
ペット(犬・猫)を飼うことは、身体的・精神的な健康に対するポジティブな影響があるとされています。
例えば、犬を飼うことで散歩や運動をする機会が増え、肥満や心臓病、糖尿病などの病気の予防につながると考えられています。
また、ペットと触れ合うことによって、ストレスホルモンの分泌が減少し、血圧や心拍数が下がるという効果も示されています。
さらに、ペットとの触れ合いは、人間の幸福感や生きがいを高めることが知られています。
しかし、ペットを飼うことは責任が伴い、適切な環境や餌、運動量、定期的な医療ケアが必要です。
ペットを飼うことによる健康効果を享受するためには、飼い主自身の健康管理も重要です。
ペットを飼うと脳が良くなる?

最初に紹介する研究は、1369人の高齢者(平均年齢65歳)を6年間ほど追跡調査したもので、そのうち53%をペットオーナーで、32%を5年以上の長期ペットオーナーという感じで分類しました。
さらに、すべての参加者に引き算、数字の数え方、言葉の記憶など、さまざまな認知テストを実施して27点満点で総合スコアを算出し、2つのデータを比べたところ以下の結果になりました。
- ペットを飼っている人、特に長期に渡ってペットを飼っている人では、認知スコアの低下が緩やかだった。(効果の大きさは、平均してテストの1.5ポイントの違い)
- ペットによる認知の保護効果は「黒人のペットオーナー・男性・大学教育を受けたペットオーナー」のほうが強かった。
決して劇的な違いではありませんが、長い目で見ればそれなりに影響を与える可能性はありそうですね。
ペットのトラウマ解消効果がある?

「健康と退職に関するパネル調査」というデータセットを使い、参加者たちに6年間の追跡調査を行い、鬱症状や孤独などがどのように変化したかを調べました。
まずチームが調査を実施しようとした主な理由は、「近年はソーシャルサポートの有無がメンタルヘルスの維持に欠かせないという事実を示すエビデンスが増えているため、社会的な喪失のように致命的なストレスにおいても、その重要性は変わらないと考えたため、配偶者の喪失によるストレスをやわらげるのにヒト以外の方法があるかどうか」を調べたかったようです。
そして結果は、「ペットを買っている人は夫や妻に先立たれても孤独や鬱症状のレベルが低い」でした
ペットの存在は人間関係の深い悲しみにも関係を持つのかもしれませんね。
犬を飼うと飼い主の脳トレにもなる?

この研究では19人の健康な男女を対象に、参加者が犬と一緒にいるときといないときの脳の活動を数回にわたって測定しました。
今までの研究でPETスキャンが使われてましたが、今回の調査はfNIRSで前頭前野の活動を調べています。
実際の調査では、「犬を見る」→「犬の横に座る」→「犬を撫でる」の順番で犬と接触してもらい、その際に脳がどう活動するかをチェックしました。
さらに、犬のぬいぐるみでも似たようなことをしてもらい、実際の犬と遊んだときの脳の活動と比べたようです。
その結果は以下のようになりました。
- 犬との接触レベルが上がるほど、参加者の脳の活動が大幅に上昇し、犬が去った後も酸素化ヘモグロビンが上昇したままだった(つまり、脳の活動が活発なままだった)
- ぬいぐるみにも似たような効果が確認されたが、それはあくまで最初のうちだけで、参加者がセッションを重ねるにつれて脳活動は大きく低下した。
犬と遊ぶことでヒトの前頭前野はかなり活動するようです。
この実験では4歳〜6歳のメス犬を3頭使用し、それぞれジャックラッセル、ゴールデンドゥードル、ゴールデンレトリバーだったそうです。
犬との生活は健康効果が大きい

ウプサラ大学の研究では、スウェーデンで暮らす3432,153人を対象に観察研究を行いました。
- 全員がどれぐらいの時間を犬と過ごしているか?
- 心臓病や脳卒中がどれぐらいの率で発症したか?
データを12年にわたって取り続けて相関を見たんだそうな。ペットと人間の健康を調べたものとしては最大級じゃないでしょうか。
今回の研究について、「12年のフォローアップにより、犬を飼っている独身者は心疾患のリスクが下がり、犬を飼っている人すべてにおいて全死亡率が低下する傾向が見られた。」と述べられています。
- 犬を飼うと心臓病による死亡リスクが23%低下
- あらゆる病気で死ぬ確率が20%低下
確かに、犬と飼うとストレスも減るだろうし、運動量も増えるでしょうからね。
猫よってストレスが低くなる

