ベジタリアン生活の健康影響:メリット・デメリットと科学的分析

 SDGsや健康志向の高まりで、ベジタリアン(菜食主義)を実践しようとする人も増えたと思います。しかし、元来人間が摂取していた肉などを取らない生活が果たしてどこまで体に良い影響や悪い影響を与えるのでしょう?

 そこでこの記事では、「ベジタリアンで健康になるのか?」や「野菜中心の生活が体や脳にどのような変化をもたらすのか?」と考えている人に向けて科学的な知見から紹介をしたいと思います。

ベジタリアンは健康なのか?

オーストリアの栄養統計を使った研究では、343人のベジタリアンのデータを調べたところ、ベジタリアンには以下ような傾向があることが分かりました。

  • BMIが低い
  • 酒やタバコはやらない
  • ガンの発症率が高い
  • アレルギーの発症率が高い
  • 鬱や不安症に悩みやすい

また体重が低くて嗜好品にはハマらないものの、ガンやアレルギー、メンタルの病気に罹りやすいようです。

ベジタリアンを徹底し過ぎると、ビタミンB12が不足しがちでオメガ3のバランスは悪くなる上に、コリンや亜鉛といった栄養素が足りなくなるのは知られたことなので、その辺がメンタルのバランスに悪影響を与える可能性はありますね。

良いベジタリアンと悪いベジタリアン

ハーバード大学の研究では「NHS」と「HPFS」っていう2つのデータセットを使い、209298人分の看護婦さんと健康産業の従事者を追跡た調査です。

調査ではみんなの食習慣を調べてまして、まずは「野菜インデックス」ってのを作ったそうな。当然、この数値が大きいほどベジタリアンに近くなり、小さいと肉の摂取量が多めだと判断されるわけっすな。

さらに、ここで研究チームはインデックスを2パターンに分けております。

  • 健康野菜インデックス:野菜、フルーツ、ナッツ、オリーブオイル、お茶などが多いほど高得点
  • 不健康野菜インデックス:ケーキ、ポテチ、スイーツなどが多いほど高得点

当然、ひとくちに「ベジタリアン」と言っても食事のうちわけは違いますんで、そこらへんを調べたたらどうなるか?ってとこを見たわけですな。

そのうえで、タバコ、運動量、病歴といった要素を調整したところ、こんな結果になりました。

野菜インデックスが高いほど心疾患が起きるリスクは減る……が、ハザード比は0.92ぐらいでかなり心もとない


しかし、健康野菜インデックスだけで見ると、この数値が高い場合は、数値が低い人より25%も低下する


「不健康野菜インデックス」が高い場合は、低い人にくらべて32%も悪化する

ってことで、「そりゃそうでしょう」みたいな結果になっております。たんにベジタリアンといっても、ちゃんと加工食品を減らさないと意味がないわけですな。

もちろん、これはセルフレポートをもとにした研究なので、その点では精度が甘くなっちゃうわけですが、野菜とフルーツは普通に大切であることや加工食品を減らしたほうがメリットが大きいという点を示してくれているので、ありがたいデータだとは申せましょう。

ベジタリアンで鬱のリスクが上がる?

ブリストル大学では、イギリスの男性9,668人を対象に全員へ食生活のアンケートを行い、徹底したベジタリアンを選り分けたんですな。

その結果、350人のベジタリアンが集まり、彼らのメンタルを調べ、普通に肉を食べる人と結果を比較しました。

その結果、ベジタリアンは肉を食べる人にくらべて鬱の発症リスクが74%アップしたそうです。

この傾向は、喫煙・体重・職業といった要素をコントロールしても残ったようです。

鬱の発症リスクが高まる要因としては、野菜や大豆にふくまれる植物性エストロゲンが考えられています。

その他の要因としては、魚介類の摂取量が減ることにより、鬱症状のリスクが高まる可能性を指摘されています。

植物性エストロゲンの過剰とオメガ3脂肪酸の不足を、おもな原因と考えているわけですね。

また、このほかにも考えられる原因としては以下のようになっています。

  • 肉にふくまれるビタミンB12が足りない
  • ナッツの摂取量が増えるせいでオメガ6脂肪酸が多い
  • 野菜が多いせいで農薬の摂取量が多いから?

ただし、これは横断研究なんで、当然ながら「逆の相関関係も否定できない」と研究者も釘を刺しております。

要するに、ベジタリアンだから鬱になるんじゃなくて、鬱になった人がベジタリアンになったとケースも可能性としてあるという話です。

また、これは350人規模の小さな研究ですし、男性しか対象にしてないんで、ハッキリした結論を出すのは難しいところ。

ベジタリアンは健康的な一般人と大差がない?

