ポジティブ思考の罠:科学が解明する幸福感減少のリスク

 一般的にはポジティブ思考が健康や幸福感に良い影響を与えるとされていますが、最近の研究では、過剰なポジティブ思考が不幸を招く可能性があるという結果が出ています。

 ポジティブ思考の暴走は、自分自身の問題を正しく認識せず、自己評価の歪みを引き起こし、社会的な不適応やストレス反応を増大させる可能性があります。

 また、ポジティブ思考が大きな失敗に繋がった場合、その後のストレス反応が大きくなることもあります。

 このため、ポジティブ思考は適度に行うことが大切であり、現実を正しく認識し、適切な判断をすることが必要です。

ポジティブ思考は成功のチャンスを減らす?

 世間では、なぜポジティブ思考を高く評価する傾向にありますが、科学的にみるとポジティブ思考は大きなデメリットも目立ちます。

 例えば2002年の論文にでたニューヨーク大学の研究では、ポジティブ思考な人ほど給料が低いという傾向が見つかっています。

 研究では、まず83人の学生たちに卒業したあとのキャリアをポジティブにイメージしてもらい、2年後にふたたび調査をしたところ、ポジティブなイメージをした学生ほど企業からの求人が少なくて給料も低い傾向にありました。

 また、この現象はほかの場面でも起きており、ポジティブだった人ほど非モテかつ大学の成績もよくなく、ケガからの回復も遅い傾向にありました。


 さらに2011年の論文ではポジティブ思考な人ほど目標を達成できないという結果もでています。

 これは研究者が学生を2つのグループにわけ、一方のグループには「最高の週末」を想像してもらい、もう一方には「普通の週末」を想像してもらいました。

 その1週間後、学生たちを再調査したところ、「最高の週末」を想像した学生ほど、設定した目標をこなせなかったそうです。

 調査を行った研究者によれば「ポジティブ思考は、あたかも自分がゴールに近づいたかのような感覚をあたえてくれるが、それが逆に目標を達成するモチベーションの妨げになっている」と述べています。

ポジティブ思考は、長い目でみると逆にうつ状態の原因になる?

 ポジティブ思考は気分がプラスと思われているようですが、こちらも研究からは相反する結果がでています。

 まず実験では67名の学生を対象に、全員に架空のシナリオを想像してもらいました。

 具体的には、「クライアントにビジネスの拡張を提案するところをイメージしてください」といった指示を出して、学生に自分の空想のポジティブ度をランクを付けてもらいました。

 そしてこの作業を12パターンも繰り返しました。

 その結果は、以下のようになっています。

  • 前向きな空想(ビジネスが上手くいく)をした学生は、その直後には気分が良くなったが、1カ月後には逆にうつ状態が増加していた。
  • 普段からポジティブな想像をする学生ほど長期的にはうつ状態になる確率が高く、その効果は7ヵ月後にも確認された。

 ポジティブ思考は一時のやすらぎにはなるが、長い目でみるとメンタルには悪いそうです。

 もちろん、この実験1つでは「ポジティブがうつ病の原因になる」という結論は到底できませんが、人によってはポジティブがむしろ悪影響になる可能性を示唆しています。

また調査を行った研究者は、「現代は、いままでになく「ポジティブシンキング」がもてはやされる時代だ。自己啓発のマーケットはポジティブ思考によって拡大を続け、96億円の規模を持つ拡大市場になっている。しかし今回の発見は、わたしたちや社会全体の長期的な幸福感に、自己啓発マーケットが悪影響をおよぼしている可能性を示す。」と述べています。

ポジティブの効果は低く、短期間な効果しかない?

 オランダのトリンボス研究所による2013年の論文では過去に行われた39件のポジティブ心理学研究をまとめた系統的レビューで結論を出しました。

 一応、この論文がチェックしたテクニックは、以下の通りになっています。

  • 毎日ポジティブな体験を記録する
  • 感謝した体験を記録する
  • 前向きな目標を設定する
  • やりたい夢や未来の自分について書く
  • ポジティブな自己イメージを思い描く
  • コーチング系全般

 そして調査したところ以下のような結果になりました。

  • ポジティブ心理学のテクニックは、幸福度に与える効果が非常に小さい
  • テクニックを使ってから3カ月〜1年も経つと、さらに効果は減ってしまう
  • 気分の落ち込みなどに与える効果はほとんどない

 確かに効果はあるものの、ビジネス書や自己啓発の世界で言われるほどのメリットはなさそうです。

 調査を行った研究者は、「今回のメタ分析は、主観的な幸福度やメンタルヘルスの向上、抑うつの減少のために、ポジティブ心理学のテクニックが役立つ可能性を示した。ただしこの効果は限定的で、短期間しか続かない。またこのメタ分析では、効果量も非常に小さかった。

 どうやら統計的には「そこそこ効果あり」ですが、そのメリットはごく短い間しか続かないようです。

『ポジティブ』に多くを期待しすぎている?

