ネガティブ思考の意外な利点:科学が明かす成功への鍵

ネガティブ思考は、一般的には好ましくないと考えられていますが、科学的にはその利点が指摘されています。

例えば、ネガティブ思考を持つ人は、問題点を明確に認識し、失敗や問題に対して冷静に対処することができます。

また、ネガティブ思考を持つことで、自分自身や周囲の人々に対してより現実的な見方ができるようになり、健康や安全に関するリスクを避けることができるとも言われています。

ただし、過度にネガティブ思考に陥ると、うつ病や不安障害などの心理的な問題を引き起こすことがあるため、バランスのとれた思考が重要となります。

適度なネガティブ思考は、人間の生存や社会的活動において役立つと言えます。

うつ状態は実力を高める絶好のチャンス

自分に自信がない人は、自信過剰な人よりも、他者からの厳しい評価を求める傾向がある。

たとえば、自己主張の激しくない人ほど、自分に対して批判的な人と付き合うことを好む傾向がある。

自分を褒める人が 周りにいても、あえて自分に厳しい人を選んでいる。

そしてこの現象は「自己肯定化」と呼ばれている。

彼らが求めているのは「正しい現実」であり、いわゆる自信家の人たちが現実を解釈しているのとは正反対の姿勢だ。

それに、自己肯定化と自信過剰では、まったく違う結果につながる。

自分を過大評価する 人は、自信は持てるかもしれないが、現実を正しく認識することはできない。

一方で自分を厳しく評価する人は、たしかに自信がなくて辛い思いをするかもしれないが、現実を正し く認識することができる。

そして当然ながら、自分に厳しい人は、自信過剰な人よりも、実力を高めるために努力する。

うつ病のような極端なケースでもそれは変わらない。

気分の落ち込みにも、何か心理的に重要な役割があるかもしれないと考えたことはあるだろうか?

その可能性については、進化論的な観点から考察されてきた。

つまり、うつ状態になるのは、現実の問題に対処するための一つの手段だというのである。

たとえば、人はうつ状態になると、小さなことがどうでもよくなる。

その結果、普通なら 楽しいちょっとしたことにも、楽しみを見いだせなくなる。

これはうつ病の典型的な症状だ。

つまり人類は、うつ状態になることで、余計なことに気を散らさずに、難しい問題だけに 集中することができるように進化したのだ。

頭を使わなければならない問題、集中力が必要な問題は、特にうつ状態が助けになる。

体に病原菌が入り込むと、発熱によって問題に対処 しようとするのと同じように、うつ病もまた、脳が難しい問題に対処しようとしている結果なのだ。

愛する人を失う、楽しい休暇の終わり、失敗、失望といった事態と、折り合いをつけようとしている つまり私たちは、うつ状態のおかげで、ネガティブな出来事に対処し、 この先同じようなつらい経験をくり返さないように準備ができるというわけだ。

このように、うつ病には進化上の大切な役割があるのだが、うつの症状を躍起になって消そうとするのが最近の風潮だ。

たとえばアメリカの場合、もっとも多く飲まれている薬は抗うつ剤だ。

うつ病の診断を受けていなくても、実に10%の人が日常的に抗うつ剤を飲んでいる。

ある調査によると、抗うつ剤の売り上げはここ20年で200%も伸びたという。

薬の 消費が増えると、依存症の人も増える。

その結果、うつ病患者の率も、抗うつ剤の消費とほぼ同じくらい増える結果になった。

つまり現代人は、ネガティブな自己イメージを拒否し、自信のなさから目を背けるあまり、何百万年にもわたる進化で培ってきた「対処するスキル」を失っているのかもしれない。

私たちは、甘やかされすぎた結果、不快な感情や失敗と向き合うことができなくなっているのだろうか。

進化と、うつ病の関係について革新的な発見をした二人の心理学者、ポール・アンドリュー ズとアンディ・トムソンは、次のように言っている。

抗うつ剤を処方して治療することを 重視する最近の風潮は、痛みをすぐに消したいという本能的な欲求から生まれている。しか し、心の痛みに耐え、むしろ自分の利益になるように活用する方法を学ぶことが、もしかし たらうつ病が存在する進化的な理由なのかもしれない。 哲学の世界では、つらい経験が成長の糧になり、自分自身や人生の問題に対する洞察を深めるきっかけになるという考え方が昔 から存在するが、これもうつ病の進化上の役割と関係があるのかもしれない」 (1)

