1万時間の法則を超えて:成功への多面的アプローチ」

「1万時間の法則」とは、練習やトレーニングを行うことで、その分野において最高のレベルまで到達するためには、約1万時間の練習が必要であるとする説です。

しかし、この説には限界があります。

練習の質や方法、環境、遺伝子、運や偶然など、多くの要因が影響するため、1万時間の練習を行ったからといって必ずしも最高の成果が得られるわけではありません。

また、適切な指導を受けた人や、天性の才能を持つ人は、1万時間の練習をせずとも高いレベルに到達することができることもあります。

よって、「1万時間の法則」は無意味ではないが、練習における成功要因は単純に練習量だけに限定されないことが理解される必要があります。

否定されまくる1万時間の法則

みなさんは「一万時間の法則」というものをご存知ですか?

この法則は「1万時間の集中的な練習を行えば誰でも一流になれる」というものを指しています指します。

そしてこの1万時間の法則の元ネタは1993年に心理学者のエリクソンが発表した論文から来ています。

一時期は世間を沸かせた法則ですが、一方では例えばミシガン州立大学の研究などによって以下のように真っ向から否定されていたりします。

  • まずエキスパートの能力に関する1万時間の法則は、実証データにより否定できる。
  • 集中的な練習はエリクソンが言うほど大事ではない。
  • エリクソンが行った反論には矛盾と間違いがある。
  • エキスパートの能力に関する研究は、1万時間ではなく「他に何が重要か?」に焦点を移すべきだ。

これはチェスの名人とプロ音楽家のデータを改め調べ直した結果、各人の練習量とパフォーマンスには大きな差が出たそうです。

たとえば、あるミュージシャンが2年でたどり着いたレベルに、他のミュージシャンは20年もかかっていたりとか、かなり数で例外が見つかったようです。

とにかく、練習量が少なくても一流になれる人はなれるようです。

研究者は、1万時間の練習では天才が生まれる理由の3割ぐらいしか説明できず、エリクソンの研究は、本物のエキスパートじゃなくて、初心者にリサーチを行った可能性が高いと述べています。

天才を決める残り7割の要素はまだ不明とのこと。

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勉強に関する練習の重要度は4%程度

今度は2014年にプリンストン大学で行われた研究では、過去に行われた音楽、ゲーム、勉強、音楽などの研究をメタ解析したもので、解析の結果わかったのは、練習の影響は小さいということでした。

どうやら研究者の計算によると、その分野をマスターするために必要な要素のうち、練習の重要さは平均で12%程度に収まるみたいです。

また、練習の重要さはジャンルによって大きく異なっていて、具体的には、以下のようになっています。

  • ゲーム 26%
  • 音楽 21%
  • 勉強 4%
  • 専門職 1%

もちろん、これは「練習が大事じゃない」って意味ではなくて、あくまで個人のスキルの差は練習では説明できないって話です。

研究者は、「統計的にも理論的にも、集中的な練習は間違いないく重要だ。しかし、(1万時間の法則の)支持者が主張するほどではない。いま科学者にとって重要なのは、本当にスキルの差をもたらす要素を特定することだ。」と述べています。

また大切なのはスキルを学び始める年齢と、ワーキングメモリの発達度のほうが重要ではなか?という説が有力のようです。

そもそも元の論文に誤りがあった説

ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究では、「1993年の研究を再現したが、同じ現象が確認できなかった」という結論になっており、どうやら最高のバイオリニストの大半は、良いバイオリニストよりも平均的な練習量は少なかったそうです。

この実験は39人のバイオリニストを集め、それぞれのスキルごとに「最高」「良い」「悪い」の3グループに分けて、全員の練習量を聞いたうえで、それぞれのスキルと比較しました。

一応、基本は1993年の原論文と同じです。

ただし、今回の追試が大きく違うポイントは、「1993年論文にあったバイアスを排除している」という点です。

というのも、1993年論文は「研究者がバイオリニストのスキルを知った状態でインタビューしてない?」って問題があったそうです。

つまり、研究者が「この人は上手なバイオリニストである」と知った状態でインタビューをした場合、既に相手のスキルは知ってるので、それが態度や質問のしかたに違いを与え、結果としてバイオリニストの受け答えも変わったのではないか?と推測されています。

なのでインタビュアーの知識を調整しないと、本当の答えは出せないのではないのかという問題が原論文にはあったわけですね。

そして、この問題を調整したうえで数値を割り出したところ、

練習量の違いは、バイオリニストのスキルの26%しか説明できなかったそうです。

これは原論文が48%からだいぶ数字が下がったことになります。

それどころか、研究チームいわく、「実際のところ、最高のバイオリニストは、良いバイオリニストにくらべて練習量が少ない傾向があった。」だそうです。

「良い」から「最高」レベルにまで達するには、練習よりも環境や遺伝のほうが大事なのかは謎な部分ではあります。

なんにせよ、1万時間の法則が既にガタついた法則でしかないので、我々にできるのは地道に練習を積むしかないと思いますね。

参考文献

・David Z. Hambrick, Erik M. Altmann, Frederick L. Oswald, Elizabeth J.Meinz, Fernand Gobet, Guillermo Campitelli,Accounting for expert performance: The devil is in the details,Intelligence,Volume 45,2014,Pages 112-114.

・Macnamara, Brooke N., et al. “Deliberate Practice and Performance in Music, Games, Sports, Education, and Professions: A Meta-Analysis.” Psychological Science, vol. 25, no. 8, Aug. 2014, pp. 1608–1618,

・Macnamara, Brooke & Maitra, Megha. (2019). The role of deliberate practice in expert performance: revisiting Ericsson, Krampe & Tesch-Römer (1993). Royal Society Open Science. 6. 190327. 10.1098/rsos.190327.

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