イタリアの研究チームが行った調査で、過去に行われたベジタリアンの観察研究96件ものデータを使った系統的レビューです。

その結果は、ベジタリアンは一般的な食事にくらべて以下の点で優れていたそうです。

  • 心疾患のリスクが25%減る
  • 癌の発症リスクが8%減る
  • 体重も少ない
  • コレステロール値も良好

全体的にはベジタリアンは健康に良いという結果になっています。

ただし「ベジタリアンには健康意識が高い人が多いだけでは?」という可能性も考えられます。

そこで非常に参考になるのが、1996年にオックスフォード大から出たナイスな論文(2)であります。

実験では、まず健康雑誌やサプリショップなどで募集をかけ、健康意識が高い男女だけを約10,700人もピックアップしました。

続いて全員を以下の2つに分けました。

  • ベジタリアングループ
  • 肉も普通に食うグループ

そのうえで、17年にわたって追跡調査を行ったところ、どっちのグループも死亡率は同じで、病気の発症率も同じ、だったそうです。

これは1994年の実験でも似たような結論が出ており、どうやら健康意識さえ高ければ、特にベジタリアンが有利ってことでもないらしいです。

ベジタリアンと筋トレの関係

ウーロンゴン大学が2015年に行ったレビューでは、過去8件の研究を参考にしつつ、「普通に肉を食べた場合とベジタリアンでどんな違いがあるのか?」という点を調査しました。

多くの実験は4〜12週間の違いを計測してて、筋トレと有酸素運動の両方への影響をチャックします。

結論では、ベジタリアンベースの食事によって運動のパフォーマンスが上がることを示す証拠はなく、また、ベジタリアンの食事がパフォーマンスを妨げるという証拠もなかったそうです。

さらにパワー、筋力、心肺機能などにおいて、肉も食べる食事とベジタリアンの間にはなんの違いも見られなかったようで、特にベジタリアンでも問題なくエクササイズの成果は出るし、運動のパフォーマンスにも影響は出ないってのが大きな結論になります。

ベジタリアンは骨折しやすい?

「ベジタリアンは骨折しやすいかも?」みたいなデータ(R)が出ておりました。

これはイギリスで行われた大規模なベジタリアン研究から、5万4,898人を平均17.6年追いかけたデータをまとめたもの。研究では、参加者の食事パターンを4つに分けていて、

  • 雑食グループ:肉も魚もなんでも食べる人たち
  • ペスクタリアン:魚は食べても肉は食べない人たち
  • ベジタリアン:肉と魚は食べないが乳製品と卵は食べる
  • ビーガン:肉、魚、乳製品、卵を食べない完全な菜食主義

という風に区別したうえで、それぞれの骨折の発生率と比べました。

するとビーガンについては以下のような結果が出ました。

  • 骨折のリスクが高く、肉や魚を食べる人と比べて10年間で1,000人当たり14.9件ほど骨折発生の数が増える
  • 特にビーガンは太ももや足全体の骨折リスクが高かった
  • ビーガン以外のベジタリアンも、有意に骨折の発生件数が高かった

どうやら肉と野菜を食べないと骨折が起こりやすいみたい。

この研究ではタンパク質とカルシウムを調整しても骨折リスクが確認されています。

つまり、ベジタリアンに骨折が多いのかは不明ですが、菜食をしている方は注意してください。

参考文献

・Craddock, Joel C et al. “Vegetarian and Omnivorous Nutrition – Comparing Physical Performance.” International journal of sport nutrition and exercise metabolism vol. 26,3 (2016): 212-20. doi:10.1123/ijsnem.2015-0231

・Dobersek, Urska et al. “Meat and mental health: a systematic review of meat abstention and depression, anxiety, and related phenomena.” Critical reviews in food science and nutrition vol. 61,4 (2021): 622-635.

・D.L. Katz and S. Meller Can We Say What Diet Is Best for Health? Annual Review of Public Health 2014 35:1, 83-103.

・Key, T J et al. “Dietary habits and mortality in 11,000 vegetarians and health conscious people: results of a 17 year follow up.” BMJ (Clinical research ed.) vol. 313,7060 (1996): 775-9. doi:10.1136/bmj.313.7060.775

・Monica Dinu, Rosanna Abbate, Gian Franco Gensini, Alessandro Casini & Francesco Sofi (2017) Vegetarian, vegan diets and multiple health outcomes: A systematic review with meta-analysis of observational studies, Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 57:17, 3640-3649,

・Rogerson, D. Vegan diets: practical advice for athletes and exercisers. J Int Soc Sports Nutr 14, 36 (2017).

・Thorogood, M et al. “Risk of death from cancer and ischaemic heart disease in meat and non-meat eaters.” BMJ (Clinical research ed.) vol. 308,6945 (1994): 1667-70.

・Tong, T.Y.N., Appleby, P.N., Armstrong, M.E.G. et al. Vegetarian and vegan diets and risks of total and site-specific fractures: results from the prospective EPIC-Oxford study. BMC Med 18, 353 (2020).

・https://www.mdpi.com/2072-6643/13/2/491

・https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2017.05.047?download=true

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