昼寝の力:勉強と記憶を向上させる効果的な睡眠戦略

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 普段、生活していると身の回りには意外と昼寝をしている人は多い。

 有名企業のGoogleは、むしろ昼寝を推奨し、仮眠を摂る為のスペースまで用意しているという徹底ぶりで、また昨今の企業では昼寝の有効性を見直し、自社に取り入れようとする会社も増えてきている。

 なぜそこまでして、脳は人に睡眠を摂らせたいのだろうか?

 今回は、睡眠と学習の関係について紹介して行く。

学習と睡眠不足 

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睡眠が学習と切っても切れない縁であることは、過去の研究から明かされている事実だ。

 ある研究では参加者を集めて、二つのグループに分けた。(1)

 片方のグループは、朝の内に単語リストを渡して覚えてもらい、夕方に記憶力をチェックする。

 もう片方のグループは、夜に単語リストを覚えてもらい翌朝に記憶力をチェックした。

 その結果は、実験中に睡眠を摂ったグループの方が多くの単語を記憶しておい圧勝だった。

 睡眠を摂ることは、覚えた内容を記憶に定着させる為の重要なステップであるという事が言える。

 また別の研究では、逆に睡眠不足が学業成績などに与える影響を調査したものもある。

 テルアビブ大学のアヴィ・サデー博士が行った研究では、いくつかの小学校を回って、四年生と六年生の生徒を集めて二つのグループに分けた。(2)

 片方のグループには毎晩いつもより30分早く寝てもらい、もう片方のグループにはいつもより30分遅く寝てもらった。

 3日後、子ども達はいくつかのテストを受ける

  結果は、睡眠時間が短かった生徒は、テストの成績も悪かった。

 2013年にはボストン大学の研究チームが、50ヵ国以上の100万人に近い生徒を対象として学業成績と睡眠習慣を調べた。

 すると、アメリカの子どもで13歳から14歳の80%に睡眠不足が見られ、後に続くのがニュージーランド、サウジアラビア、オーストラリア、イギリスだった。

 さらに、マサチューセッツ州ザ・ホーリー・クロス大学の心理学者が、睡眠不足がもたらす影響について調べた(3)。

 3000人以上の高校生を対象に調査を行い、成績がAとBの生徒は成績がC以下の生徒よりも眠りにつく時間が40分早く、睡眠時間が25分多かったのだ。

 睡眠不足が勉強や記憶にとって有利に働くことは無いので、出来るだけ睡眠時間はキチンと確保しておいた方が得策だと理解できる。

 遅くまで起きていたり、一睡も寝ていない(オールする)事を自慢したりするのは良いが、それ以上のモノを失う可能性を考慮しておくべきだ。

眠ることで記憶する

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いわゆるスリープラーニング(睡眠学習)は、実は短い仮眠でも効果があることをご存じだろうか?

 ハーバード大学で行われた研究で、参加者に単語リストを覚えてもらった。(4)

 半数の参加者は20分の仮眠を摂るように指示を出し、もう半数の参加者は眠らずに過ごす。

 4時間後に単語のテストを行うと、20分間だけ仮眠をしたグループの方が、単語をより多く記憶できている事が分かりました

 同じような研究は、2008年にデュッセルドルフ大学も行っている。(5)

 参加者を集めて、単語リストを覚えてもらったあとに、任意に3つのグループに分ける。

 第一のグループは眠らず、第二のグループは40分ほど寝てもらい、第三のグループは6分間の仮眠を摂らせた。

 その後、覚えた単語を言ってもらうと、6分間の仮眠を摂ったグループが一番成績が良かったのだ。

 2009年にアメリカのブロック大学が、仮眠を摂ることで気分や反応力、注意力が向上すると結論を出した(6)。

 さらにハーバード大学公衆衛生学部の研究者は、20歳から80歳の成人2万人以上に、食生活、運動量、昼寝の時間について回答してもらった。(7)

 すると、週に最低3回30分昼寝をしている人は、心臓病で死亡する可能性が37%低いという結果になった。

 リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学では、昼寝をすると血圧が下がり、健康に良いという結果を出した(8)。

