現代男性の心理健康と”男らしさ”の落とし穴:理解と克服のガイド

 現代社会では、男性が伝統的な性別の役割や期待に従わなければならないというプレッシャーが、男性の精神的な幸福に大きな影響を与えることがあります。

 若い頃から、男性は感情を抑え、強くストイックに振る舞うよう教えられ、多くの人が自分を表現したり、必要なときに助けを求めたりすることに苦労しています。

 しかし、このような性別による制約から解放され、サポートを求めることの重要性は、いくら強調してもし過ぎることはありません。

 この記事では、なぜ男性が自分の心の健康を優先することが重要なのかを探っていきます。

「男らしい人」ほどメンタルが病みやすい

 インディアナ大学の研究で、過去に行われた78件のデータをまとめたメタ分析になっております。

 参加者は19453人の男性で、男らしい人たちのメンタルヘルスについて調べたんですな。

 タフガイは本当にメンタルがタフなのか?

 具体的な「男らしさ」の基準は以下のようになっています。

  • 競争心が強い
  • 感情を表に出さない
  • リスクを取る
  • ケンカを辞さない
  • 周囲を支配しようとする
  • プレイボーイ(だと自分で思ってる)
  • 他人に頼らない
  • 仕事を優先
  • 男性上位主義
  • 同性愛が嫌い
  • 権力欲が強い

 そして78のデータを処理してわかったのは以下のようなことでした。

  •  「男らしさ」の基準を満たせば満たすほど鬱病にかかりやすい
  •  人生の満足度も低い

 そして、なかでもメンタルへの悪影響が大きいのが、以下の3点でした。

  • プレイボーイ
  • 他人に頼らない
  • 男性上位主義

 実際に調査を行った研究者は、以下のようなことを述べています。

 「男らしさ」の基準に従う人は、一般的にメンタルが悪化しやすく、それを認めて改善しようともしない。(中略)なかでも性差別に結びつく2つの要素(プレイボーイと男性上位)には、メンタルヘルスの悪化との強い関係がみられた。性差別はたんに社会的な不公平をまねくだけではなく、当人のメンタルにも甚大なダメージをもたらす。

 いっぽうでメンタル悪化との相関が弱い要素も以下の2点がありました。

  • 仕事優先
  • リスクを取る

 この研究から示唆されるのは、とりあえず「男らしさ」にこだわらず素直に暮らしたほうがよいといことです。

「男らしさ」を目指すと鬱病と不安に取りつかれる

 「現代を生きる男のガイドライン」という文書を世界でも最大級の学会であるアメリカ心理学会(APA)が出していました。

 もともとAPAでは「状況が変わった現代では、今までどおりには生きられない」というて問題意識があり、これまでも「女性版ガイドライン」や「LGBTQ 版ガイドライン」などを公開してきました。

さて、では今回のガイドラインの骨子はシンプルで「伝統的な”男らしさ”は時代遅れ」のひとことにつきます。

APAが定義する「伝統的な男らしさ」ってのは、以下の通りです。

 女性らしさへの対抗心、達成への欲望、弱さを見せることへの忌避感、冒険心、リスク選好、暴力といった基準が集まった価値観。

 「男は強くあらねば」や「男は動じない」など、昔ながらの価値観が、現代の男性のメンタルに激しいダメージを負わせているという話です。

 事実、先のリーマンショック以降は世界的に男性のうつ病が増え、女性よりも自殺率が高い傾向が見られたのですが、これなどはまさに「昔ながらの男らしさ」の弊害ではないか、と研究チームは考えています。

 「伝統的な男らしさ」とは、ストイシズム、競争的、支配的、攻撃性などの特徴を持った価値観のことだ。しかし現代の研究では、これは全体的に害が大きいことがわかっている。

