現代若者のコミュ力とモラル、氷河期世代を超えるメンタルの健全性

 世代間のコミュニケーションやモラルには違いがあり、一概にオジサンが若者よりも優れているとは言い切れません。

 またメンタルヘルスの面でも、オジサンが健全であるとは限りません。

 世代間の違いや問題には複雑な背景があり、一概に比較することは難しいと言えます。

 本記事では、時代の変遷によってどのように若者が変化したのかを紹介します。

最近の若者はコミュ力がないはどこまで本当か?

 ブリガムヤング大学などの調査では「最近の若者はコミュニケーション能力がない」といった批判が本当なのかを調べています。

 研究チームは、Facebookがまだ存在しない1998年に幼稚園に入園した子どもたちと、初代iPadが登場した2010年に入園した子どもたちのデータを収集(19,150人 vs 13,400人)。

 「すべての子供たちが教師や保護者からどんな評価をされていたか?」ってポイントを比べたんだそうな。

 簡単に言えばアナログ世代とデジタル世代でコミュニケーション能力が変わるのかを調べたわけです。

 そして以下のような傾向が出て行きました。

  • 対人スキルの評価は、どちらのグループも変わらなかった
  • さらにどちらのグループも、友人を作る能力、人間関係を維持する能力、自分とは異なる人々と仲良くする能力、セルフコントロール能力なども特に違いが見られなかった

 どうやら最近の若者だろうが、コミュニケーション能力については旧世代と違いがなかったそうです。

 これについて研究チームは、「我々が比較を行ったすべての要素において、社会的スキルには違いがなかったか、または後に生まれた世代の子供たちのほうが評価が高かった。(若い世代はPCやスマホの使用量が多いが)スクリーンへの接触時間が社会的スキルの成長に問題を起こすという証拠はない。」と述べています。

 子どもたちの対人スキルやセルフコントロールに対する教師の評価は、1998年のグループよりも2010年のグループの方がわずかに高い傾向があったようです。

 どのような世代でも、若い世代に不安を持ちやすい傾向がある。しかし、これはいつの世にもある話で、かつては電話、自動車、ラジオが現れた時にも、当時の大人たちの間で同じような議論が起きた。

 若者がディスられるのは世の常らしいです。

本当に最近の若者はモラルがないのか?

 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が行った調査では、1991年から隔年で「最近の若者ってどうだ?」ということを調べました。

 これを使うと、昔の10代と現代の10代を比較できるようです。

 では、以下にざっくりした傾向が出ました。

  • 何らかのバース・コントロールを行なってる人の割合=20年前の若者が21%なのに対し、現代は60%
  • アルコールを飲む人の割合=20年前の若者が81%なのに対し、現代は66%
  • 何らかの暴力行為をしたことがある人の割合=20年前の若者が42%なのに対し、現代は24%
  • 自殺を考えたことがある人の割合=20年前の若者が29%なのに対し、現代は17%

 最近の若者の方が性的にもマジメだし、依存性がある物質にものめり込まないし、暴力行為も減ってるし、メンタルも健全で、どうにも良いことのほうが多いと言えますね。

10代で恋愛経験が無いのは問題か?

 ジョージア大学の研究で、「Healthy Teens Longitudinal Study」っていう統計データを使い、高校2年生594人を対象にしたデータセットになっています。

  • 2003年から2009年まですべての生徒を追跡調査
  • 全員に「過去3ヶ月のあいだに誰かとデートをしたり、親密な関係性を結んだことがありますか?」って質問を定期的にぶつける
  • ついでに、学生たちの教師にもインタビューを行い、全員のコミュニケーション能力、リーダーシップの高さ、メンタルの状態などもチェックする

 上記のような調査を進めております。

 なぜ研究チームはこのような調査をしたのかと言いますと、「多くの社会科学者は、思春期における恋愛関係が、個人の成長と幸福のために重要な要素だと考えている。そう考えると、デートをしない10代は、社会に適応できていないことになるのだろうか? 社会的なはみ出し者なのだろうか?」という問題意識があったからだそうです。

 つまり10代で恋愛経験がないのはヤバいことなのか?ってことですね。

 そしてデータをまとめた上で、全体の恋愛傾向を以下のように分類しました。

  • 交際しないグループ:7年間のうちに1.1回しかデートをしていないか、まったくデートをしたことがないグループ。全体の16%を占める。
  • 交際が増加したグループ:時間とともにデートの回数が増加したグループ。中学校では交際がなかったが、高校では交際の回数が増えていくケースが多い。7年間のうちに特定のパートナーを持った回数が平均3.5回で、全体の24%を占める。
  • 交際が減ったグループ:中学校では交際をしていたが、それから数年間はデートの回数が減ったグループ。研究の期間中、平均で4.6回のデートしたと報告しており、全体の22%を占める。
  • 交際が多いグループ:「特定のパートナーがいるか?」という質問に、ほぼ毎回「はい」と答えたグループ。研究の期間中、平均して5.9回のデートをしたと報告しており、全体の38%を占める。

 ここからさらに、全学生のコミュ力や幸福度とくらべたところ、全体的にはこんな傾向が確認されました。

  • もっともソーシャルスキルとリーダーシップの能力が高かったのは、まさかの「交際をしないグループ」だった
  • ほぼ交際経験がないグループは、抑うつのスコアも低い傾向があり、悲しみや絶望などのネガティブな感情も経験していなかった

