クリエイティブな成功を阻む思考の罠:アイデア選定の科学と先延ばしの力「判断力の科学」

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 かつて、Appleのスティーブ・ジョブズが「パソコン以来の技術製品」だと呼び、Amazon創設者であるジュフ・ベゾスが「革命的な製品だ、絶対に売れる」と太鼓判を押した物がある。

 その発明者は「現代のトーマス・エジソン」と讃えられ、販売された製品は1年以内に週1万点は売れると予想された。

 それが泣く子も黙る「セグウェイ」だ

 既にご存知の方も多いと思うが「全く売れなかった発明品」として後々記録に残る事になった。

 「セグウェイ」の販売会社は、発売後10年以上も黒字を計上できず、6年経過した時点で僅か3万点しか売れていない。

 現代を築いた偉人達がこぞって、売れない製品に莫大な額を投資して、大こけしたのである。

 彼らは総じて「自信過剰」に陥り、周りの意見を正しく見る事が出来なかったのだ。

 私たちは、新しいオリジナリティに溢れたアイディアを出せば、必ず成功すると考えがちだ。

 しかし、実際の問題はアイディアの「創出」ではなく「選定」が重要になってくる。

 ある研究からは、200人以上の被験者に1000件以上の新規企画や製品のアイデアを考えさせたところ、87%は斬新なアイデアだったことが分かった。

 しかし当然、それら全てのアイディアが斬新だからと言う理由で売れるワケではない。

 またさらに、歴史上の天才ですら自分の作品を上手く評価できない事が研究で明らかになった。

偉人の見えない努力

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ある心理学者がベートーヴェンが自らの70作品を評価した文書を精査し、音楽専門との評価と比較したところ、面白い事実が判明した。

 ベートーヴェン自身が70作品の内、15作品を「売れない」と自分で評価したが、実際は7作品が後世で高い評価を受けていた。

 さらにベートーヴェンは『交響曲第五番「運命」』を作曲した時、一度はその曲を没にしている。

 もし本当に『交響曲第五番「運命」』が傑作と評価される程の出来なら、初めから没にはしなかっただろう

 また、ピカソの『ゲルニカ』に関しては、その直前までに79作品も習作を書いている事はご存じだろうか?

 心理学者のディーン・サイモントによれば「天才は同じ分野の他者より優れていた訳でもない」という

 さらに続けて「革新的なアイディアは創出する数に比例する」と発言している。

 つまり、ダラダラと1つのアイディアを考え続ける人より、小さなアイディアをポンポン思いつく人の方が成功するアイディアを生み出しやすいのだ。

 実際、後世に知られることも無いような音楽を、モーツァルトは死去するまでに600曲、ベートーヴェンは650曲、バッハは1000曲も作成をして、やっと両手で数える程度の傑作を生みだした。

 アインシュタインは「一般相対性理論」と「特殊相対性理論」を書いて有名だろうが、それ以前に彼が発表した248もの論文については誰も知らない。

 サイモントは、評価を問わず多くの作品を生み出す人ほど、もっともクリエイティブな作品を作りだしていると回答した。

 天才が最初から狙って書いた絵や論文、小説が世界的に大ヒットしたと考えているなら、非常に勉強不足だ。

 作品の多くは単なる偶然だったり、本人すらも予想外であったことも少なくはない。

  単に才能がある事と、後世に認められる発見や発明を生み出す行為には関係性がそこまで大きくはない。

視野を狭める要因

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「スターウォーズ」や「ハリーポッター」は両者とも大ヒット作品であるが、初めのころは「売れない」として会社側から却下されていた事をご存知だろうか?