 「男らしさ」は心理的に悪影響が大きく、男性同士がコミュニケーションを取る際に、互いの感情を抑圧させる方向に働き、内から外からダメージをあたえる。

 自分の感情を偽ると、風邪は引きやすくなるし人間関係も悪くなるみたいな研究は昔からありましたが、そこに伝統的な価値観も関係しているという話です。

 さらに、伝統的な男らしさの価値観は、男性の心理的な発達を阻害し、行動を制限し、性的な役割に衝突をあたえ、メンタルにもフィジカルにも悪い影響をもたらす。

 実際のところ、少年を対象にした研究などでは、男らしさを重視する人ほど同性愛を嫌悪し、いじめを行い、セクハラに手を出す確率が非常に高かったそうな。

 とはいえ、このガイドラインは、「男らしさ」に対する考えを根っこから変えようと言ってるわけではなかったりします。

 男らしさの定義には、力強さや勇気などもふくまれる。これらの要素をすべて取り除きたいわけではない。

 確かに「男らしさ」は有害なんだけど、ただディスってててもしょうがないから、「私たちを不安にさせる要素」のひとつだととらえたほうが健全だよ、という。

 端的に言えば、以下のような意識に注意しておいたほうが良いです。

  • 「男らしくあらねば!」と思う
  • しかし「男らしくできない自分」に意識が向かう
  • 不安が生まれる

 ここで生まれた不安が暴力や鬱病のもとになるんだなメカニズムを押さえておくのが第一歩となりましょう。

「男らしさ」によるメンタル悪化の対策#1

 近年は「男らしさはオワコンだ!」という風潮がありまして、アメリカ心理学会などもそこらへんを強調してたりします。

 なんでも、「弱みを見せない」だとか「恐れず勇敢に戦う」みたいな昔ながらのマッチョイズムに囚われてると、メンタルを病みがちになる傾向があるらしいんすよね。

 その流れかどうかは知りませんが、最近はジェームズ・ボンドも家族を持ったし、イーストウッドも男らしさを再考する映画を作ったりして、「いろいろ変わったもんだなー」とか思うわけですが。

 アンドリュー・ライナー氏はタウソン大学の心理学者で、長年、男性のアイデンティティ問題を調べており、すでに旧来の男らしさは社会的に受け入れていないのに、それでも多くの男性は、いまでも無意識のうちに役に立たない古いスクリプトにしがみついてるとおっしゃっています。

 たとえば、「男は助けを借りずにひとりでやるべきだ」や「恐怖や悲しみを表に出すべきではない」というような考え方です。

実際、世界的に見ても男性は以下のようにメンタルがもろい傾向があります。

  • 男性の自殺率は女性の2倍以上である
  • 米国では過度の飲酒による死亡者の約4分の3が男性
  •  数千人のオーストラリア人を対象とした調査によると、「よく孤独を感じる」と答えた人の割合は女性の方が男性よりも多いのに、男性の方が社会的なサポートが欠けていた(「人が思うように訪ねてこない」などの記述に同意しているかどうかを基準にしている)
  •  複数の調査では、多くの男性が孤独感を経験しており、これが精神疾患や病気のリスク上昇と相関している
  • 多くの男性は、本当は自分が鬱病にかかっているのに、それに気づいていないというケースも多数報告されている。また、男性の鬱病が過小評価されているという証拠もある

 これらの現象についてアンドリュー・ライナー氏は、「伝統的なマッチョイズムでは、『男は感情的な欲求から切り離されるべき』みたいに教えられるんで、これがメンタルの悪化をもたらすんじゃない?」と想定しております。

ちなみに、「鬱病に気づいてない男性」の特徴として以下のようなものが挙げられています。

  • 些細なことで、家族やパートナー、子供に強く当たってしまう
  • 大量の飲酒や高速運転など、危険な行動に走ることが増える

 慢性的に辛い気持ちにとらわれいるから、ふとした瞬間に他人に爆発したり、酒で気持ちをまぎらわせようとするのかもしれません。

でもってアンドリュー・ライナー氏のリサーチによれば、現代の男性の多くが、メンタルの悪化に対して以下のような対策を取っているそうです。

 なんらかの問題が起きた際、多くの男性は自分の友人と話すことが多いが、相手に打ち明ける問題は「批判や拒絶につながらない」ような問題に限定しているケースがほとんど

 たいていの男は男友達からアドバイスや解決策をもらおうとし、女性の友人、ガールフレンド、母親、妻には語らないか、自分で解決しようとする

 男友達に深い問題を語らない理由を聞くと、たいていは「友人はそんなことを話したがらないだろう」と恐れていたり、自分の問題を誰かに負担させたくないと考えていた

 多くの男性は、自分を「冷静」に保つためにビールやスポーツなどを通じた仲間との絆を大切にしているが、より深い感情的な信頼関係や親密さを育むことができていなかった

 やはり現代の男性の多くは、自分の感情的なニーズを犠牲にしてでも「男らしさ」を維持することを優先しているのではないか、と。

 それについてアンドリュー・ライナー氏は、以下のようなことを述べています。

 私たちが生き残り成長していくためにも、自分自身や周囲の人たちのためにも、「男であること」の意味を再考する必要がある。これには、内なる筋肉と強さを伸ばすことや感情の回復力を高める行為がふくまれる。