 これはユタ大学の実験で、ヒトがポジティブ思考に抱く期待値と実際の効果のズレを調べました

 最初の実験では、参加者たちを3つのグループにわけて、以下の作業を行ってもらったんですね。

  • 事前に「あなたは数学がニガテです」と言われて気持ちがネガティブになった状態で数学テストを行うグループ
  • 事前に「あなたは数学が得意です」と言われて気持ちがポジティブになった状態で数学テストを行うグループ

 上の2グループのどっちが成績がいいかを予想しました。

 すると、全員が「ネガティブなほうが成績は悪い」と予想しましたが、実際はネガティブだろうがポジティブだろうが、成績はほぼ変わりませんでした。

 また、もう1つの実験では、参加者たちに捜索作業をやってもらったものの、ポジティブな状態で挑んだ参加者は5%ほどしかスピードが上がらなかったそうで、特に統計的には有意な差が出ませんでした。

 いっぽうで、作業の結果を見守った参加者たちは、ポジティブなほうが平均で33%ほど成績が上がると予想しており、こちらも大きな食い違いが出ています。

 調査を行った研究者は、「わたしたちは、良いパフォーマンスを発揮するためにはポジティブな状態が必要と考えがちだ。そして、周囲にもポジティブさを期待するし、ポジティブに価値を置く。しかし、それが実際に役に立つかは別の話だ。」と述べています。

ネガティブな感情をネガティブに感じるほど悪影響は増す

 カリフォルニア大学の調査で、1003人にオンラインでアンケートを取って、「自分の感情に対して『そんなふうに考えてはいけない』と言い聞かせることがあるか?」というような質問に答えてもらいました。

 そのうえですべての回答を分析したところ、「ネガティブな感情をネガティブに思う人」ほど、人生の満足度や幸福感は低い傾向にあったそうです。

さらに別の実験では、200人を対象に「過去の嫌なことを思い出してもらう」作業を指示し、その6ヶ月後のメンタルにチェックすると、ネガティブな感情をネガティブに思ってる人は、半年過ぎても過去の嫌な体験を引きずっていたそうです。

 また別の論文では2324人を対象として、8カ国の学生に質問紙をわたして、前述の調査と同じように「ネガティブな感情についてどういう態度を取るか?」を調べました。

 その結果はやはり同じで、アジア、欧米、中東といった異なる文化圏でも、ネガティブな感情を普通に感じている人のほうが幸福度は高かったそうです。

つまり、がんばって「良い気分」を味わおうとするよりも、「いまの気分を正しく感じる」ほうが重要なようです。

 調査を行た研究者は、「幸福は単純に快楽を感じるだけの話ではないし、痛みを避ければいいという話でもない。幸福は、自分が正しいと思う意味や価値を体験するところに生まれる。これらの体験は、コンテクストによってポジティブにもネガティブにもなり得る。」と述べています。

参考文献

・Bolier, L., Haverman, M., Westerhof, G.J. et al. Positive psychology interventions: a meta-analysis of randomized controlled studies. BMC Public Health 13, 119 (2013).

・Ford, Brett Q et al. “The psychological health benefits of accepting negative emotions and thoughts: Laboratory, diary, and longitudinal evidence.” Journal of personality and social psychology vol. 115,6 (2018): 1075-1092.

・Gabriele Oettingen, et al. The Motivating Function of Thinking About the Future:Expectations Versus Fantasies (2002)
・Gabriele Oettingen, et al. Positive fantasies about idealized futures sap energy. (2011)

・Gabriele Oettingen, et al. Positive Thinking About the Future in Newspaper Reports and Presidential Addresses Predicts Economic Downturn. (2014)

・Tamir, Maya et al. “The secret to happiness: Feeling good or feeling right?.” Journal of experimental psychology. General vol. 146,10 (2017): 1448-1459.

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