絶対に誤解している心理学の実験トップ3選【吊り橋効果・マシュマロテスト・一万時間の法則】

 心理学には、数多くの実験が行われてきましたが、中には一般的に誤解されている実験も存在します。

 本記事では、その中でも特に有名な「吊り橋効果」「マシュマロテスト」「一万時間の法則」について、その実験内容や誤解されている部分、正しい理解の仕方について解説します。

 正しい知識を持つことで、自己啓発や人間関係の改善など、日常生活に役立てることができるかもしれません。心理学の世界に深く入り込んで、実験の真実を見つけていきましょう。

吊り橋効果は外見的魅力がないとダメ

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 吊り橋効果と聞けば恋愛心理学では、外せない効果の一つではないでしょうか?

 しかし、そんな効果も実は多くの人が誤解しています。

 そもそも、吊り橋効果とはどういったものなのでしょうか?

 吊り橋効果とは少しスリリングな体験を男女が共有すると、緊張してドキドキしている時の感情を「相手の魅力によるものだ」と勘違いして起こる現象です。

 元ネタは、プリディッシュコロンビア大学のダットとアロンらがバンクーバーのカピラノ吊り橋で行った実験です。(1)

 この橋は、高さ70mで大勢の人が行き来するので頻繁に大きく揺れ、高所恐怖症の人には恐怖でしかないような場所です。

 まず吊り橋を渡ってきた男性を実験対象としています。この実験参加者は、橋を渡り切った所で「美しい」女性の大学院生に声を掛けられて、実験への協力を呼びかけました。

 もし、実験に協力するならTATという心理テストを行いますが、実験の最後に「後でテストの結果が聞きたい場合には、私に電話してください」とメモを渡されます。

 仮に、カピラノ吊り橋を渡ったことでドキドキしたのなら、彼女へ電話を掛けてることは多いはず。その為、対照群として渡ってもドキドキしない(コンクリート製)橋を渡らせた参加者と比較しました。

 結果、カピラノ吊り橋で33人に声かけたところ、23人が実験に協力し、メモ受け取った18人の内の半数である9人が電話を掛けてきました。

 逆に、安全な橋を渡った参加者23人に声かけたら、23人が協力し、メモを16人が受け取ったが電話を掛けてきたのは2人だけでした。

 また別の実験でも、男性参加者に対して男性大学院性が対応した場合には、どの橋でも効果が見られませんでした。

  つまり、これがいわゆる吊り橋効果を発見した重要な実験だったのです。

 さてここからが本題です。

 お気づきなられた人もいるかと思いますが、この実験の要は「吊り橋」ではなく女性の大学院生が「美女」だった点です。

  そう、単刀直入に言うと外見的魅力がある程度以上ある「イケメンor美女」にしか基本的に吊り橋効果は発生しません。(直球を投げると、ブサイクには吊り橋効果がでないです)

 恋愛心理学でこの実験を語る時に、「美女」の部分を知らず知らずのうちにあるいは意図的に無視しています。

 まるであたかも、ドキドキする所へ好きな子を連れて行けば「いちころ」のようなイメージを持たれますが、ちょっと想像して見てください。

 あなたと一緒にいる異性が「かなり魅力度の低い人(ブサイク)」だった場合に、ちょっとドキドキした程度で「私はあの人に恋しているんだわ!」なんて現実的だと思いますか?

 おそらく多くの人が何とも思わないでしょう。

 実際、1981年に行われた実験では逆吊り橋効果が見られました。(2)

 男性の参加者にメディカルチェックの後、15秒間あるいは、120秒間走らせて、意図的にドキドキ感を作りました。

 そして、その後、一人の女性の自己紹介ビデを見せて彼女についての質問に答えました。

 女性は、「美しい女性」と「あまり美しいくない女性」のパターンがありました。(どちらのパターンも、同じ女性にメイクを施して差を出しています)