 仮眠、とりわけ昼寝は本人の怠慢という意識を周囲に与える可能性が常にある。しかし、研究から明らかになったのは昼寝や仮眠が忌み嫌うものではなく、積極的に摂るべきものであることは明らかだろう。

眠るための場所

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仮眠や昼寝について話したのだから1つ疑問に思うかもしれない。

 どのくらい睡眠を摂ると、どんな効果があるのか?と。

 以下は参考までに覚えておいて欲しい、睡眠時間と効力について内容だ。

(5分以下の睡眠)

 精神や肉体に変化は殆ど起きないが、眠気を払う効果がある。

 (10分~20分)

 目覚めた時は、睡眠を摂る前よりも気分が良く、集中力が上がっている。また、血圧を下げて効果もある。

 (30~60分)

 事実や数学の習得能力が高まり、成長ホルモンが分泌されて目を覚ますと気分が良くなっている。

 (60~90分)

 創造的思考力と抽象的概念に対すr理解力が高まる。目覚めた際に寝ぼけを感じない。

  また、「私はそう簡単に寝付けない」という人もいるだろうが、実は眠れなくても心配ない。

 研究によれば、完全に眠らなくても横になるだけで血圧を低下させる効果がある。

 今まで昼寝をしていなかった人が、「今日から昼寝をしましょう!」と言われても少々抵抗があるかもしれない。

 自分だけ居眠りしていることに罪悪感を感じてしまったり、時間の無駄だと思えてくる可能性もある。

 しかし、そんな時には是非とも上で紹介した研究を思い出して頂いて、反応力や創造力を高め、事故など起こさない注意力を養っているという風に考えて頂きた。

終わりに

 実のところ私も余り仮眠を摂らない方だが、研究を見ていると「仮眠を摂った方が利点が多い」ことに驚いた。

参考文献

よく眠るための科学が教える10の秘密

・(1)Jenkins, J. G., & Dallenbach, K. M. (1924). ‘Obliviscence During Sleep and Waking. The American Journal of Psychology, 35, 605–12.

・(2)Sadeh, A., Raviv, A., & Gruber, R. (2000). ‘Sleep Patterns and Sleep Disruptions in School-Age Children’. Developmental Psychology, 36, 291–301. 

・(3)Wolfson, A. R., & Carskadon, M. A. (2003). ‘Understanding Adolescents’ Sleep Patterns and School Performance: A Critical Appraisal’. Sleep Medicine Reviews, 7, 491–506.

・(4)Ukraintseva, IuV, & Dorokhov, V. B. (2011). ‘Effect of Daytime Nap on Consolidation of Declarative Memory in Humans’. Zh Vyssh Nerv Deiat Im I P Pavlova, 61, 161–9. 

・Fischer, S., Hallschmid, M., Elsner, A. L., et al. (2002). ‘Sleep Forms Memory for Finger Skills’. Proceedings of the National Academy of Sciences, 99, 11987-91. 

・(5)Lahl, O., Wispel, C., Willigens, B., & Pietrowsky, R. (2008). ‘An Ultra Short Episode of Sleep is Sufficient to Promote Declarative Memory Performance’. Journal of Sleep Research, 17, 3–10.

・(6)Milner, C., & Cote, K. (2009). ‘Benefits of Napping in Healthy Adults: Impact of Nap Length, Time of Day, Age, and Experience with Napping. Journal of Sleep Research, 18(2), 272–81. 

・(7)Naska, A., Oikonomou, E., Trichopoulou, A., Psaltopoulou, T., & Trichopoulos, D. (2007). in Healthy Adults and Coronary Mortality in the General Population’. Archives of Internal Medicine, 167, 296-301.

・(8)Zaregarizi, M., Edwards, B., George, K., et al. (2007). ‘Acute Changes in Cardiovascular Function During the Onset Period of Daytime Sleep: Comparison to Lying Awake and Standing. Journal of Applied Physiology, 103, 1332-8.

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