ここでアンドリューズとトムソンが言っている哲学的な伝統とは、ストア主義のことだ。

ストア主義は古代ギリシャを起源とする哲学の一派で、自分を厳しく律する禁欲主義が特徴だ。

現代の「自分大好き」の風潮とは違い、ストア主義は、快楽ではなく真実を追究せよと教えている。

古代ローマでもっとも影響力のあったストア派の哲学者、ルキウス・セネカ は、「不幸を勇気で乗り越えることができる人間ほど、尊敬を集める存在はない」と言って いる。

ストア主義の教えでは、ポジティブな感情ばかり追い求めるのは、むしろ自分にとっ て害になるのだ。

つまり、気分が落ち込んだり、自信を失ったりしても、絶望する必要はないということだ。

むしろそれは、自分を高める絶好のチャンスになる(唯一のチャンスではないにしても)。

ここでは、次のことだけを覚えておけばいい 自信があるから成長できるのではなく、実力があるから成長できるのだ。

実際、逆境を受け入れるほうが、逆境から目を背けるよりも、ずっと成長の糧になる。ストア主義で昔から言われているように、人は苦痛、涙、傷心 によって強くなるのだ。

不安は役に立つ

自信の正体がだんだんと明らかになってきたところで、今度は「自信の低さ」のポジティブな力について見ていこう。

不安障害やうつ病といった極端なケースでも、自信の低さには利点があるということを納得してもらえるはずだ。

自信が低いと、現実 的なリスク分析ができたり、もっと実力をつけようという動機付けになったりする。

むしろ 自信の低さは、将来の成功のために重要な役割を果たしてくれるだろう。

本気で達成したい ことがあるのなら、むしろ自信は低いほうがいい。

自信がないと、適応力がつく。

大惨事を予防できるし、努力して実力をつけることもできる。

このメカニズムをよく理解するには、自信のなさの本質を知らなければならない。

自信がないとは、つまりどういうことなのだろうか?

その疑問に答えるために、まず「不安」 についてざっと見ていこう。

人間が「不安」の感情を抱くのは、生き残るために必要だからだ。

不安を感じ、いわゆる 「戦うか、それとも逃げるか」のメカニズムが発動することによって、身の安全のために注意したり、危険に対して準備したりできる。

つまり、不安とは、危険を察知したときの感情 的な反応であり、不安のおかげで警戒や注意を高めることができる (2)。

人類がまだ言葉を持たず、この感情にまだ名前が付いていなかった時代から、私たちは不 安のおかげで逃げる準備や戦う準備をすることができていた。

私たちの祖先にとって、身の 危険が迫ったときに「逃げろ!」と教えてくれるのも、または「動くな! そこにいろ! 」「やめろ」と注意してくれるのも、この不安の感情だった。

自信が低い状態のときは、たいてい失敗を予測する。

たとえば、大学入試や就職の面接、 運転免許の試験結婚式の乾杯のスピーチなどを控えているとき、自信がないと人は不安に なる。

そして不安のあまり、そのイベントから逃げ出したくなる。

人間の脳は、異臭、大き な、変な味など、周囲に異変が起こると、本能的に反応するようにできていて、それが 「不安の感情を抱く」という形になって表れる (3)。

また、不安な気持ちから生まれる「内なる声」も、人間にとって大いに役に立つ。

たとえばトラやサメとばったり出合ったと き、不安の声がなかったらいったいどうなるか想像してみよう。

当然ながら、心配性の人は、命に関わるような事故を起こす確率が低い。たとえば、イギ リスで行われたこんな調査がある。

15歳の子供を1000人以上集め、教師の証言や心理テスト などを使ってそれぞれの不安傾向を測定し、その人たちが10年後までに事故死したかどうか 調べたのだ。

その結果、15歳のときに不安傾向が強かった人ほど、25歳までに事故死 する確率は低くなることがわかった(4)。

また別の調査では、不安傾向の強い人ほど、 HIV予防プログラムに積極的に参加するということがわかっている。

不安傾向の強い人 は、他にも伝染病の予防に敏感で、病気と思われるような症状が出たり、薬の副作用が出た りすると、すぐに医者に診てもらう(5)。

また、不安傾向の強い人は、洪水の被害にあう確率も低い。自然災害に備えて普段から準 備しているからだ。

洪水が多い地域に住んでいる100人以上を対象に調査したところ、心配性の人だけが普段から洪水に備えているということがわかった(6)。

女性のほうが男性より長生きなのも、この不安の持つ力で説明できる。

女性は男性に比べ て不安傾向が強いので、男性と同じだけ病気のリスクがあるにもかかわらず、世界のどの地 域でも女性のほうが長生きだ。

女性は、気になる症状があるとすぐに医者に診てもらい、過 度な飲酒をせず、喫煙率が低く、違法ドラッグを摂取せず、体重の問題を抱える人も少ない強いので、 男性より長生きなのも 男性と同じだけ病気のリスクがあるにもかかわらず、世界の 気になる症状があるとすぐに医者に診てもらい体重の問題を抱える人も少ない。

