身長と健康リスク:170cm以下の低身長がもたらす驚くべき利点

 本記事で科学的に紹介する低身長(170cm以下)は健康的であるとされる主な理由には、複数の要因が考えられています。

1つ目は、低身長の人は通常、高身長の人よりも少ないカロリーで済むため、肥満や心臓病、糖尿病などの病気のリスクが低いということです。

2つ目は、低身長の人は骨や筋肉の負担が少なく、関節炎や骨粗鬆症などの骨や筋肉の病気のリスクが低いということです。

3つ目は、低身長の人は、内臓の健康状態が良く、発生率が高い脂質異常症や高血圧などの病気のリスクも低いということです。

ただし、身長が低いことがすべての病気に対して有利であるわけではなく、個人差もあります。

適切な運動や食事管理を行い、身体を健康に保つことが重要です。

高身長は認知症リスクを下げる?

世間では身長が高いと生きて行くのに有利そうな話が多いですが、「若年期に身長が高い男性は、老年期の認知症のリスクが低いのでは?」というデンマーク・コペンハーゲン大学の研究があります。

これは約7万人と7,388人の双子を含む66万6000人以上のデンマーク人男性のデータを分析し、人生の後半に認知症を発症した男性10599人を調べ、身長と関わりがあるのかどうかを見ました。

その結果は全世界の男性の平均身長(171cm)以上の人は、身長が6cm上がるごとに、認知症になるリスクが10%ほど減少していた。

また過去の研究でも、「身長って認知症のリスク要因なんじゃないの?」とは言われていたんですが、わりとハッキリした相関が確認されている。

ちなみに研究チームいわく、

今回の研究の大きな強みは、若い男性の認知症リスクにおける教育と知能の潜在的な役割を調整したことだ。その結果をまとめると、若い男性の身長の高さと、人生の後半で認知症にかかるリスクの低さには相関があり、この関連性は、教育水準や知能テストのスコアで調整しても持続することがわかる。

要するに、高い教育を受けた人でも、知能がもともと高い人でも、背が低いだけで認知症になるリスクは上がるかもしれないそうです。

バスケ選手の寿命はスキー選手より短い


さて高身長のメリットを軽く紹介しましたが、一方で高身長のデメリットも見つかっています。

有名なのは1993年に2600名のアスリートを調べた研究で、バスケの選手はクロスカントリー選手より平均寿命が7年も短いことが分かりました。

バスケ選手の身長は、クロスカントリー選手より平均で15cmも高いんですね。

ほかにも、2012年にカリアリ大学が100年前の兵士を調べた研究では、身長が161.1 cmより低い人は、 161.1 cm以上の人よりも70才まで生きる確率が高いようです。

またいくつかの統計を見てると、身長が高いほど寿命が短いのは間違いなさそう。

実際、高身長な人ほど病気がちな傾向がありまして、たとえば2013年にアインシュタイン医学校が行った研究では、14万人の女性を12年にわたって追いかけたところ、傾向がハッキリでたようです。

  • 身長が10センチ高くなるごとに、がんの発症率が13%アップ!
  • 身長が高いと、甲状腺がん、大腸がん、腎臓がんなど、すべてのがんの発症率が高くなる!

そのほかにも、以下のように身長が高いとあらゆる病気にかかりやすくなっちゃうらしい

  • 1691名分の健康データを統計処理したところ、身長が167cm以上の女性は動脈硬化の確率がはね上がっていた(2012年)
  • 18,403名分の健康データを統計処理したところ、身長が高くなるほど呼吸器と心疾患のリスクが上昇する傾向があった(1995年)

また高身長が病気を引き起こす理由については諸説ありますが、代表的なのは以下のとおりです。

  • 肺がうまく働かない:身長が高いとより多くの酸素が必要になるので、肺がオーバーワークになってしまう。
  • 細胞の異変が起きやすい:高身長の人は細胞が多いので、シンプルに細胞が変化してがんになる可能性が高い。
  • 成長ホルモンの悪影響:高身長の人は成長ホルモンの分泌が多いため、逆にがんの成長も促進してしまう。
  • 心臓の過労:体が大きいと血管も長くなり、それだけ心臓の負担も大きくなる。その結果、心疾患のリスクが上がっていく。

大きい体を維持するには、より頑丈な心肺機能が必要なわけですね。

例えるならスポーツカーのようでしょうか。

低身長または肥満体なほど年収は下がる?

