて研究者は、『牛がどんなに違う育てられ方をしても、オーガニックファームでどんなに手厚く扱われても、最終的なビタミン量は、普通の牧場で育った牛の乳製品と変わらなかった。

ただし、この研究だけでは、必ずしも「オーガニックは無意味」という結論にはならないのが大事なポイントであります。

というのも、10個のオーガニックファームのうち7件は、以前は普通の牧場として運営されていた施設を使っているため、オーガニックと普通の牛に差が出ない原因になっているのかもしれないからです。

つまり、オーガニックを宣伝していても、その実態は普通の牧場とほぼ変わらないんじゃないかということですね。

そしてこういったファームが多いのは、アメリカ農務省から「USDA オーガニック」のお墨付きが欲しいからだとも論文では指摘されています。

オーガニックな肉のほうが健康に良い?

67件のデータを精査した系統的レビューでは、オーガニックの食肉と従来の食肉の栄養の違いを徹底的に調査しました。

調査の対象になったのは、牛肉や豚、鶏肉、羊、ヤギ、ウサギで先に結論を並べていくと、以下の通りです。

  • オーガニックなお肉のほうが
  • 多価不飽和脂肪酸が23%多い
  • オメガ3脂肪酸も47%多い
  • ミリスチン酸とパルミチン酸が少ない
  • 一価不飽和脂肪酸が少ない
  • ただしオメガ6と3の比率は同じ
  • ビタミンやタンパク質量については結論が出せない

もっとも、「オメガ3が47%も多い」というと凄そうですが、例えば100gの牛脂で考えた場合、およそ280mgぐらいの上乗せ量になる計算です。

もちろん、この研究はビタミンや抗酸化物質などの量については結論を出してないんで、そのあたりは判断が難しいところではあります。

また、この論文でいう「オーガニック」は、「広い牧場でのびのびと育てましたよ〜」ぐらいの意味合い。

完全に牧草だけを食べて育ったわけじゃないので、グラスフェッドよりは栄養価が低めに出ている可能性も大きいでしょう。

オーガニックの肉・卵・乳製品は健康に良いか?

過去に行われたオーガニック研究から、そこそこ質が良い29件を抜き出したもので、「オーガニックが人体にあたえる影響」をしっかり調べてくれたのがポイントになってます。

これまでのオーガニック研究は「どれだけビタミンが多いか?」とか「どれだけ優秀な脂質が多いか?」といったポイントを調べたものが多く、実際に「ヒトに対して良い影響があるのか?」という部分までは調べていませんでした。

ただ現在のオーガニック研究は研究の質や計測法がバラバラなんで、メタ分析までは行われておりません。

ここらへんが統一されないと、なかなかオーガニック業界も発展しなさそではあります。

では、具体的にどんな傾向が見てとれたかと言えば、以下の通りです。

  • バター:サンフラワーの種で育った牛からできたバターを使うと、総コレステロール値が下がり、善玉コレステロールが上がる
  • 牛肉・豚肉:グラスフェッドで育った肉は善玉コレステロールを増やし、炎症のマーカー(CRPなど)を下げる。ただし中性脂肪は増える
  • チーズ:グラスフェッド牛から作ったチーズは炎症のマーカー(CRPなど)を下げる
  • 卵:フラックスシードやサンフラワーの種のように良質なエサで育ったものは、中性脂肪と血圧を下げ、良いコレステロールを上げる。ただし、一部の研究では中性脂肪とLDLコレステロールが増えたって報告もあるので、判断は難しい。

まだ「肉と乳製品はオーガニック最高!」とは言えないレベルですが、まぁそれなりのメリットはあると言えそうではあります。

また、このような改善が見られるのは、おもに共役リノール酸とオメガ3脂肪酸の増量が原因になってるようです。

そこまで激しいメリットはなさげですが、買っても損ではなさそうですよーぐらいの感じで。

参考文献

・Bergman, M A et al. “Comparison of selected animal observations and management practices used to assess welfare of calves and adult dairy cows on organic and conventional dairy farms.” Journal of dairy science vol. 97,7 (2014): 4269-80. doi:10.3168/jds.2013-7766

・Crystal Smith-Spangler, Margaret L. Brandeau, Grace E. Hunter, et al. Are Organic Foods Safer or Healthier Than Conventional Alternatives?: A Systematic Review. Ann Intern Med.2012;157:348-366. [Epub 4 September 2012].

・European Commission. The crop yield gap between organic and conventional agriculture.2018.

・Genetic Literacy Project. Examining the EU’s contradictory treatment of glyphosate and copper sulfate pesticides (https://geneticliteracyproject.org/2018/12/19/examining-the-eus-contradictory-treatment glyphosate-and-copper-sulfate-pesticides/)

・Haskins, Christopher P et al. “Meat, eggs, full-fat dairy, and nutritional boogeymen: Does the way in which animals are raised affect health differently in humans?.” Critical reviews in food science and nutrition vol. 59,17 (2019): 2709-2719. doi:10.1080/10408398.2018.1465888

・Organic farming in the EU. EU Agricultural Markets Briefs. 2019; 13.

・Organic trade association U.S. organic sales break through $50 billion mark in 2018.

・Średnicka-Tober, Dominika et al. “Composition differences between organic and conventional meat: a systematic literature review and meta-analysis.” The British journal of nutrition vol. 115,6 (2016): 994-1011. doi:10.1017/S0007114515005073

・『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) iPB法の開発とゲノム編集技術への適用』Ellison E E et al. Multiplexed heritable gene editing using RNA viruses and mobile single guide RNAs. Nat. Plants 2020;6:620.

・『市民会議 「食と農の未来と遺伝子組換え農作物」報告書 2004年』Nelson B. The Lingering Heat over Pasteurized Milk. Science History Institute. 2009-4-1 (https://www. sciencehistory.org/distillations/the-lingering-heat-over-pasteurized-milk).

・農林水産省 有機農業関連情報 (https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/)

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