ロンドン大学精神医学研究所のイサーク・マークスと、ミシガン大学医学部のランドル フ・ネッセによると、いわゆる「間違った警告」であっても、そのたびに反応するのはいい ことだという。

なぜなら、間違った警告に反応するコストよりも、本物の危険を見逃してし まうコストのほうがはるかに大きいからだ。

つまり、不安を感じるのは人間にとってよくあ ることであり、危険を避けるという意味で、思っている以上に役に立っているということいだ。

だからこそ、不安障害の症状を訴える人が、こんなにたくさんいるのだろう(7)。

うつ病と不安障害 どちらも自信が極端に低い人がかかりやすい病気であり、またどち らも特に珍しくない病気だ。たとえばアメリカでは、うつ病か不安障害の症状を訴えている人は、全体の30%にもなる (8)。

しかも、これでもまだ控えめな数字かもしれない。四 万人以上のアメリカの学生を対象にした最近の調査によると、50%の学生が、病名がつくような何らかの精神的な症状を見せていたという。

つまり、不安障害の患者の数は、実際に治療を受けている人の数よりもずっと多いかもしれないということだ(9)。

不安障害とうつ病は重なる部分が多い(10)。

不安障害の症状がくり返し出た結果、もう心が対処しきれなくなり、不安と恐怖から逃れるために感情を殺してしまうのがうつ病だとも言えるだろう。

実際にうつ病と診断されるまでになると問題だが、ちょっとした気分の落ち込みや、悲観的な人生観には、実際に利点もある。

心理療法士のエミー・ガットは、うつ病は身の回りにある本物の問題に対処する過程で生まれたという説を唱えている。

注意力やエネルギーのすべてを目の前の問題に集中させるために、それ以外の感情をシャットアウトしているというのだ。

うつ病というと、不快な経験や感情などから逃避していると思われがちだが、実はその正反対だったのである(11)。

イギリスの進化心理学者、ダニエル・ネトルによると、元々うつの傾向がある人は、自分に厳しく、その結果として競争力が高くなるという。

「ネガティブな傾向が強い人は、理想 の状態に到達するために努力し、 悪い結果を避けるために努力する。

その結果、進化のうえ で生存に適した状態に近づけるのだろう」とネトルは言う(12)。

うつ病には進化上の利点があるというネトル博士の主張は、他の数多くの研究でも裏付け られている。

うつの傾向がある人は、たいてい自分を正確に評価できる心理学の世界で 「抑うつリアリズム」と呼ばれている現象だ。

この現象についての調査は以前から行われて いて、たとえば抑うつ傾向のある人は、自分の評判、能力、社会的地位を、抑うつ傾向のな い人よりも正確にとらえている(13)。

同じような調査は何度も行われているが、結果は いつも同じだ。

特に、やや悲観主義の傾向がある人ほど、自己評価が正確になるという。

つまり、自信の低さとは、一種のリスクマネジメント戦略だということだ。

過去、現在、未来における自分の能力を正確に把握し、リスクに備えているのだ。

自信の低い人の自己謡 価は、周囲からの評価とだいたい一致しているが、完璧主義がすぎる場合には周囲の評価よりも低くなる。

とはいえ、たとえ自己評価が低すぎるケースでも、自信の低さはアド バンテージになる。それは、損失を最小限に抑えられるからだ。

適度な悲観主義は、環境に適応して生き残るうえで大きな力になる。

たとえば、精神科医のロバート・リーヒは、悲観的な人と楽観的な人を対象に、カードを使った賭けという形の実験を行った。どういう結果になったかは、だいたい想像できるだろう。

悲観的な人は、自分が賭けに負 けると予想し、そもそも賭けるのをやめる。一方で楽観的な人は、自分が勝つと予想する。

その結果、悲観主義者は賭けで勝つことはないが、負けることもない。

そして楽観主義者 は、すべてを運任せにするので、勝って大金を手に入れることもあれば、負けてすべてを失 うこともある。

そして最終的には、たいていすべてを失うのだ。

とはいえリーヒによると、「ずっと悲観的でいられる人はほとんどいない」という。

「進化 上の衝動なのか、ふと賭けてみることにしたところ勝ってしまい、それまでの悲観主義が崩 れることもあるようだ」とリーヒは言う(14)。

カードゲームだけでなく、野生の王国でも結果は同じだ。

先にも登場したマークスとネッ ても、数秒ごとに顔を上げて肉食動物がいないかどうか確認しているシカは、エサを食べたり、交尾したり、子供の世話をしたりする時間は減るかもしれない。