 男性が答える質問の中には、ロマンティックな魅力度評定に関する4問の質問が含まれています。

 男性はこれらの質問に対して9段階で回答しました。

 結果は、美女に対しては吊り橋効果が発生し、美しくない人には効果が見られませんでした。

 それどころか、むしろ魅力度が低下するという逆吊り橋効果を発生させてしまいました。

 これはドキドキ感が美しくない女性ではイライラ感に帰属されてしまったと考えることができます。

 とまぁ、外見的魅力があまりない人には痛い話ですが、むしろ自分の見た目に自信が無い人は性格面で優に立てればいいと思います。

 長い関係を気づくには、顔だけでは不十分ですから相手の共通点や優しさなど外見的魅力以外で勝負することは十分に可能です。

 ですから、吊り橋効果の知識を持って間違ってもお化け屋敷には連れて行かないように

マシュマロテストで、自制心は測れない?

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 ウォルターミシェル氏が行った、有名な「マシュマロテスト」についてですが、そもそも「マシュマロテスト」って名前の実験はありません。

 これは本人が著書の「マシュマロテスト」でも言っている様に、もともとマスメディアによって、その名前が付けられました。

 本当の名前は、「先延ばしされたものの、より価値のある報酬の為に、未熟学児が自ら課した、即時の欲求充足の先延ばしパラダイス」です。

 これを、コラムニストのデイヴィット・ブルックスが「マシュマロと公共政策」と題名にしてニューヨークタイムズ誌に乗せて、その後マスメディアによって「マシュマロテスト」とされました。

 しかし、今話したいのは名前の由来ではなく研究の方です。

 マシュマロテストは、ザックリ言うと「幼稚園に入る前の段階の子どもは、目の前に出されたマシュマロをどんだけ我慢出来んの?」という自己コントロールを確かめる実験でした。

 そして、長くマシュマロを食べずにいた子ども(自己コントロールが強い)は、「将来、学業で優秀な成績を出したり、仕事でけっこう稼げるよ」という結果になったことで、実験が一躍有名になりました。

 ところが中には、どんなに頑張ってもマシュマロを我慢できずに食べてしまって、その自己コントロールの無さを嘆く親も実際には居たそうです。

 つまり、自分の子どもは自制心がない=大人になっても成功しないと考える人が出てきてしまったことは、著者のウォルターミシェルも嘆いているところです。

 当たり前ですが、自制心などは後から身に付いたりするので、必ずしもその時点で自己コントロールが無いからと言って、生涯を通じて自制心が無いというワケではなのいです。

 そしてそんなマシュマロテストに「待った!」をかける研究が出てきました。

 2018年に、マシュマロテストの子ども達に追試した上でデータ解析をやり直したら、マシュマロテストでは必ずしも子供の将来の学業成績を予測できなことが判明しました。(3)

 自己コントロールが影響するよりも、家庭の経済レベルが高い子どものほうがよりマシュマロを我慢出来る時間が長いと結論づけられています。

 ですので、今現在はマシュマロテストと自己コントロールの関係についてはかなり不鮮明なので解釈に注意が必要となっています。

 マシュマロテストを挙げて自己コントロールが何だかんだ、と言っている人は十分注意してください。

 ただし、自己コントロールに意味がないと言っている訳ではないのでそこは間違えないように。

外的動機づけで何かをやらせるのは悪いことではない

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 外発的動機づけと聞くと何だか悪い気がする人がいたら、それは間違いです。

 よく教育ママが書いた自己啓発書に「子どもを物で釣って何かを覚えさせるのは良くない」とか「子ども行動に報酬を与えたらむしろやらなくなる!」と言った言葉を目にします。

 率直な疑問ですが、それらの意見は本当なのでしょうか?