続い身長と体重は収入に関係があるのかということで、アイオワ大学などの研究では、一般に身長が高くて適度に痩せてるほど思われる傾向について、ビューティプレミアムが収入に反映するのか?というポイントを調べました。

まずチームは、北米で暮らす2,383人の3次元の全身スキャンを含むデータを使用し全員の身体的な特徴を特定し、収入と比べてみたら、以下のような結果になりました。

分析の結果は、身長・肥満度(BMI)と収入には統計的に有意な関係があり、その差は男女で異なっていた。男性の身長は世帯収入にプラスの影響を与えるのに対し、女性の肥満は世帯収入にマイナスの影響を与える傾向があるようだ。

やはり身長が高い人ほど収入が高く、BMIが大きい人ほど収入が低い傾向があったみたいですね。

具体的な数値も世帯収入の中央値(7万ドル)に位置する男性の場合、身長が1cm増えるごとに世帯収入が約998ドル増加すると推定される。

世帯収入の中央値(7万ドル)に位置する女性の場合、肥満度(BMIで換算)が1単位減るごとに、収入が約934ドルの増加すると推定される。

1cmでも結構な差が出るようですが、今回のデータは北米の人しか扱っていないので、個人の収入じゃなくて世帯収入しか含まれていません。

また女性については、「痩せてるから収入が上がる」のではなくて「収入があるから痩せた体型をキープできる(食事改善・運動等)」というメカニズムが働いてる可能性も考えられます。

背が低い人が得られる4つのメリット

ここまで低身長には良い研究がありませんでしたが、次に紹介する研究は一転して、低身長であることのメリットを紹介したいと思います。

まずクアキニ医療センターなどが行った大規模な縦断研究では、日本人の血を引く8006人の男性を追跡調査したところ、

  • 身長の低い男性ほど、長寿遺伝子であるFOXO3の保護型が多い
  • 身長の低い男性ほど、血中インスリン濃度が低く、がんが少ない
  • 身長が170cm以下の人が最も長生きで、背が高くなればなるほど短命になる傾向があった

どうやら、低身長な人は、FOXO3として知られる「長寿遺伝子」が多く、この遺伝子によって体格が小さくなり、寿命が延びる可能性があるそうです。

さらに「低身長と癌リスク低下」に関するデータは他にもあって、ストックホルム大学の科学者が550万人のデータを調べた研究によると以下のような報告が出ています。

  • 男性の場合、あらゆる種類のがんのリスクは、身長が10センチ高くなるごとに11%増加する
  • 過去の研究でも、身長が高い人ほど前立腺がんの発症率が高いと報告されている


ノルウェーのトロムソ大学などの研究では、27,000人の身長、体重、医療記録を調査したところ、身長の高い男性(180センチ以上)は、低い男性(172センチ以下)に比べて静脈血栓塞栓症(静脈に発生する血栓)を発症する確率が2.6倍高いことも報告してたりします。

要するに、背の低い男性は血栓のリスクが低いってことでして、これもまた低身長と長寿の関係につながってる可能性があります。

神経科学者のデイヴィッド・イーグルマン先生によると、身長が低い人は”時間的結合 “と呼ばれるプロセスの効率がよく、そのおかげで情報の処理が背が高い人よりも速いんだそうな。