 男らしさを考え直すことは、多くの男性が恐れ、隠すように教えられてきた自分自身のより深い部分にアクセスし、それを統合する機会を与えてくれる。

 多くの男性は、自分の恐怖や恥みたいな感情から逃げてきたせいで自分の首を絞めてるし、そのせいで周囲の女性にも多大な迷惑をかけてきたんじゃないの?という話ですね。

 ではどうすればいいのか?

 まず博士がお薦めするのが、男性の友人と一緒に「伝統的な男らしさについて話し合ってみる」ってやり方があります。

その際には、以下のような質問をしてみるといい感じです。

  • 伝統的な男らしさのうち、どのようなものは「維持」する価値があるか? その理由とはどのようなものか?
  • 伝統的な男らしさのうち、手放したほうがよさそうなものは何か? その理由とはどのようなものか?
  • 男性はどのようなことをオープンに話し合うべきか?
  • 伝統的な男性がやらなそうなことで、もっと男性が行うべきでことはなんだろうか?
  • 男性はどのような感情をもっとオープンにすべきか?

 議論を男性とすることで、自分が「ムダな男らしさにとらわれてないか?」というのを確認していくわけですね。

 こういう議論をしたことがある人は少ないでしょうし、私もやってみたことないっすね。

「男らしさ」によるメンタル悪化の対策#2

さてアンドリュー・ライナー氏の「男らしさ」に対する具体的な対策の続きを書きたいと思います。

1.感情を正直に表現する

 伝統的な男らしさは「本当の感情は表に出さないようにしよう」と強制してくるので、そうではなくて自分が抱いている感情を受け入れる方法をトレーニングするのが良いそうです。

 逆もまたしかりで、人間の感情ってのは表に出すことで扱いやすくなったりもします。

 感情を正直に表現できる人ほど、内面的には強くなってく傾向があるんすよね。

 博士は、なんか難しい感情にとらわれたら、以下のステップを試してみるように指摘しておられます。

 過去に悲しい、怖い、寂しいと感じた時のことを書き出す。思い出すのが苦痛であれば、もっとネガティブな感情が低めな出来事を思い出すのでも問題ありません。

 その出来事で感じた身体的な感覚を書きだす(気持ち悪かった、吐き気がした、胃が締め付けられるような感じ、胸がドキドキしましたなど)

 自分が経験した感情に対して、どのように対処したかを書き出す。その感情に対して何をしたか? 感情を押し殺したか? もしそうなら、なぜ感情を押し殺したのか? その感情を誰かと共有したか? もしそうなら、その人はどんな反応をしたか? あるいは、他にどのように対処しましたか? といったことを、書き出していく

 いまの自分が、上記の体験をした過去の自分の隣に座っているところを想像する。そのまま、過去の自分に対してどんなアドバイスができるか?と考え、その具体的な提案を書き出す(「そういう感情は押し殺さないほうがいい」とか「そういう反応は誰にでもある」みたいな)

 全体的には認知行動療法に近い手法で、これは男性だけでなく女性にも役立つスキルです。

2.会話に「感情の開示」を入れる

 とかく男性は、男友達と一緒に飲んだりテレビでスポーツを観たりして、感情的な欲求を満たそうとしがちです。

 しかし、これだと深い感情のニーズから目をそらしてるだけなので、男性も自分の感情を伝えるような深い会話をするのがよいでしょう。

 いくつかの研究でも、ふだんの会話に「感情の開示」の要素を加えることで、結果的に友情が強化され、私たち個人のメンタルも改善すると報告されています。

 ただし、これは「男友達とビールやスポーツ観戦をやめろ」という話ではなく、もっと感情を開示したほうが友情のバランスが取れるということなので、そこはご注意ください。

3.メンタルの安全地域を探す

 現代社会では、基本的に男性よりも女性のほうが、精神的にお互いをサポートするような人的ネットワークを作るのが上手いです。

 簡単に言えば、日常のなかで、自分の不満や恐怖、悲しみ、そして喜びを共有できるような「メンタルの安全地域」を見つけるのは、女性のほうが明らかに上手な傾向があるんですよ。

