睡眠不足が仕事効率に及ぼす悪影響と科学的解決策

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 良質な睡眠は、仕事にとって極めて重要な役割を果たします。

 しかし、仕事に追われていると、睡眠の質や量が犠牲になることがあります。

 本記事では、睡眠不足は、認知能力の低下や判断力の劣化、注意散漫などの問題を引き起こし、仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性を科学的に解説します。

短時間睡眠のヤバさ

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 短時間睡眠については悲しきかな、多くの国で問題になっている。

 2000年に、250ヵ国で行われた睡眠に関する大規模なアンケート調査では、回答者のおよそ5割が「充分に休むには8時間以上の睡眠が必要」だと回答した。(1)

 だが、実際には回答者のおよそ15%程度しか8時間以上睡眠を摂っていると答えられる人はいなかった。

 短時間睡眠する本人は、まるで自覚が無いばかりか時にはどれだけ寝ていないか(いわゆるオール)を自慢する人もいる。

 ではそんな短時間睡眠を誇らしく思う人たちにある実験を教えよう。

 ワシントン大学のグレゴリー・ベレンキーは2003年に参加者を集めて、睡眠研究室で2週間過ごしてもらった。(2)

 参加者を4つのグループに分けて、最初のグループは9時間寝てもらい、後のグループは7時間、5時間、3時間に分かれて寝てもらう。

 実験中、定期的にコンピュータ画面に点が表示されたら押すという俊敏性を測るテストを行う。

 すると数日経っただけで、9時間寝たグループ以外は疲労感が強くなり・注意力の低下、さらには「7時間寝たグループ」でも、注意力が大幅低下していた。

 注意力の低下は大きな事故につながる可能性がかなり高い。

 例えばアメリカの全国道路交通安全局の報告では、10万件以上の事故で強い睡眠からくる死亡事故は1500件だ。

 18歳から25歳までの死亡事故原因の第一位となっている。

 皮肉なことに「全米最優秀安全運転ドライバー」の少年が居眠り運転で命を落とした例もある。

 もちろん、これは車の事故に限った話ではない。

 注意力の散漫や疲労感が強くなると、まず仕事に手がつけられなくなる。

 そうすると、明らかに生産性が悪くなり仕事の評価も落ち始めるだろう。

 さらに別の研究では、睡眠不足は理性的な判断力や自制心・道徳などを欠如させることになるという結果もある。

寝だめで睡眠不足は解消しない

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 私達の睡眠が足りていない状態を「睡眠負債」と呼び、それがどんどん積み重なって行くと深刻な影響を出てくる。

 よく「長期休み」や「土日」に沢山寝て、普段の寝不足を解消しようとする人がいるでしょう。(と言うか、大体の人はそうだが)

 ある実験では、健康な10人に14時間近くベットで寝てもらった。(3)

 実験前の全員の平均睡眠時間は7.5時間だった。

 その後、3週間が経過した時の睡眠時間の平均は8.2時間だった。これが本来、参加者達が摂るべき睡眠時間だと考えれた。

 だが、実験前では平均睡眠時間は7.5時間だったが、実際の睡眠時間の平均は8.2時間であり、その差は40分。

 つまり参加者は「毎日40分の睡眠負債」を抱えていたこととなる。

 さらにここから分かるのは、たった40分の睡眠負債を返還するのに3週間も掛かった点だ。

 もし、普段から2~3時間以上の睡眠負債を抱えているのであれば、1ヵ月以上も毎日14時間近い睡眠を摂らないと負債を返済する事は不可能。

 単に休日だからと言って、いつもより少し多く寝てた程度では解決できない事がわかる。

そして眠り過ぎも体に害悪

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 単に睡眠不足は良くないというだけでなく、睡眠過多も同時に良くないとことも注意したい。(4)

 ある大規模な調査では、毎晩の睡眠時間が9時間以上眠る人は、糖尿病・肥満・頭痛・癌・心臓病などを引き起こしやすいことが分かった。

 しかも、睡眠時間が長い人は「過眠症」になりやすい。

 一日中眠気に襲われ、仮眠をとっても気分が晴れず、記憶力が低下し、疲労感がいつまでも残り続ける。

 我々一般人には8時間が最適解なのだろう。

 よく言う俗説的な「睡眠は8時間摂りましょう」というのは、正しいという事が分かった。

 7時間以下も体に悪く9時間以上も体に悪い。

 まぁ世の中にはショートスリーパーと呼ばれる、短い睡眠でも平気な珍しい遺伝子を持った人間がいるが、残念ながら後発的に身に着けることは不可能。

 もしあなたが、短い睡眠でも快適だと思うなら単なる「思い込み」か、もしかしたら本当に「ショートスリーパー」なのかもしれない。

 だが、ショートスリーパーになれる確率を考えれば、おとなしくゲームのガチャを回した方がレアキャラ出会える確率の方が遥かに高い。

睡眠不足は誤魔化しをさせる

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 睡眠不足には、仕事に対して自制心や道徳心を失わせる力がある。

 例えばノースカロライナ大学チャペルヒル校では睡眠不足が医療現場に及ぼす影響を調べた。(5)

 看護師を集めて睡眠状況を確認し、勤務中に自分がどんなミスをしたのか答えてもらった。

 ある看護師は秘密にすべき情報を外部に流し、また別の人は違法薬品を病棟内で使用したりした。

 睡眠が7時間以下だった看護師はおよそプロとは思えない行為を犯していた。

 さらに、ヴァージニア工科大学パンプリン・カレッジ・オブ・ビジネスでは、睡眠不足と騙す行為の関連を調べた。(6)

 学生たちを集めて1週間の睡眠時間を記録してもらい、その後で簡単なクイズに答えてもらった。

 あえて誤魔化しを見逃すと、睡眠時間が短い学生ほど誤魔化す傾向が強かった。

 ここから分かるのは、睡眠不足が仕事に影響するだけでなく、誠実性や自制心といったところでも、それらを著しく低下させることが見て取れる。

 適切な睡眠を心掛けるのは、人としての基本的な機能の回復と維持を行うのに、必要なことだと覚えておかなければならない。

参考文献

書籍

・西野清治「スタンフォード式最高の睡眠」(サンマーク出版、2017年)

・リチャード・ワイズマン「よく眠るための科学が教える10の秘密」(文藝春秋、2015年)

論文

・(1) Martin, P.(2003). Counting Sleep . Flamingo: London.

・(2) Belenky G., Wesensten N. J., Thorne D. R., et al. (2003). ‘Patterns of Performance Degradation and Restoration During Sleep Restriction and Subsequent Recovery: A Sleep-Dose Response Study’ . Journal of Sleep Researcb, 12, 1-12.

・(3) Dement, W.C., Sleep extension: getting as much extra sleep as possible. Clin Sports Med, 2005. 24(2): p. 251-68, viii.

・(4) Gallicchio, L., & Kalesan, B. (2009). ‘Sleep Duration and Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis’ . Journal of Sleep Researcb, 18, 148-58.

・(5) Christian, M. S., & Ellis, A. P. J. (2011). ‘Examining the Effects of Sleep Deprivation on Workplace Deviance: A Self-Regulatory Perspective’ . Academy of Management Journal, 54(5), 913-34.

・(6) Barnes, C. M., Schaubroeck, J., Hurh, M., & Ghumman, S. (2011). ‘Lack Of Sleep and Unethical Conduct’ . Organizational Bebavior and Human Decision Processes, 115(2), 169-80.

 

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