 ライス大学のエリック・デインは「専門知識と経験が深まるほど、むしろ世界の見方がある一定の状態に固定されてしまう」と発言した。

 実際、トランプゲームのプロはルールの変更があると、初心者よりも適応に苦労するという研究結果がある。

 かつてスティーブ・ジョブズはセグウェイに熱中していたが、彼の判断を曇らせたのは「ある分野における市場経験の不足」・「思い上がり」・「熱意」である。

 当たり前だが、ある特定の分野においてのパイオニアであっても、他の分野で予測に長けているという訳ではない。

 「直感を信じろ」という言葉をどこかで聞いたかもしれないが、直感を信じて良いのは、自分の関わっている分野で正確な知識を持っている時だけだ。

 事実、心理学者のダニエル・カーネマンらが「直感が頼りになるのは、予測可能な環境で判断を下す経験を積んだ時だけ」と言っている。

 現代は、流速が早く直感に頼りたくなるのは理解できるが、だからこそ「直感」に頼りたくなる気持ちを押さえ、分析する思考を育てなければ行けない。

 ノースイースタン大学の研究で、60人以上の投資家が起業家のプレゼンテーションの評価を3500件以上行い、その投資家に融資するか判断させた。

 その結果、直感で物事を判断する投資家ほど起業家の「熱意」に影響されやすかった。

 熱意は人を惹きつける為に必要だが、それは成功に影響しない。

 一番重要なのは「成果を出すこと」だけで、熱意があろうとなかろうと関係ない。

 世の中には口だけ達者で大した成果が無い個人や会社は多くある。

 もし、相手の熱意だけを判断基準にしているなら投資の成功率は決して高くないだろう。

クリエイティブな発想をするには?

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現代社会は、何としても早急にクリエイティブな人材を欲しいと思ってる。

 であれば、あることを推奨してみるのも良いだろう。

 それは、先延ばしだ

 意外に思われるかもしれないが、先延ばしは「生産性の敵」となるが、「創造性の源」になる可能性を秘めている。

 あの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は『モナ・リザ』を1503年に書き始めて、1519年に完成させてが、その間16年も月日が経っていた。

 しかも、別に黙々と作業していたのでなく、関係のない作業や実験を行い、時間を無駄にしている。

 また、ある研究では心理学者のリナ・スボート二クらが、アメリカで行われる科学研究コンテストで優勝したエリート学生たちに10年経過した後、面談を行ったものがある。

 大人になった元学生に面接を行うと、68%の人が自分の関わる4つの分野の内、少なくとも2つの分野で先延ばしをしていると回答した。

 もちろん、クリエイティブな人は先延ばしもするが、無計画という訳ではない。

 計画的に先延ばしをして、様々な可能性を試し、改良する事によって少しずつ進めていくのだ。

 最近では、新しい思考方法である無意識思考が登場し、「早くやるのが正しい」という時代はゆっくり姿を無くし始めている。

先発者が成功しない訳

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近年では、YouTubeを筆頭にした動画共有サイトで様々な動画を見る機会が増えた。

 そうでなくても、新しく起業する人が世の中で頻繁に見られるようになったが、ここで重要なのは「新しい事は必ずしも成功しない」ことである。

 もしかしたら、疑問に思う人もいるかもしれない。

 現代は至る所で、オリジナリティのある製品や動画を出すため、我先にと競い合っている。

 いわゆる、「先発優位性の思考」に陥っているとも言えるだろう。

 実際、ある研究でマーケティング研究者たちが、「先発企業」と「後発企業」の状況を比較した。

  • 先発企業とは、ある製品の開発や発売を最初に行った企業の事を指す
  • 後発企業とは、開発や発売が遅く先発企業が市場を形成してから参入した企業を指す

 30以上の異なるカテゴリーにおいて数百のブランドを分析したところ、興味深い結果が出た。

  •  先発企業の失敗率は47%
  •  後発企業は失敗率は8%

 なんと先発企業は後発企業よりも6倍近く失敗する可能性が高いのだ。

 この結果には、色々な要因があるが一番大きいと考えられるのは、「製品そのもののニーズを確立すること」や「市場に存在しない習慣を形成する」のに時間を要する点だ。

 普通なら、後発者は「他人のまねごと」という汚名を着させられることが多い。

 だがこういった固定概念は明らかに的外れである。

 他にもアメリカの自動車業界を100年近く調べた研究でも先発企業はやはり生存率が低い。

 もしオリジナリティの高いアイディアを持っている場合、競合他社よりも先にゴールに辿り着くだけを目的に、行動するのは注意が必要だ

  なんでも「最初にやれば成功する」と考える人は、オリジナリテの高いアイディアも台無しにすることになるだろう。

終わりに

 クリエイティブって難しいですよね。

 個人的には「製品や動画に長い時間を費やしたら成功する」って言う考え方も間違っていると思ってますよ。あぁ、耳が痛い

 言っても、自分も成功者じゃないんで説得力は無いと思いますが...

 という訳で、併せて読みたい記事に「無意識思考」とか正しい「選択の方法」についての記事を入れておきましたので、よろしければどうぞ。

参考文献

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