 そこで博士は、悩める男性が自信の苦しみを自由に話せるグループに参加することをおすすめしておられます。

 なんでも海外には、EvrymanやManKind Projectといった男性向けの自助グループがいくつもあるらしい。

 確かに、こういう「安全な空間」で悩みを語れれば効果はデカいとか思いますが、そもそも自分のメンタルの問題が「男であること」から発生してるって認識がないと、わざわざこういうグループには参加しないでしょう、そこが難しい点かもしれません。

4.他の男をディスらない

 「男らしさ」に取りつかれた男は競争が大好きで、他の男をディスったりマウンティングする傾向にあります。

 「それセンス悪い」とか「こんなことで怒ってんの?」とか「俺は金あるけど」みたいなやつですね。

 この行動の根底にはだいたい競争心がありまして、他の男性をディスりながら自分の男らしい地位を高めようとしてるわけです。

 これは単に周囲を傷つけてるだけで実りは少ないので、「いま自分の地位を高めようとして他人に攻撃的になってないか?」と自分に尋ねてみるといい感じ。

 そのほうが、より協力的で生産的にものごとを進められます。

5.助けを受け入れて提供する

 「男らしさ」にこだわる人は、他人に助けを求めるケースが少ないです。

 伝統的な男性性のルールは、「男はひとりで未知を切り開く」というような考えを強制してくるんで、どうしてもそうなりがちなんすよね。

しかし博士は、以下のようにおっしゃられています。

 助けを求めたり提供したりすることは、より健全な男らしさを身につけるための最も簡単な第一歩と言える。たとえば、両手に荷物を持って店を出ようとしている男性のためにドアを開けてあげたり、男性が倒した缶を拾うのを手伝ってあげたりと、小さなことから実践してみるといい。

 確かに、小さな親切のメリットは過去にいくつも証明されてますし、これが一番手軽で効果の高い行動かもしれないですね。

男らしさにこだわると寿命が縮む

 現代においては、「男らしさ」にこだわる態度がメンタルの悪化をもたらしており、昔ながらのマッチョイズムにとらわれていると、失敗するたびにメンタルが損なわれてしまうのは当然でしょう。

 これから紹介する研究では「男らしさ」の問題を扱っていて、まず結論から申し上げますと、以下のようになています。

  • 「男らしさ」にこだわる社会で暮らす男ほど寿命が短い!

 従来の「男らしさ」研究はメンタルの問題に焦点を当てたものが多かったですが、ここでは健康被害を扱っています。

 具体的には、この研究は、世界62カ国で集めた33417人の大学生を対象にしたもので、当然ながら日本人もふくまれております。

 調査ではジェンダーの信念や態度を調べ、各国の「男らしさをどれだけ信じているかスコア」を作ったそうです。

ちなみに、ここでは「男らしさ」を以下のように定義してます。

「男らしさは、タフネス、コントロール、優位性を示すことによって獲得され、つねに維持しなければならないものである」という考え方

そしてデータを、各国の健康データと比べた結果は以下のようになりました。

  • 男らしさの信念を強く持っている国ほど、男性は喫煙や大量飲酒のように健康リスクの高い行動の量が多い。
  • 肝硬変や交通事故などで命を落とす確率も高い。
  • さらには、男らしさの信念が強い国ほど、男性の一般的な寿命や健康寿命が短く、男らしさの信念が低い国に比べて男性の平均寿命が6.69年短く、健康寿命が6.17年短かかった。
  • 「男らしさ」にこだわるだけで寿命が7年も縮むかもしれないという、実に恐ろしい話であります。思ったよりもすごい差が出るもんですな。

 寿命を縮めないためにも、自分の内面をモニタリングしつつ「男らしさにこだわってないか?」と考えてみるのは良い習慣かもしれませんね。

参考文献

・Vandello, J. A., Wilkerson, M., Bosson, J. K., Wiernik, B. M., & Kosakowska-Berezecka, N. (2023). Precarious manhood and men’s physical health around the world. Psychology of Men & Masculinities, 24(1), 1–15. https://doi.org/10.1037/men0000407

Better Boys, Better Men: The New Masculinity That Creates Greater Courage and Emotional Resiliency (2020).

APA GUIDELINES for Psychological Practice with Boys and Men (2018).

最新情報をチェックしよう!