繊細なHSPの特性:驚くべき強みと対処すべき弱点

 HSPとは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の略称で、非常に繊細で、刺激に敏感な人々を指します。

 彼らは一般的に、音や匂い、光や温度の変化など、普通の人には気づかない刺激にも敏感に反応し、ストレスや疲労を感じやすい傾向にあります。

 しかし、彼らが持つ独自の感性と感受性は、ビジネスや人間関係の分野で、驚くべき「強み」となり得ることが研究によって明らかになってきています。

 本記事では、HSPが持つ「強み」や「弱点」について解説していきます。

HSPが持つ4つの重要な強みとは?

 HSPは敏感な脳の持ち主で、自分の内面や周りの人の気持ちや行動に敏感なせいで、自分の内面にわきあがった思考と感覚をかき消すのに精一杯になってしまい、ストレスが激増してしまうことがあります。

 それでどんな現象が起きるかと言えば、以下のようなものが挙げられます。

  • スピーディな対応ができなくなってしまう
  • 誰かに答えなければならないときに、自分の口から出そうとしている言葉の意味をすべて考えて、頭の中が真っ白になる
  • 自分の言ったことが相手に伝わるかどうかの不安と心配でいっぱいになる
  • 気温の変化が大きい場所や騒音がうるさい場所などでは、注意をそらすことが難しくなり、ひとつの思考をキープできなくなる

 よく言えば感受性が豊かですが、そのせいで膨大な情報に圧倒されることもあるそうです。

 そしてライデン大学による新しいデータでは、著者のチームが以下のような指摘をしています。

 HSPの人たちは、感覚的な(外部だけでなく内部の)刺激に気づき、より内省的になり、これらの刺激をより深く処理することで、(潜在的に)。感情や生理的反応性が高くなると推測される。

これまでの研究では、このような反応性の高まりは、精神病理学または精神衛生上の問題のみと関連するものであった。

HSPの敏感さは、おもに悪い側面ばかり目立ってしまいますが、よりHSPの概念をさらに掘り下げねばならんのではないか?という話になっています。

そこでまず研究チームは、過去のHSP研究で使われた診断テストなどから、HSPの特徴を60項目ほど抜き出して質問票を作成し、10300人近い参加者(平均42歳)に試した上で、パーソナリティの測定に加えて、みんなの健康やメンタルの状態を評価しました。

 その結果を分析したうえで、チームは「これがHSPの特性」と言えるものを6つの基本パターンに分類しました。

 その基本パターンは、以下のようになります。

  • 特性1. 感情的・生理的反応が激しい:短時間に多くのことをしなければならないときにすぐに焦ってしまったり、一度に多くのことが起こると緊張したり、ストレスのかかる状況になるとすぐに動揺してしまう、など。
  • 特性2. 感覚的不快感が強い:耳障りな音が気になったり、まぶしすぎる光によく悩まされたり、大音量の音楽が苦手だったりする、など。
  • 特性3. 社会的・感情的な敏感さが激しい:相手が笑顔で自分の気持ちを隠しているのがわかったり、相手の声のトーンと言葉のトーンが一致しないときにすぐに気づいたり、怖がっていないふりをしている人にすぐに気づいたり、など。
  • 特性4. 内外の微妙な刺激に対する感覚が敏感さ:体温など体の変化にすぐ気がついたり、口や喉が乾くとすぐに察知できたり、お腹が空いたと感じたらすぐに分かったり、など。
  • 特性5. 感覚的な心地よさや楽しさへの敏感さ:ユーモアや笑いのある状況を楽しむことができたり、リラックスした活動を心から楽しむことができたり、好きな人と一緒にいると心から楽しい気分になれたり、など。
  • 特性6. 美的感覚の鋭敏さが強い:美しい芸術作品に感動するのがうまかったり、音楽を聴くときに微妙な音色の変化に気づけたり、絵画や写真に感動することがよくあったり、など。

 HSPのポジティブな側面とネガティブな側面が示されてまして、今回の調査ではこんな結果が出ております。

  • 神経症と相関があるのは最初の2つの特性だけで、残りの4特性は「経験に対する開放性」と相関があった

 つまり、HSPの傾向にある人は好奇心が強くてオープンである点が強みだそうです。

 こういったHSPのメリットについて、研究チームは「環境体験のポジティブな特徴から不釣り合いに恩恵を受ける傾向」と定義しており、環境から不要にネガティブな影響を受ける代わりに、不釣り合いなレベルでポジティブな影響も受けることができるそうです。

動揺しやすいHSPの脳的のメリットとは?