そしてあまり頭を上げず、食べることに集中するシカは、食べられるエサ の量は増えるかもしれないが、自分がエサになるリスクが大幅に高くなる」(15)。

このように、不安傾向があること、自信がないことは、注意力を高めて損失を減らすという意味 で、生き残るうえで利点になるのである。

つまり、自信の低さのもっとも大きな役割は、環境に適応して生き残る助けになることだ。

自信の低さゆえに不安になり、それが自分の身を守ることにつながる不安とは「自信がない理由を考えなさい」というメッセージであり、実力を高めて自信のなさを克服しようとするきっかけになるのだ。

とはいえ、生まれつき悲観的な性格で、いつも最悪の結果を予想するから自信が低いとい う可能性も考えられるだろう。

この場合は「悲観バイアス」だ。

もちろん、何事においても 自信がなく、悲観的で、ネガティブな人というのも存在する。

そういった性格は、子供時代 に感じた不安と、生まれつきの性格の組み合わせでできている。

いずれにせよ、自信のなさには環境適応のうえで利点があり、損失を最小限に抑えるという役割がある。

ある特定の物事に対してだけ自信がない場合も、またはすべてにおいて悲観的な性格で、何事も悪いほうに考えてしまう場合も、自信のなさは、失敗を予防して自分を 守ろうという脳の働きなのだ。

参考文献

・(1)P. W. Andrews and J. A. Thomson Jr., “The Bright Side of Being Blue: Depression as an Adaptation for Analyzing Complex Problems, Psychological Review 116, no. 3 (2009): 620-54

・(2)D. H. Barlow, Anxiety and Its Disorders: The Nature and Treatment of Anxiety and Panic, 2nd ed. (New York: Guilford Press, 2002).

・(3)D. H. Zald and J. V. Pardo, “Emotion, Olfaction, and the Human Amygdala: Amygdala Activation During Aversive Olfactory Stimulation,” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 94, no. 8 (1997): 4119-24.

・(4)W. E. Lee, M. E. Wadsworth, and M. Hotopf, “The Protective Role of Trait Anxiety: A Longitudinal Cohort Study.” Psychological Medicine 36, no. 3 (2006): 345-51.

・(5)M. O. Johnson, “HIV Vaccine Volunteers: Personality. Motivation and Risk,” ProQuest Information & Learning, AAM9839840 (1999).

・(6)P. Simpson-Housley, A. F. De Man, and R. Yachnin, “Trait-Anxiety and Appraisal of Flood Hazard: A Brief Comment,” Psychological Reports 58, no. 2 (1986): 509-10.

・(7)I. M. Marks and R. M. Nesse, “Fear and Fitness: An Evolutionary Analysis of Anxiety Disorders,” Ethology and Sociobiology 15 (1994): 247 61.

・(8)”Statistics.” National Institute of Mental Health, http://www.nimh. nih.gov/statistics/.

・(9)C. Blanco, M. Okuda, C. Wright, D. S. Hasin, B. F. Grant, S. M. Liu, and M. Olfson, “Mental Health of College Students and Their Non-College Attending Peers: Results from the National Epidemiologic Study on Alcohol and Related Conditions,” Archives of General Psychiatry 65, no. 12 (2008): 1429-37.

・(10)K. Belzer and F. Schneier, “Comorbidity of Anxiety and Depressive Disorders: Issues in Conceptualization, Assessment, and Treatment,” Journal of Psychiatric Practice 10, no. 5 (2004): 296-306.

・(11)E. Gut, Productive and Unproductive Depression: Success or Failure of a Vital Process (New York: Basic Books, 1989).

・(12)D. Nettle. “Evolutionary Origins of Depression: A Review and Reformulation.” Journal of Affective Disorders 81, no. 2 (2004): 91-102.

・(13)L. B. Alloy and L. Y. Abramson, “Judgment of Contingency in Depressed and Nondepressed Students: Sadder but Wiser?” Journal of Experimental Psychology: General 108, no. 4 (1979): 441-85; K. Dobson and R. Franche. “A Conceptual and Empirical Review of the Depressive Realism Hypothesis.” Canadian Journal of Behavioural Science 21, no. 4 (1989): 419-33.

・(14)R. L. Leahy, “Pessimism and the Evolution of Negativity,” Journal of Cognitive Psychotherapy 16, no. 3 (2002): 295-316.

・(15)Marks and Nesse, “Fear and Fitness,” 254

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