 有名な実験では1971年に心理学者のエドワード・デシが「ソマ」とうパズルでやる気に与える影響を調べた実験があります。(4)

 参加者を集めて30分間ソマ・パズルをしてもらいました。

 始める前に参加者の半分にはパズルが解けた時に報酬を約束し、もう半分には何も約束しませんでした。

 30分後、デシは参加者に制限時間が来たことを伝え、そのまま実験の第二部に必要な書類を研究室に置いて来たから、取りに戻ると伝えてその場を離れました。

 デシは、参加者を10分間だけ一人にしてその行動を観察しています。

 参加者は待ち時間でパズルを続けることも、雑誌などを読むことも出来ました。

 すると、パズルに対する力量とは関係なく、報酬の約束をされなかった参加者のほうが、1人で放置されてもパズルを続けている割合がはるかに高かったのです。

 さらに別の研究では、子ども達を集めて絵を書いてもらい半数の子どもには、一枚描くごとにメダルをプレゼントを約束し、残りの半数には何の約束もしませんでした。

 その結果、報酬を約束されなかった子どもたちのほうが長く絵を書き続けました。(5)

 この様にして、外発的動機づけ(報酬を与える)行為は結果的に本人のやる気を削ぐことになると言われてきました。これを「アンダーマイニング効果」と呼びます。

 ところが、アンダーマイニング効果を拡大解釈しすぎるとあらゆる報奨などが、悪いという事になります。

 しかし、様々な実験や調査の結果で、現在は報酬をネガティブに捉えるのは誤りであることが分かっています。(6)

 もちろん、だからと言って毎回の如く子どもに報酬で釣っていては、その効果は薄れて行くので注意が必要です。

コラム1:「一万時間の法則」と練習(努力)の正しい捉え方

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 昨今、一万時間の法則についてはかなり風当たりが強いですね。

 確かに現在は、一万時間の法則は役に立ちません。それは色々な研究が証明しています。(悲しいことに、2024年以降もこれは覆っていないです)

 そもそもの元ネタは、フロリダ州立大学の心理学者K・A・エリクソンと共同研究者が1993年に発表した論文です。(7)

 ベルリンにある音楽学校の学生とプロのヴァイオリニストが、どれだけ単独練習を18歳までに行ったかを調べました。

 結果としては、技術レベルが高いほど、平均の練習時間は多いことが分かりました。プロや最も高い技術を持つ学生は、18歳までに平均で7400時間の単独練習をしていました。

 というワケで、この論文の中ではエリクソン自身が一万時間という時間を決めてはいません。ただ、それくらい長い時間練習したりすることが重要だと言ってます。

 その後、その考えに疑問視する声や研究が上がり、現在は眉唾物として扱われいます。

 しかし、だからといって練習することは無駄ではありません。人によっては、早く上達する人もいるし、遅咲きの人もいます。

 一万時間というのは、あくまでもそれくらいの時間を掛けていれば、およそ自分に才能があるのか判断できる最後のラインだと考える事も出来ます。

 一万時間かけても上達しないなら、運がないと思って諦めた方が無難だという風に捉えてもいいのではないでしょうか。

コラム2:成長マインドセットの問題点

 『成長マインドセット』とはスタンフォード大学のキャロル・ドウェックが2006年ごろに提唱した説で、「自分の能力はトレーニングで改善できると思っている人ほど、本当に成長する」という考え方です。

 ドウェックは、マインドセットの考え方は、減量、ビジネスの成功、中東の平和など、さまざまなことに役立つと主張し、日本で『マインドセット『やればできる!』の研究』という邦訳が売れたおかげもあり、今現在も有名な仮説の1つです。