 カリフォルニア大学の研究では、「HSPが敏感だとは言われているが通常時の脳はどう違うのか?」という点を調べています。

 HSPの脳が刺激に敏感なのは間違いないものの、果たして安静にしてる時の脳にも違いがあるのか?ということです。

 まず研究チームは、参加者のHSPレベルを調べ、みんなに「共感課題」を指示してます。

 これは、怒りの表情とか悲しみの表情とかいろんなパターンの顔写真を見せて、「どう感じましたか?」と質問して、その際の脳をfMRIで調べるものです。

 すると、HSPのレベルが高かった人には以下のような傾向が見られました。

 顔写真を見たあとの脳は、休憩しながらも深い情報処理をしていた

 なかでもHSPレベルが高い人は、記憶の取り出しに関係する脳回路の接続性が高まっていた

 一方で、ストレスの処理に欠かせない島皮質と海馬のつながりは弱かった(つまり、ストレスに弱い脳になっている)

 つまり、HSPの人はストレスに弱いものの、それはより深い情報処理を行なっていることによる副作用みたいなもんなのではないか、とのことです。

調査を行ったチームは以下のような見解を述べております。

 感覚処理過敏の人は、より注意深くて慎重な行動を取る。このような行動は、ミドリムシから人間まで、どんな生命体にも見られるものだろう。 感覚処理過敏の特性を持つ人は、新しい状況のなかでは、じっとしたまま次に何が起こるかを見る傾向がある。

 つまり、HSPのレベルが高い人は良くも悪くも反応が良いということになる。つまり、HSPのレベルが高い人は、不快な状況ではより動揺するが、一方では創造性が高く、人との絆が深く、美に対する評価が高いことが多い。

 HSPの人が動揺しやすいのは、創造性や美的センス、共感能力の高さなどの裏返しなんだってことっすね。

 これはメリットとデメリットがコインの両面の話なんで、対策が難しいところなんですけど、とりあえずHSPの方は、以下のように考えてみると、ストレスに悩まなくて済むかもしれないです。

 自分が動揺しているときは脳が深い情報処理をしている証拠かも?

 ちなみに、自分が敏感人間かどうかを知りたい方は、以下のポイントに当てはまるかどうかを考えてみると良いでしょう。

  • 外部からの強い刺激に圧倒されやすい
  • 環境の微妙な違いに気づきやすい
  • 他の人の気分が自分に影響する
  • 痛みにとても敏感な傾向がある
  • 忙しい日々が続くと、プライバシーが保たれて刺激から解放される場所に引きこもりたいと思う。
  • カフェインの影響に敏感だ。
  • 明るい光、強い匂い、目の粗い布地などの感覚に圧倒されやすい。
  • 内面では複雑で豊かなことを考えている。
  • 大きな音を聞くと落ち着かない。
  • 芸術や音楽に深い感動を覚える。
  • 神経が高ぶって一人で行動したくなることがある。
  • 良心的な性格だと思う。
  • すぐにびっくりしてしまう。
  • 短時間でたくさんのことをしなければならないとパニックになる。
  • 物理的な環境が不快だと、より快適にするためにすぐ変更する(照明の明るさや服の感覚など)。
  • 一度にたくさんのことをさせようとする人に腹が立つ。
  • ミスや忘れ物をしないように努力している。
  • 暴力的な映画やテレビ番組を避けるようにしている。
  • まわりでいろいろなことが起こっていると不快になる。
  • 空腹になると集中力や気分が乱れる。
  • 生活に変化があると動揺する。
  • 繊細な香り、味、音、芸術作品などを楽しむことができる。
  • 一度にたくさんのことをするのが苦手だ。
  • 動揺したり圧倒されたりするような状況を避けるために、生活を整えることを最優先する。
  • 大きな音や混沌とした風景など、強烈な刺激があると気になってしまう。
  • 他人の目がある状況や他人と競争しなければならないと緊張で震えて本来の能力を発揮できない。
  • 子供のころは両親や先生から繊細で恥ずかしがり屋だと思われていた。

「繊細さん」とはどんな性格の人?

