在宅勤務の生産性向上:科学的証拠に基づく実践ガイド

在宅勤務が日本でも行われるようになってきました。在宅勤務になると、会社で仕事をしてた多くの人は戸惑いを覚えるかもしれません。

そこで記事では、「本当に在宅勤務で生産性はある?」や「会社に行かずに昇進とかできるの?」と考えている人に向けて科学的な知見から紹介をしたいと思います。

在宅勤務で生産性は上がる?

新型コロナのおかげで在宅勤務が激増しております昨今、「在宅勤務って生産性が上がるの?ダラ蹴たりしないのか?」といった会話がありますが、ハーバード・ビジネス・スクール研究が2020年の3月後半に行った研究では、アメリカで働く600人以上のホワイトカラーを対象に、2週間おきに以下のポイントを質問しました。

  • 仕事のやりがい
  • 仕事への取り組みは変化したか
  • 自分のパフォーマンスをどう思うか
  • 同僚との仲は変わったか
  • ストレスレベル
  • ネガティブな感情のレベル
  • 生活状況

これに加え、参加者が仕事中にやり取りしたメールなどのデータを、在宅勤務を始める前と後の2つのポイントで収集し、それぞれの会社のシニアリーダーなどにインタビューを行い、チームが集めたデータがどれぐらい正しいかったかを検証して行いました。

結果はこんな感じになりました。

  • ほとんどの労働者は予想よりも早く在宅勤務に適応したし、かなりの割合で以前と同じレベルの生産性を維持していた。
  • 仕事の満足度や取り組みのモチベーションは、在宅勤務をスタートさせて2週間で急激に低下する傾向があったが、だいたい2カ月もすれば急激に回復していく。
  • 在宅勤務が始まってから、ストレスやネガティブ感情が10%減少した労働者も多かった
  • 自己効力感と仕事に注意を払う能力も約10%向上したケースが多い。

どうやら在宅勤務で生産性が落ちるのは初期のころだけで、少しすれば完全に以前と変わらないレベルにもどっていくらしいです。

とはいえ、やっぱり在宅勤務のデメリットもいくつか確認されていまう。

具体的には

  • 多くの組織が会議と仕事時間の適切なバランスを見極めるのに苦労していた。
  • 自宅で仕事から意識を切り替えるのが難しいせいで、1日の労働時間が大幅に増加する傾向も見られた。ロックダウンが始まった直後の数週間では、1日10時間以下で仕事を終えることができた労働者は50%に過ぎなかった。(ロックダウン前は80%だった)
  • 子供がいる人は在宅勤務に慣れるのは難しい

全体的にみるとワークライフバランスの問題が大きい感じに思えます。

また、この調査では確認されなかったものの、他にも考えられるデメリットとしては、

  • 在宅だと他のスタッフとの偶然の交流が起こらないので、思わぬアイデアが生まれにくくなる可能性は否定できない
  • 在宅は世間話を減らすので、組織の信頼感は下がるかもしれない
  • 人間関係の育成はしづらい感じがする

ここらへんの悪影響がどう出るかはもっと長期に見てみないと何とも言いづらいです。

ちなみに、「在宅勤務に向いてる性格はあるのか?」ってのを調べたところ、在宅勤務で高いパフォーマンスをあげられる人ってのは以下のような特徴がありました。

  • ビッグファイブの協調性が高い
  • 感情の安定性が高い

昔から「仕事で成功する人は誠実性が高い」と言われてきたんですけど、在宅勤務については協調性が有利なのかもしれないようです。

https://tisikinosono.com/learn-reduce-health-excessive/

在宅勤務で生産性が13.5%も伸びる?

スタンフォード大学によるRCTで、中国のシートリップ(旅行代理店)の従業員508人を対象に全体を以下の半分に分けました。

  • 週4日の在宅勤務
  • 従来どおりオフィス勤務

その状態で9カ月ほど仕事を続けてもらい、どちらのグループも勤務シフトや使うシステムはまったく同じで、 たんに「働く場所が変わったらどうなる?」ってとこを調べたわけですね。

そして以下のような調査結果になりました。

  • 仕事の達成度が13.5%もアップ
  • 離職率が50%も低下
  • 仕事の満足度が上昇

このほかに特に副作用は確認されなかったようで、まさにいいことずくめであります。

こういった変化が起きた理由はさまざまですが、多くのデータを見てますと、

  • 病気になる回数が減った
  • 集中力が持続して休憩時間が減った

2つの影響が大きいようです。

在宅勤務というと「集中力を保つのが難しい」といったイメージがありますけど、実際は在宅のほうがジャマが入らなくて働きやすいっぽい。

ちなみに、この実験により社員の生産性が上がったおかげで、年に1,900ドルのコストを削減できたとのこと。

ただ、研究者いわく、従業員のなかには「孤独すぎて在宅勤務が苦手だ」と答えるケースも一定数あったそうなので、誰にでも無闇に自宅作業をすすめるのも得策じゃないようです。

同時に、自宅で両親と一緒に住んでる人の場合は、やっぱり「オフィスのほうがいい」と主張するケースもあったそうなので、そこはある程度まで考慮したほうが良いそうです。

そもそも、週に5回も会社に行くという慣例は、たんに工場で大量生産を行っていた時代の名残にすぎない。

それにも関わらず、いまだ多くの企業が従業員を同じように扱っているのは、自分にとっても不利でしかないですね。

在宅ワークのほうが満足度やパフォーマンスが高い

過去に行われた通勤に関する多くのデータをまとめげあて、「実際のところ在宅ワークってどうなの?」って疑問に対して大きな結論を出しました。

その結果、本論による在宅ワークのメリットは、以下の様になりました。

  • 労働者の仕事に対する満足度があがる!
  • 仕事のストレスは全体的に下がる!
  • 仕事のパフォーマンスは大幅に改善する!

