金持ちの倫理性:お金が人の道徳をどう変えるか?「お金の心理学」

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 アニメや漫画、小説などでは、金持ちが弱い立場の人から平気で搾取する利己的な人間という風に描かれることが多いですね。

 しかし、純粋な疑問を持つとすれば果たしてそのようなイメージを正しいのでしょうか?

 今回は、そんな権力やお金を持つ人が本当に信頼の欠ける人間かどうかを見て行きたいと思います。

社会階級が高い人への信頼は薄い

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 まず、社会階級が高い人は本当に信頼できないのかを、カリフォルニア大学バークレー校の、ポール・ピフ達が調べました。

 研究チームは、最初に「交渉術の調査」という名目で社会階級の高い人と低い人を集めて雇用者役で実験を行いました。(1)

仕事に関する様々な情報を教えた上で、その仕事は6ヶ月程度で終了するという事実も知らせました。さらに、これから面接する求職者は、2年以上の雇用期間で無ければ働くつもりが事も情報として知らされました。

そして、その情報を元に仕事内容の説明する台本を書くように求められます。

 

 すると、社会階級の高い人ほど仕事の期間が短いことを隠し、また仮に雇用期間について尋ねられた場合でも、嘘をつくと答えた人が多かったのです。

 社会階級の高い人は意図的に不誠実な振る舞いする可能性が示唆されました。

 さらに彼らは、自分があまり信頼できない人間であることを自覚している上に、それが悪いと思っていないようです。

 この様な態度や考え方は、他者からの協力を必要としていなからなのかもしれません。

 通常、私達は自分にないスキルや知識を他者から得る為に協力関係を築きます。

 しかし、資源や資産が潤沢な人にとって他者を頼るという行為は、何らメリットにはならないのです。

不誠実になるのは金持ちだけではない

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 社会階級についての研究を見ていると、ある疑問が生まれてきます。

 つまり、もともと不誠実で信頼性の低い人間が高い地位に就くのか?

 それとも、高い地位に就いたことで不誠実で信頼性の低い人間に成り下がるのか?

 この疑問に答えるような研究を行ったのが、コロンビア大学ビジネススクールのアダム・ガリンスキーです。(2) 

 ガリンスキーは実験参加者達に、シミュレーションで様々な問題を解決するにあたり、ボスを一人選び、そのボスに他の参加者達の仕事を割り当てさせました。

 シミュレーション実験終了後、「もし本当に必要ならば、捨てられていた盗難自転車を自分の物にしてもよいか?」「もし遅刻しそうなら、交通規則を破ることは許されるか?」という質問を行いました

  すると、一時的に権力のあるボスになった人は、他人が規則を破った場合よりも自分が規則を破った場合の方が許容できると答える人が多かったのです。

 つまり、最初から高い地位に就いたワケではなく、後から権力を手に入れた場合にも不誠実で信頼性が低い人間になってしまう可能性があることを示唆しています。

 さらにハーバード・ビジネススクールのフランチェスカ・ジーノは、お金が身近にあるだけでも人を騙したり信頼度が低下するのではないかと考えました。(3)

 部屋に実験者を集めて与えられた課題をクリアすると、一問につき3ドルで最大24ドルの報酬が貰える実験を行いました。

 スタッフは実験者を部屋に残して20分間退出します。そして、戻ってきたら自己採点させて、正解した数だけお金を持って帰ってよいと指示を出します。

 これは、自己採点なので誤魔化しが可能でした。

 そしてもう一つ、部屋に入る際、テーブルの上に置かれているお札の額に違いを加えていたのです。

 ある時には、報酬の24ドルを抜いても700ドル近いお金がテーブルにあり、別の時には7000ドルという大金が置かれていました。

 

 そして実験の結果は、お金の量が多い時ほど誤魔化しの量も比例して増えていました。

 さらに、三種類の実験を行ったところ、お金が多いほど自分の正答率を誤魔化す人は多くなると言う傾向が見つかったのです。

 また、お金の事を考えただけでも、他人と協力するのを拒んだり、人を助ける確率が下がると言う研究もありました。

金のことを考えると助けなくなる

 イェール大学経営大学院の研究(4)では、参加者を「お金を連想させるもの」が置かれた部屋に入るように指示しました。

 そのうえで、全員に難しいタスクを与えたところ、以下のような傾向がみられました。

  • 金を連想させずに部屋へ入った人は、できるだけ1人で作業を終わらせようとした(金を連想させなかったグループは、すぐに他人に助けを求めた)。
  • 金を連想させた部屋に入った人は、無関係な人が物を落としても、助けようとしなかった。