実は恋愛経験がない若者のほうがコミュ力があり、精神的にも健康だったようです。

 これについて研究チームは「交際をしない若者は、総じてうまくやっている。恋愛経験を若者の通過儀礼と考えるのは間違いだ。」とのべています。

「非モテでパートナーがいないやつはダメだ」というような考え方は現実に即してないようです。

 「交際経験がない若者ほど実は幸福」って傾向があらわれた理由は分かりませんが、研究チームは以下のようなことを述べています。

 「先行研究によれば、恋愛関係にあるティーンエージャーは、うつ病の症状を経験しやすい傾向がある。恋愛関係は複雑で、長続きしないことも多い。事実、青年期の自殺の主な予測因子の1つは、特定のパートナーとの破局だ。」

 さらにチームは、「いまの世界では、みんなたくさんの性的指向を持ち、それぞれに多数の選択肢を持っている。交際がないからといって社会に適応していないわけではないし、社会的能力が欠如しているわけでもない。それぞれの学生は、それぞれに独自のライフスタイルを選び、どちらの選択肢が正しいといったこともない。」と述べています。

なぜ大人は「最近の若者はバカだ」と思い込むのか問題

 これはカリフォルニア大学の調査で、研究チームは「私たち人類は、少なくとも過去2,600年間にわたり 「最近の子どもたち」 に対して同じ不満を訴えてきた。不満の中身はどの時代も変わらず、若者は無礼で、年上の言うことを聞かず、働くのを嫌がる、といったものだ。」と述べています。

 自分もかつてはダメな若者だったかもしんないのに、なんで高齢者は子供たちを下げるのか、と。

というわけで、チームは3458人の男女に以下の5パターンの調査を行いました。

  • 最近の若者は目上の人間に礼儀正しい態度を取っているか?
  • 最近の若者が上の世代の人間より賢いと思うか?
  • 最近の若者は読書好きだと思うか?
  • 自分のことをどう思っているか?

 その結果は「自分は偉いと思ってる高齢者ほど若者を罵倒する」という内容になっています。

 例えば「自分は読書好きだ」と思ってる高齢者は「若者は本を読まない」と思うし、「俺は賢い」と思ってれば「最近の若者はバカだ」と感じやすいようです。

 なぜこのような現象が起きるのかと言いますと、「多くの人は子供時代の記憶が正確ではないから」だとチームは指摘しております。

 要するに、子供のころはいま思うよりも賢くもなく、本も読んでなかったのに、歳をとると過去の記憶をゆがめて認識しちゃうのが大きな原因だそうです。

ジェネレーションギャップは実は存在しない!たんに若いころは誰でも自己中心的なだけ

 「自己愛過剰社会 」で有名なジーン・トウェンギ博士の研究で、1976年〜2006年にかけて高校生を対象に行われた16500人分のアンケートを統計処理しました。

 調査を受けた世代は以下の通りになっています。

  • ベビーブーマー(1976年時に高校生)
  • ジェネレーションX(1991年時に高校生)
  • ミレニアル世代(2006年時に高校生)

 どの世代もアンケートに答えたのは高校時代なので、同じ年齢のときに各世代がどんな価値観を持ってたかを比較できるわけですね。

  • その結果は三世代ともほとんど同じで、
  • 全員が仕事に対して「やりがい」「学びの機会」「興味」に高い得点をつけた
  • 全員が「賃金」「昇進」「ステータス」については中程度の得点をつけた
  • 大半は「仕事に社交や休暇は求めない」と回答した

 どうやら仕事に関しては世代間の差は無いらしいです。

 これについて研究者は、「すべての世代は似た価値観を持っている。ただし、その表現方法が違うだけだ。」

 つまり、どの世代も価値観は同じなんだけど、その時の年齢や経済状況などによって、周囲への対応が変わっていくそうです。

 ゆとり世代のように経済の低迷期に育てば、消費も控えるようになるし、金や昇進にガツガツしなくなるのは不思議ではないです。

 似たような研究はほかにもあって、たとえば2010年の論文で477380人分のデータを統計処理したもので、1976年〜2006年に生まれた各世代の性格の差を調べました。

 その結果は、やはり世代間の差はないというものでした。

 ナルシスト度、個人主義のレベル、自尊心、孤独感、人生の満足感などは、どの世代でもほぼ同じだったそうです。

 なぜ「若いものは価値観が違う」と言われがちなのかといえば、そもそも若いころは誰でもナルシストで自己中心的な傾向があるからです。

 これは多くの心理学者が賛成するところで、2010年のレビュー論文でも「世代の差より年齢の違いのほうが影響は大きい」って結論になっています。

 つまり、自分も若いころは自己中心的だったはずなのに、すっかり忘れて「若いやつは価値観が違う」と言ってるだけなんすな。

 そんなわけで、世代間の話をするときは、価値観の変化よりも状況の変化に目を向けたほうがよさげ。

参考文献

・Douglas, B. and Orpinas, P. (2019), Social Misfit or Normal Development? Students Who Do Not Date. J School Health, 89: 783-790. https://doi.org/10.1111/josh.12818

・Kids These Days: Are Face-to-Face Social Skills among American Children Declining?Douglas B. Downey and Benjamin G. Gibbs American Journal of Sociology 2020 125:4, 1030-1083

・Twenge, Jean M., et al. “Generational Differences in Work Values: Leisure and Extrinsic Values Increasing, Social and Intrinsic Values Decreasing.” Journal of Management, vol. 36, no. 5, Sept. 2010, pp. 1117–1142, doi:10.1177/0149206309352246.

・https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aav5916

・https://www.cdc.gov/healthyyouth/data/yrbs/index.htm

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