 「繊細さん」と呼ばれるのがHSPのことで、外的な刺激に反応しやすい特性を持つ人の総称で、この特性が強い人は、感受性が強いおかげでアートを深く味わえる一方で、不安や抑うつに悩みやすかったりもします。

 実験では「HSPの人はどんなパーソナリティを持ってるのか?」という点を調べています。

 具体的には、HSPとビッグファイブの関係を調べた過去の研究から24件をピックアップし、6790人のデータをまとめて、大きな結論を出しました。

 その分析結果がは以下のようになりました。

  • 神経症傾向が高め(不安になりやすい)
  • 開放性も高め(ただし神経症傾向に比べると相関はかなり小さめ)
  • 16歳以下の場合は、外向性も低め(これも神経症傾向に比べると相関はかなり小さめ)

 つまり、HSPが高い人は、不安になりやすくて好奇心がちょっと強めらしいです。

 すぐにいろんなことに動揺しつつも、ちょっと知的なところがあるので、自分の感情の変化に気づくのがうまいの感じでしょうか。

繊細さんは、ただのナルシスト?

 『繊細さん』という書籍があるように、世の中には「繊細すぎて気づかれする」みたいな人が一定数いるわけです。

 「繊細さん」を考えるにあたって難しいのが、「繊細さんって、実はただのナルシストなのでは?」という疑いもあるとこです。

 実際にテストを行うと、繊細さんとナルシストには相関が出るケースが多いんですよ。

 ただ、ここで言うナルシストってのは、「俺を見ろ」「俺はすばらしい」というタイプのナルシストではなく、いわゆる「脆弱なナルシスト」のことで、自分のことは大好きなんだけど、自信がないせいでいつも不安なタイプのナルシストですね。

 繊細さんとナルシストの関係には過去にも報告されていて、ウェルズリー大学などの研究でも、脆弱なナルシシズムと繊細さんテストのに中程度の相関を報告してたりします。

 つまり、「自分は繊細さんで……」と思っていながら、実際にはただのナルシストでしかない人がいるということです。(まぁ、自分のことをADHAだと思い込んでる、ただの奇人も世の中にはいますので)

 言い換えれば、自分は内向的で繊細だと言いながら、実際には「自分の才能をみんなが認めてくれない」と思ってるだけってことです。

 こうなると、「自分は繊細さんの皮をかぶったナルシストなのでは?」ってのが気になる人もいるでしょうから、ここであなたの性格をより深く理解するためのテストを紹介します。

 これは、ウェルズリー大学などが420人の大学生を対象に行った研究から出てきたもので、「繊細さんと思わせて実はナルシストでる」という点をチェックするのに役立つ内容となっております。

 それれでは、以下の質問に、自分がどれぐらい当てはまるかを5点満点でお答えください。

1 = まったく当てはまらない
2 = 当てはまらない
3 = どちらともいえない
4 = 当てはまる
5 = とても当てはまる

  • 自分の個人的なこと、健康、心配事、他人との関係などを考えることに没頭することがある。
  • 他人から嘲笑されたり、軽蔑されたりすると、簡単に感情を害する。
  • 室内に入ると、他人の視線を感じて気後れしてしまうことがよくある。
  • 自分の功績を他人と共有するのが嫌いだ。
  • 他人のことを気にせず、自分のことだけで十分だと思う。
  • 自分が他の人とは違う特徴を持っていると感じている。
  • よく他人の発言を個人的に解釈してしまう。
  • 自分のことに夢中になって、他人の存在を忘れがちになる。
  • 少なくとも1人の人間からほめられないと、集団の中にいるのが嫌だ。
  • 他の人が自分の悩みを打ち明けて、こちらの時間や同情を求めてくると、密かに「気後れ」したり、腹が立ったりする。
  • 格好いい人に嫉妬する。
  • 批判されると屈辱を感じる傾向がある。
  • 他人はなぜ自分の良さをもっと認めてくれないのだろうと思う。
  • 他人を良いか悪いかのどちらかに見る傾向がある。
  • 時々、理由もわからずに暴力的であることを妄想する。
  • 成功と失敗に特に敏感だ。
  • 私は誰も理解していないような問題を抱えている。
  • 私は、何としても拒絶を避けようとする。
  • 私が隠している思考、感情、行動を見たら、友人はぞっとするだろう。
  • 私は、相手を慕ったり軽蔑したりするような関係になりがちだ。
  • 友人と一緒にいても、孤独で不安な気持ちになることが多い。
  • 私に欠けているものを持つ人に嫉妬する。
  • 敗北や失望をすると恥や怒りを感じるが、それを表に出さないようにしている。