在宅ワークは雇用者にも労働者にも大きなメリットがあるそうです。

ただし、在宅ワークの成功には以下のような条件もありました。

  • 新しいプロジェクトの起ち上げは対面コミュニケーションが必須
  • 顧客との面談や対面のミーティングが必要な仕事では、在宅ワークは週1ぐらいのペースに落としたほうが吉
  • なかにはオフィスのほうが集中できるタイプもいるので、自分の素養を見極めるのは大事
  • どうしても同僚との知識の共有は減るので、そのへんのサポートは必須
  • 在宅ワークをしてても、上司がうるさく管理し始めると失敗する。「自治の感覚」が大事

「適度な在宅ワーク」がカギだそうで、そのへんのさじ加減は、職場環境と自分のキャラによって調節していくしかないとのことです。

在宅勤務で得をする人・しない人

さらにフロリダ国際大学のリサーチでは、273人の会社員が対象に自宅で働いてもらった際の効果を確かめるために、その際に以下の4ポイントをチェックしました。

  • 仕事の複雑さ:難しい作業が多い人は、在宅勤務に向きか不向きか
  • 問題の量:解決すべき問題が多い人は、在宅勤務に向きか不向きか
  • 相互依存レベル:いつも職場で同僚と持ちつ持たれつの関係を築いてる人は、在宅勤務に向きか不向きか
  • ソーシャルサポート:自分の仕事を支援してくれるような職場で働いている人は、在宅勤務に向きか不向きか

さて、それで何がわかったかと言いますと、

  • ポイント1:複雑な仕事を抱えてる人ほど、自宅で仕事をしたほうがパフォーマンスが上がる。実際に会社からの評価も高かった。
  • ポイント2:解決すべき問題の量が多い人ほど、やっぱり自宅仕事のほうがパフォーマンスは上がる。
  • ポイント3:職場で同僚に頼るケースが多い人ほど、自宅で働いた方がメリットを得やすい。
  • ポイント4:自分のことを支援してくれない職場で働いている人ほど、在宅勤務のメリットが得られやすい。

基本的にはどんな人でも自宅で作業したほうがパフォーマンスは上がりやすいんだけど、その効果には段階があるようです。

それぞれのポイントは解説は以下のようになります。

  • 複雑な仕事を抱えてる人は、自宅の方がジャマが入りにくいおかげで能率が上がる。解決すべき問題の量多い人のパフォーマンスが上がる理由も同じ。
  • 職場で同僚に頼ることが多い人は、自宅の方が自立心が芽生えるせいで逆に作業パフォーマンスが上がる。
  • 支援がない職場はそもそもブラックだと思われるので、自宅で働いた方がパフォーマンスが上がる。

つまり、以上の話をまとめると、以下のようになります。

  • 会社から難しい仕事を任されるようなデキる人ほど自宅で働くべし!
  • 他人を当てにしてばかりの人も自宅で働くべし!

在宅ワークは昇進しやすいのか?

この調査では「テレワークってキャリアアップに影響しないのか?」という部分を調査しました。

というわけで、461人の労働者を集めて定期的なアンケートを実施し、6年にわたって参加者の働き方と昇進や昇給の変化を集めて、それぞれのデータを付き合わせたんだそうな。

そして以下のような傾向が浮かび上がりました。

  • 基本的にテレワーカーでもオフィスに勤務している人と同じ確率で昇給する可能性はある。ただし、テレワーカーの賃金は同じようには上がりにくいため、勤務時間を増やすなどして会社に「献身」を示す必要がある
  • テレワーカーが同じように昇進するために最も重要なポイントは、職場でのテレワークが普及しているかどうかだった。テレワークが広く受け入れられている職場では在宅勤務者でも昇進率は高かったが、在宅勤務者が少ない職場では昇進率が低くなった
  • テレワークの時間が多い場合は、上司と直に会う回数が多い人ほど昇給率が高くなった

テレワークに理解がある会社じゃないと昇進も昇給も難しいという、「そりゃそうだろうなぁ」って結論になっております。

近年では「テレワークは仕事の効率を上げるよ!」ってデータが増えてまして、273人を対象にした研究でも以下のような効果が確認されています。(平均で週2日をテレワークにした場合の数値)

  • マーケティング業の生産性は13%上がる
  • プログラミングの生産性は24%上がる
  • 会計の生産性は10%上がる
  • エンジニアリングの生産性は23%上がる
  • ファイナンスの生産性は6%上がる
  • セールスの生産性は15%上がる

参考文献

・Allen, Tammy D., et al. “How Effective Is Telecommuting? Assessing the Status of Our Scientific Findings.” Psychological Science in the Public Interest, vol. 16, no. 2, Oct. 2015, pp. 40–68.

・Golden, T.D., Gajendran, R.S. Unpacking the Role of a Telecommuter’s Job in Their Performance: Examining Job Complexity, Problem Solving, Interdependence, and Social Support. J Bus Psychol 34, 55–69 (2019).

・Timothy D. Golden, Kimberly A. Eddleston, Is there a price telecommuters pay? Examining the relationship between telecommuting and objective career success,Journal of Vocational Behavior,116, 2020,103348,https://doi.org/10.1016/j.jvb.2019.103348.

・https://www.hbs.edu/covid-19-business-impact/citations/the-implications-of-working-without-an-office

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