集団思考(ブレインストーミング)という言葉をご存じでしょうか?
1940年代に広告代理店店長のアレックス・オズボーンが提唱した方法で、数人を1つの部屋やテーブルに集めて意見を出し合う方式です。
いくつかのルールに従い、様々なアイディアを無批判に出し合う、彼の斬新な発想は「普通の人は、一人で考えるよりも集団で考える方が2倍のアイディアが出る」(1)と言う考えの元で作られました。
日本でも「三人寄れば文殊の知恵」なんて言われるように、人数が多ければ良いアイデアが思い浮かぶという考えが蔓延っているようですね。
長らく世界の企業で使われ続けてきた集団思考が、本当に優れているのかを見て行きたいと思います。
集団思考の嘘
ブレインストーミングについては、実に多くの研究者が調べてきました。
代表的な実験では、参加者の半数を「集団で考える」グループにして、一つの部屋に集めます。
そして一般的な集団思考で、ある問題についてアイディアを出してもらい、別の参加者には一人一人別々の部屋で同じ問題を与えました。
すると、一人でアイディアを考えた人の方が、専門家から高い質的評価を受けていました。
この研究を受けて、ケント大学のブライアン・ミューレンは、集団思考の有効性を調べた20種類の実験結果を分析しました。(2)
なんと、殆どの実験で集団よりも個人の方が質も量も高いことが判明しました。
別の研究によると、集団思考が良い成績を出せないのは「社会的手抜き」と呼ばれる現象が起こる為だと言われています。
社会的手抜きとは
社会的手抜きの最初の発見者は、ある農業技術者です。
19世紀にフランスのマックス・リンゲルマンという農業技術者が、職人たちを出来るだけ有効に働かせる方法を模索していました。(3)
ある実験で、参加者に綱で重い荷物を動かすように頼んだ。
当然だが、集団で作業した方が一人で綱を引くよりも重い物が動かせるはずだ。
しかし実際には、一人で綱を引いた時に85kg、集団で引いた時には65kgまでの重さしか動かせなかった。
このような結果になったのは、責任の拡散によるものが大きいとされています。(4)
例えば、一人で作業する時は成功も失敗も自己責任である。成功すれば手柄は自分の物だが、失敗すれば責任を負う事になる。
逆に集団になると成功しても失敗しても、それは個人の成果では無く、集団の成果になってしまうので急に誰もが努力するのを止めてしまう。
皆さんも職場や学校で、そんな経験はありませんか?
自分達が頑張ってる影で休んでいる人を見かけたことがあるはずです。
それがまさに、社会的手抜きの典型例でしょう。
ブレインストーミングの真実
集団思考の大きな特徴は、「どんなに過激なアイディアでも否定しない」「誰の発言も批評しない」と言った感じで、どんどんアイディアを出してくスタイルが印象的です。
では、実際にブレインストーミングを行うとこれらの特徴が上手く生かされているのでしょうか?
心理学者のエドアルド・サラス博士は800グループの生産性を調べて、ブレインストーミングについて結論を出しました。(5)
その結果は、ブレインストーミングの大敗でした。ほとんどの人は、みんなとアイディアを出し合うよりも、個人で考えた方がオリジナリティの高い発想を生み出したのです。
この様な結果になったのは以下の理由があります。
- 大半の人は、自分の意見を人前で話すのは得意でない
- どうしてもリーダーや上司の意見に迎合してしまう
- 人が多くなると、努力しないメンバーが現れる
人との言うのは概ね批判を恐れますし、やはり上司の意見を無視するのも忍びないでしょう。
つまり、最初からビジネス向きでは無いのです。
それでも集団思考をやりたいなら
「でも我が社は、長年ブレインストーミングにお世話になってきたから、急に変えるのはちょっと…………」
と考える人が居るのは分かっています。
そこで現状の解決策を提示させていただきます。
「ブレインライティング」です
ブレインライティングとは、テキサス大学のポール・パウルス博士が提唱したモノです。(6)
以下の5ステップで展開されます
- 解決したい問題や疑問を決める
- 問題に対するアイディアを各自10~15分かけて紙に書く
- 書いた紙を隣人と交換する
- 渡された紙に自分の意見を書いて、別の隣人に渡す
- 最後に全ての紙を集めて全員で検討するが、誰のアイディアかは伏せる
ブレインストーミングでやる事を紙に書いてやるだけで、人前で話す心配や不安を無くすことができ、従来の集団思考よりも質の高い会議を展開できるでしょう。
お試しあれ。
参考文献
・(1) A. F. Osborn (1957). Applied Imagination, New York: Scribner.
・(2) B. Mullen, C. Johnson and E. Salas (1991). ‘Productivity Loss in Brainstorming Groups: A Meta-Analytic Integration’. Basic and Applied Social Psychology, 12, pages 3-23.
・(3) M. Ringelmann (1913). ‘Recherches sur les moteurs animes:Travail de l`homme’ . Annales de l`Institut Naional Argonomique, 12, pages 1-40.
・(4) S. J. Karau and K. D. Williams (1993). ‘Social Loafing: A Meta-Analytic Review and Theoretical Integration` . Journal of Personality and Social Psychology, 65, pages 681-706.
・(5)https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1207/s15324834basp1201_1
・(6)https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0018720815570374