“時間的結合 “ってのは、目、耳、舌、皮膚から入ってくる感覚データを脳内で同期させる処理のことで、これによって脳は「目の前の現実」をうまく解釈できるようです。

その点で、背が低い人ってのは、脳に感覚情報が届くまでの時間が短く、そのぶんだけ情報の処理タイミングも早くなる傾向があるとのこと。

イーグルマン先生いわく、この事実をNPRで語ったところ、背の低い人たちから喜びのメールが殺到したそうで、「約1日だけ、私は背の低い人のヒーローになりました」と語っています。

ただし時間的結合が速いからといって、背が低いほうが頭がよいとか、背が低いほうが知的って話にはならないのでご注意ください。

背を伸ばす食べ物とは?

そして最後にどうしても身長を伸ばしたい人の為に、アジア(日本人も含む)、アフリカ、ヨーロッパなど世界の105カ国から男性の身長データを集めて、食事のデータと、遺伝データ、社会状況のデータ(裕福など)を身長と比べた大規模な調査が行われました。

その以下はその結果となっています。

まず栄養以外の要因について


「栄養」を除いた国の制度とか国の発展具合などのポイントを見て行きましょう。

その国の一人当たりGDP(その国の裕福さ)は、そこまで身長とは関係なかった(r = 0.30)

その国の総保健医療支出(政府が医療とか保険に出してるお金)は、男性の身長とそこそこ相関している(r = 0.60)

最も関係が強かったのは「子どもの死亡率」で、子どもの死亡率が高い人ほど身長は低くなる(r = -0.73)。

ただし、東アジアや石油超大国では、子どもの死亡率が低くても男性の身長には影響がない。

都市化と身長の関係もわりと強いく(r = 0.58)、発展した国ほど身長が高い傾向にある。

人間開発指数(教育とか識字率とか所得をポイント化したもの)は、男性の身長と最も高い関係があった(r = 0.80)。

栄養に関するポイント

肉類全体、遠洋魚、卵、乳製品の4つは、やっぱり身長と相関があった(r = 0.50)。これらの食品はタンパク質の質(アミノ酸バランスとか)が高いのが大きな原因だと考えられる。

なかでも乳製品からのタンパク質の摂取量は、93カ国すべてにおいて身長と最も大きな相関関係があった(r = 0.79)。

ヨーロッパ以外の49カ国で見た場合、タンパク質の質よりタンパク質の総摂取量のほうが大事(r = 0.71; p < 0.001)。

ただし、タンパク質の摂取量が増えると、タンパク質の質により身長に大きな差が出てくる(10cm以上)

ヨーロッパ以外の49カ国で見た場合、総カロリー摂取量(r = 0.70)、米のタンパク質(r = -0.65)、小麦のタンパク質(r = 0.62)が身長と関係があった。

つまり、米からタンパク質を取る人たちほど身長が低く、小麦からタンパク質をとっている人ほど身長が高い。

ただし、これは米のタンパク質が悪いというよりは、米をたくさん食う地域の社会的な問題と遺伝的な要因が大きそう。というかヨーロッパに絞った場合は、小麦タンパク質を多くとる人ほど身長が低い傾向があったりする(これは、小麦をたくさん食べる人ほど貧しいのが要因かもしれない)

豚肉のタンパク質を乳製品のタンパク質と組み合わせると、最大の相加効果を発揮するかもしれない(r = 0.82)。次いで、卵のタンパク質(r = 0.81)と、じゃがいものタンパク質(r = 0.81)は身長との関係性が高かった。

最も高い関係性(r = 0.85)を達成したのは、「乳製品+豚肉+牛肉+卵+ジャガイモのタンパク質」の組み合わせでした。

全体的には「身長を伸ばすにはタンパク質が必要」というのが大きな結論でした。

さらに具体的な食材で考えてみると、乳製品はタンパク質の質が高く、手軽に摂取できるのが大きいのかもしれない点で重要度は高いです。

魚については身長との結果はそこまで影響力は大きくない可能性があります。

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