 かつて、マインドセットといえば「人生の成功に欠かせない」などと言われましたが、個人の能力を左右するほどの可能性の無いと指摘され始めました。

 例えばケース・ウェスタン大学(8)などの研究では、過去に行われたマインドセットの研究から63件を集め、約98,000人のデータをメタ分析しました。

 マインドセットの効果を検証したメタ分析としては、かなりレベルは高めと言ってよいでしょう。

 分析結果からは以下のようなことが判明しました。

  • メタ分析の結果、マインドセットには、僅かながらプラスの効果が認められたが多くの研究では “操作チェック “が欠けており、研究の不備を正せば、マインドセットの効果はほぼゼロになる可能性がある。
  • マインドセット研究は、マインドセットのビジネスに関わる人によって行われたものが多く、そのせいで結果がゆがめられている可能性がある。事実、金銭的な利害関係のある研究者が行った研究では、金のモチベーションがない人に比べて2.5倍以上の頻度でプラスの効果が報告されている。つまり、マインドセットで金儲けをしている人たちが、不利なデータの公表を控えていた可能性がある。
  • 全体の10%の研究では、本来は「無効(効果なし)」って結果が出ているのに、あたかも結果が有意であるかのように記述するという捻じ曲げが行われていた。

 マインドセットに関する研究は、かなり歪んでおり、その効果が確認されても極小規模の可能性があるという結果でした。

 さらに調査を行った研究チームは以下のようにも述べています。

  • 成長マインドセットがモチベーションや行動に意味のある変化をもたらすという議論は支持されない。

 ただし、成長マインドセットは完全に否定されたわけではなく、過去のデータでは以下のような結果も出てます。

  • すでに成績が良い人には効かないけど、いま成績が悪い人には、マインドセットは十分に意味があるのでは?
  • 特定の能力を伸ばす効果は低いかもだが、マインドセットの介入によって、能力の低下を防ぐ働きはあるのでは?

 また、この研究チームは以下のようなことも言及しています。

  • 今後の研究では、特定の介入の結果を誇張しすぎないようにするべきだ。「魔法のような」効果をうたう主張があったら、基本的には近づかない近づかないほうがよい。

 人生の成功に必要な能力は、社会状況(経済成長・経済停滞)や国(先進国・新興国)によってかなり変化するので、あらゆる側面において必要な才能があるわけないのです。

 ちなみに以下の動画のように、有名企業を退社した人が理論を語る風潮は続いていますが、その中に【成長マインドセット】も含まれているので警戒したいところです。↓↓↓

参考文献

書籍

・竹内龍人「進化する勉強法 漢字学習から算数、英語、プログラミングまで」(誠文堂新光社、2019年)

・越智啓太「恋愛の科学 出会いと別れをめぐる心理学」(実務教育出版、2015年)

・リチャード・ワイズマン「その科学があなたを変える」(文藝春秋、2013年)

・リチャード・ワイズマン「その科学が成功を決める」(文春文庫、2012年)

・ウォルター・ミシェル「マシュマロ・テスト:成功する子・しない子」(早川書房、2015年)

論文

・(1)Dutton, D. G., & Aron, A. P. (1974). Some evidence for heightened sexual attraction under conditions of high anxiety. Journal of Personality and Social Psychology, 30, 510-517.

・(2)White, G. L., Fishbein, S., & Rutstein, J. (1981). Passionate love and the misattribution of arousal. Journal of Personality and Social Psychology, 41, 56-62.

・(3)Watts, T. W. et al. (2018) Revisiting the Marshmallow test: A conceptual replication investigating links between early delay of gratification and later outcomes. Psychological Science, 29, 1159-1177.

・(4)Deci, E.L. (1971). ‘Effects of externally mediated on intrinsic motivation’. Journal of Personality and Social Psychology, 18, 105-15.

・(5)Lepper, M.R., Greene, D., & Nisbett, R.E. (1973). “Underminig children`s intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the “overjustification ” hypothesis’. Journal of Personality and Social Psychololgy, 18, 105-15.

・(6)Eisenberger, R. & Cameron, J. (1996) Detrimental effects of reward. Reality or myth? American Psychologist, 51, 1153-1166.

・(7)Ericsson, K. A., Krampe, R. T., Tesch-Romer, C.(1993) The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review, 100, 3, 363-406.

・(8)Macnamara BN, Burgoyne AP. Do growth mindset interventions impact students’ academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices. Psychol Bull. 2022 Nov 3. doi: 10.1037/bul0000352. Epub ahead of print. PMID: 36326645.

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