高級レストランで小皿ビュッフェがもたらす満足感の秘密「値段の錯覚」

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商品の価格に対する感覚は、その商品の効果や価値に関して重要な役割を果たします。

つまり、高い価格の商品には、高い価値や効果があると感じる傾向があります。

本記事では、値段の錯覚のメカニズムや、消費者がこの錯覚に陥る理由について解説します。

また、消費者が値段の錯覚に陥らないようにする方法についても考えていきます。

なぜ値段が高いと効果あるのか?

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ある時、学生を2つのグループに分け、集中力を高めると宣伝されているエナジードリンクを買ってもらう実験が行われた。

 どちらのグループも買ったのは同じ成分を含む同じドリンクだが、一方のグループは1缶1.89ドルを請求され、もう一方のグループは「大学が大口割引で購入したから1缶0.89ドルでいい」と言われた。

 そして双方のグループともエナジードリンクを飲んでもらい、その後、アナグラムの問題のリストを渡して解いてもらった。

 結果を見ると、同じドリンクでも高い料金を払ったグループの方が成績が良かったことが判明したのだ。(1)

 研究者は、「消費者はドリンクに高い料金を払うほど本物だと信じたいと思う。だから約2ドル分の集中力を買ったと思っているグループは、そうでないグループ以上に集中してアナグラムに取り組んだ」という結論を下した。

 また、日常的にアスピリンのブランドの薬やジェネリック医薬品を服用している女性800人以上を対象とした調査によれば、女性が経験する医薬品の鎮痛効果3分の1は、ブランドの薬を飲んだという意識に原因を求められるという。(2)

 さらに前述の実験に参加した学生に頼んで風邪の記録をつけてもらい、その時に薬屋で指定した薬を買って飲んでもらい、風邪の症状を抑えるのにどのような効き目があったのか、後で報告してもらった。

 するとここでも、購入金額によって医薬品の評価には違いが出た。

 学生が飲んだ薬はたったの1種類だが、一部の学生はその薬をセール期間中に買っていたが、そのセール期間中に購入した薬は、定価で買った同じ薬に比べて、効き目が弱いと考えられていたのだ。(3)

 ある意味、ブランド薬とジェネリック医薬品の違いと言えば、所詮は値段程度しかないのだから、価格がプラシーボ効果に似た働きをしたとも考えられるだろう。

なぜビュッフェでは皿が小さいのか?

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 コーネル大学の研究者が、ニューヨーク州北部にあるイタリアン・レストランで食べ放題のビュッフェを使って実験を行った。(4)

 ビュッフェにはつい食べすぎてしまうという問題や、あれもこれも取った挙句にあり得ない盛り合わせができてしまうという問題もある。

 もし山盛りに盛った一皿を楽しむ場合、料金はこちらの評価にどう影響するだろうか?

 実験は次の様に行われた。

・1日目、あるグループに4ドルで食べ放題のビュッフェが提供された。

・2日目、別のグループに8ドルで全く同じ食べ放題のビュッフェが提供された。

 どちらのグループも大体同じ量の食べ物を平らげたが、より高い料金を払った8ドルの方が食事の満足度は高かった。

 満足度については予想通りだが、面白いのは次の点だ。

 2日目のグループは、「丁度、お腹一杯になった」と答えたのに対して、1日目のグループは「食べすぎた」と答えたのだ。

 なんと食べ放題のビュッフェに4ドル払った人は8ドル払った人に比べて、食べた量は同じなのに、満足度が低く、しかも後で食べすぎたと感じていた。

 この実験から食べ物に関する事で言えば、安けりゃご機嫌とならないこともあるようだ。

 びっくりするほど高い料金を取るレストランが、極小サイズの料理ばかり出しても繁盛するメカニズムはここにあるのかもしれない。

 割高なら苦労を選ぶ?

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 参考思考という言葉を皆さんはご存じだろうか?(5)

 参考思考は、意外と品物の値段の判断によく関わってくるのだ。

 人はモノの値段が適正かどうかを自分の期待より「上か下か」で決める傾向があるが、多くの品物には「これくらいの値段なら妥当」という目安が存在し、これが心の中で参考価格として機能する。

 これが参考思考だが、例えば箱入りチョコレートを「700円割引します」という表示があったとしよう、その値段が適正かどうかは、普段からチョコレートに対して、いくら払ってもいいと考えるかで決まってくる。

 もし心の中で、チョコレートの参考価格(お金を払っても良い値段)が1400円なら、2800円のチョコが700円割引で2100円だとしても、それを適正価格とは思わないだろう。なぜなら、この場合の700円は得ではなく「損」と認識するからだ。

 その様な考え方は現実の世界でも機能しているのかを調べる為に、米国ではある調査が行われた。(6)

 参加者に自分は50ドル(約5500円)程度の毛布を買い求めていると想像してもらう。

 だが店内にあるのは安くても75ドル(約8250円)だった。

 車で5分かかる別の店まで行って同じ毛布を特別価格の60ドル(約6600円)で買おうとするだろうか?

 もちろん懐に余裕があれば、わざわざ別の店に少し苦労してまで出向いて、お金を節約しようと思わないだろう。

 なぜなら、15ドル(約1650円)のために車に乗る必要はないと思えるからだ。

 しかしこの調査では、大半の人が別の店まで行くと答えた。

 参加者は毛布を買い求める予算を50ドルと設定されている。50ドルを50%上も回る金額を提示されると、随分高いと思える。

 ここで重要なのは上乗せ金額がいくらかではない。

 重要なのは、払うつもりの予算に対して「店の要求」がどこまで大きいかだ。

 参考思考が働くケースとそうでないケースがあるのはなぜだろう?

 専門家はこう説明している。

 参考思考が働くかどうかは、実際の価格と、こちらの期待する価格がどこまで食い違うかで決まる。

 もし価格が期待より上だったら、参考思考が動き出すとい事だ。

参考文献

・(1)Shiv, B. et al (2005) Placebo Effects of Marketing Actions: Consumers Get What They Pay For. Journal of Marketing Research, XLII, 383-393. 

・(2)Branthwaite, A. & Cooper, P. (1981) Analgesic Effects of Branding in Treatment of Headaches. British Medical Journal, 282, 1576-1578. 

・(3)Shiv, B. et al (2005) Placebo Effects of Marketing Actions: Consumers Get What They Pay For. Journal of Marketing Research, XLII, 383-393. 

・(4)Just, D. et al (2014) Lower Buffet Prices Lead to Less Taste Satisfaction. Journal of Sensory Studies, 29 (5), 362-370.

・(5)Winner, R. S. (1986) A Reference Price Model of Brand Choice for Frequently Purchased Products. Journal of Consumer Research, 13, 250-256. 

・(6)Saini, R. et al (2010) Is That Deal Worth My Time? The Interactive Effect of Relative and Referent Thinking on Willingness to Seek a Bargain. Journal of Marketing, 74, 34-48.

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