2002年にニューヨーク州立大学が120組の夫婦を対処にした調査を行い、参加者にストレスを与えてから、参加者を「1人で部屋にいる」か「自分がかってる猫と部屋にいる」か「パートナーと部屋にいる」の3パターンに分けました。
すると、そして以下のような結果になりました。
- 猫を飼ってる人は、ストレスを受ける前から血圧と心拍数が低い傾向があった
- ストレスを与えられている最中も、猫を飼ってる人は「これはストレスではなくてチャレンジである」と考える傾向にあった
- 猫を飼ってる人は暗算の間違いも少なかった
- タスクを終えてから猫と過ごした人は、もっとも速く落ち着きを取り戻し、ストレスからの回復も早かった
つまり猫を飼ってる人はもとからリラックス度が高く、ストレス耐性も高いのではないかという話です。
猫といると幸福感が高まる

聖ヨゼフ病院の研究では、猫を飼ってる男女92人と、猫を飼ってない男女70人を対象にそれぞれの健康状態、人生の満足度、日中の不安度などを調べて、両グループにどんな差が出たかをチェックしました。
すると猫を飼ってるグループは、日中の幸福感・人生の質・自信のレベル・集中力が高く、不安になりにくいそうです。
2017年には2262人の子供を対象にした研究も行われ、飼ってる猫と仲が良い子供ほど、人生の質や主観的な健康レベルが高く、活動的で思いやりに溢れているそうです。
猫は子供の成育にも良いそうです。(ちなみに犬も同じような結果を示した研究はあります)
猫と生活すると健康効果が高まる?

ミネソタ大学の研究で、4435人のアメリカ人を13年にわたって追跡した健康調査をベースとして、2435人が猫を飼っており、残りはペットを飼った経験がない人でした。
そして全てのデータをまとめたところ、猫を飼っているグループは心疾患で死ぬリスクが30%も低いという結果になりました。
さらにこの調査では、血圧、コレステロール、喫煙習慣、肥満度などは調整されております。
またケンブリッジ大学が行なった実験でも猫を飼い始めたばかりの男女24人を10ヶ月にわたって追跡して全員の健康を調査したところ、猫を飼い出してから1ヶ月で頭痛、腰痛、風邪の発症率が減ったそうです。
参考文献
・Allen, Karen et al. “Cardiovascular reactivity and the presence of pets, friends, and spouses: the truth about cats and dogs.” Psychosomatic medicine vol. 64,5 (2002): 727-39.
・Cheryl M. Straede &Richard G. Gates M.D. “Psychological Health in a Population of Australian Cat Owners” Published online: 27 Apr 2015 Pages 30-42.
・E D. L. Wells (2007). ‘Domestic Dogs and Human Health: An Overview’. British Journal of Health Psychology, 12, pages 145-56.
・E. Friedmann and S. A. Thomas (1995). ‘Pet Ownership, Soc Support, and One-Year Survival After Acute Myocardial Infarction in the Cardiac Arrhythmia Suppression Trial (CAST)’. American Journal of Cardiology, 76, pages 1213-17.
・Gerulf Rieger &Dennis C. Turner “How Depressive Moods Affect the Behavior of Singly Living Persons Toward their Cats” Published online 27 Apr 2015 Pages 224-233.
・Kristyn R. Vitale, Monique A.R. Udell”The quality of being sociable: The influence of human attentional state, population, and human familiarity on domestic cat sociability” Behavioural Processes,Volume 158,2019,Pages 11-17.
・M. R. Banks, L. M. Willoughby and W. A. Banks (2008). ´Animal-Assisted Therapy and Loneliness in Nursing Homes: Use of Robotic Versus Living Dogs’. Journal of the American Medical Directors Association, 9, pages 173-7.
・Pendry, Patricia, and Jaymie L. Vandagriff. “Animal Visitation Program (AVP) Reduces Cortisol Levels of University Students: A Randomized Controlled Trial.” AERA Open, Apr. 2019, doi:10.1177/2332858419852592.
・Qureshi, Adnan I et al. “Cat ownership and the Risk of Fatal Cardiovascular Diseases. Results from the Second National Health and Nutrition Examination Study Mortality Follow-up Study.” Journal of vascular and interventional neurology vol. 2,1 (2009): 132-5.
・Serpell, J. “Beneficial effects of pet ownership on some aspects of human health and behaviour.” Journal of the Royal Society of Medicine vol. 84,12 (1991): 717-20.
・Vitale Shreve, K.R., Udell, M.A.R. What’s inside your cat’s head? A review of cat (Felis silvestris catus) cognition research past, present and future. Anim Cogn 18, 1195–1206 (2015).https://doi.org/10.1007/s10071-015-0897-6
・Whitt, E., Douglas, M., Osthaus, B. et al. Domestic cats (Felis catus) do not show causal understanding in a string-pulling task. Anim Cogn 12, 739–743 (2009).
・「Attachment bonds between domestic cats and humans」
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(19)31086-3