 人間は、お金のことを考えると自立心が高まり、そのせいで他人を助けようとする気力がなくなる可能性があります。

金持ちになると共感力が下がる

 カリフォルニア大学などの研究(5)では、参加者に「自分がどれぐらい金持ちか? 社会で尊敬されているか?を考えてください」と指示しました。

 その後、全員に架空の就職面接へ参加してもらったところ、以下のような傾向がみられました。

  • 「自分は貧しいし尊敬もされてない」と答えた人は、「自分は金持ちかつ社会のステータスも高い」と答えた人よりも、インタビュー相手の感情をより正確に判断することができた。

 もちろん、金持ち&ハイステータスグループが完全に相手の気持ちがわからないというわけではないものの、確実に他人の感情を読み取ったり共感するのが苦手だったそうです。

金持ちはナルシストになりやすい

 アリゾナ州立大学などの研究(6)では、「自分のことをどれぐらい裕福だと思います?」と尋ね、これを「平均以上効果」と比べたんだそうな。

 「平均以上効果」とは、有名な認知のゆがみのひとつで、実際の能力やスキルとは関係なく「自分は平均より上である」と感じる心理を意味しております。

 そして、分析の結果は以下のようになりました。

  • 「自分は金持ちである」と考えた人ほど自己愛が強く、自分は平均的な人よりも能力があり、スキルがある、と考えがちだった。
  • 客観的な所得や学歴は平均以上効果とは無関係で、とにかく自分で自分のことを金持ちだと思っているかどうかが重要だった。

 実際にはそこまでお金がなくても、自分で「周囲より裕福である」と思っている人は、それにつられて自分の能力やスキルも高いと思いこむ傾向があるようです。

 やはり人間は、お金を持つと「自分は成功者だ」という気持ちが強くなり、それゆえに他人の気持ちに気を払わなくてもよい感覚になるのかもしれません。

金持ちは傲慢になりやすい

 カリフォルニア大学の調査(7)では、サンフランシスコでドライバーの動きを観察したところ、以下のような結果が出ました。

  • BMWのような高級車のドライバーは、安価な車のドライバーに比べて、いったん横断歩道で停止して歩行者に道を譲る傾向が4倍も低かった。
  • それと同時に、高級車のドライバーほど、他のドライバーに割り込む可能性も高かった。

 この結果をもとに研究チームは「富の象徴を持った人は、自分が上流階級にいると認識し、非倫理的な行動をとる傾向がある」と指摘しています。

 これもおそらく上記の「平均以上効果」から生まれる現象の可能性があります。

 この研究チームは、金持ちが取った行動を「自己利益最大化」と名付けております。

 つまり、お金持ちな人ほど「自分にとって何が得なのか?」をベースにしてものごとを考えるため、上記のような行動へ結びつくようです。

 もっとも、ここで研究チームは、このような自己利益最大化の傾向が強い人は、「契約や仕事から最大の利益を得るために最も努力することが多いので、優れたビジネスリーダーになりやすい」とも指摘しています。

終わりに

 このような研究を見ると、昔ながらの金持ちに対する悪いイメージは、必ずしも彼らの生まれついた性格から出たモノ、というだけではない事が分かります。

 我々一般人でも、高い地位や大金持ちになったとたんに、性格が悪くなるの可能性も考慮しないと行けない訳ですね。

参考文献

・(1)Piff, P. K., Stancato, D. M, Côté, S., Mendoza-Denton, R., and Keltner, D. (2012.) “Higher social class predicts increased unethical behavior.” Proceedings of National Academy of Sciences 109: 4086-4091.

・(2)Lammers, J., Stapel, D. A., and Galinsky, A. D. (2010.) “Power increases hypocrisy, moralizing in reasoning, immorality in behavior.” Psychological Science 21: 737–744.

・(3)Gino, F., and Pierce, L. (2009.) “The abundance effect: Unethical behavior in the presence of wealth.” Organizational Behavior and Human Decision Processes 109: 142-155.  

・(4)Kathleen D. Vohs et al. ,The Psychological Consequences of Money.Science314,1154-1156(2006).DOI:10.1126/science.1132491/

・(5)Kraus, M. W., Côté, S., & Keltner, D. (2010). Social Class, Contextualism, and Empathic Accuracy. Psychological Science, 21(11), 1716–1723. https://doi.org/10.1177/0956797610387613

・(6)Varnum ME. Higher in status, (Even) better-than-average. Front Psychol. 2015 Apr 28;6:496. doi: 10.3389/fpsyg.2015.00496. PMID: 25972824; PMCID: PMC4411992.

・(7) https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1118373109

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