 採点が終わったら、すべての数字を合計してください。

 そのうえで、以下のように判断してみましょう。

 大学生を対象にした研究では、この尺度の平均点は60点台半ばでした。

 なので、もし自分のスコアがその範囲内であれば、「繊細さんと思わせて実はナルシスト」のレベルはほぼ平均的だと思ってください。

  • スコアが40点以下であれば、平均よりもスコアは非常に低い。
    スコアが82点以上であれば、平均よりもスコアは高い。
  • スコアが97点以上であれば、隠れナルシストである可能性は非常に高い。

 まずはこのテストを試してみると、自己理解が深まってよろしいのではないでしょうか。

やっぱりHSPはナルシストに似てる?

 HSPといえば、はいわゆる敏感な脳の持ち主のことで、1996年にエレイン・アーロン先生が作った言葉で、感覚的な刺激に対する反応が強く、すぐに刺激に圧倒されてしまうので、社会をうまくわたっていくのが難しくなったりします。

 もちろん、近年はHSPのメリットもいくつか認められてるんですが、基本的にはいろいろ大変なことが多い感じではあります。

 研究ではHSPの調査を行い、結論は以下のようになりました。

  • HSPな人って、同時に「傷つきやすいナルシスト」の特徴も持ってるのでは?

 「傷つきやすいナルシスト」とは、ナルシシズムの一形態で「自分は好きなんだけど、自信がないせいでいつも不安なナルシスト」みたいな定義になります。自分は好きなんだけど、いまいち自信がないせいで、他人からの批判にめっぽう弱い傾向を持ってたりします。

 このような特徴を、HSPも合わせ持ってるのではないか?ということです。

 グラーツ医科大学などの研究では、ドイツの成人280名とイギリスの成人310名からなる2つの別々のサンプルを使用し、オンラインアンケートを使って、性格特性やメンタルおよび身体の症状を回答してもらいました。

 すると、結果は以下のようになりました。

  • どちらの研究でも、HSPは傷つきやすいナルシストと正の相関を示した
  • 特に「興奮しやすい」という因子が、ナルシシズムの尺度と最も強く結びついていた
  • HSPは意外と権利意識が強く、これもナルシストの考え方と似ていた

 やはりHSPと傷つきやすいナルシストは似たところがあり、さらに権利意識まで持っているのではないか?という考察ができますね。

 調査を行った研究チームは以下のように述べています。

 HSPと傷つきやすいナルシストは、どちらも『私は傷つきやすいから、どんな不快感も避けるのが当然だ』という態度をとっていることを示している。

 両者とも自分の弱さを特権意識に切り替えてる可能性があるらしいです。

 さらに、その他の結果も見てみると、以下のようになっています。

  • HSPとナルシシズムは神経症傾向と内向性の性格に関連しており、神経症傾向がこの2つの特性の共分散の大部分を説明していた

 神経症傾向がHSPとナルシシズムに関わってるってのは、非常によくわかるポイントですね。

 さらに研究チームは以下のようなことを述べています。

 HSPと傷つきやすいナルシシズムは必ずしも同じものではないが、両者は重要なポイントが似ている。特に、長期的に個人の成長をじゃまする可能性が高い自己規制メカニズムを共有している。

このような問題は、特に「不快感を避けなければならない」という態度を示す個人に当てはまりやすい。

 HSPの人たちというのは「自分は他の人と違う」という感覚に日常的にさいなまれやすく、その感覚が「自分は特別な人間である」や「自分は特別扱いされるべきである」という考え方になりやすいのかもしれないということです。

 確かに、このような特徴はナルシシズムの基本的な要素であり、HSPとナルシシズムが似てくるのはありそうですね。

 いずれにせよ、「不快感を避けなければならない」という考え方は良くないので、HSPや傷つきやすいナルシストの傾向がある方は、その点をくれぐれもご注意ください。

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