科学が証明するワクチンの安全性とチメロサールの真実

 ワクチンは盛んに陰謀論者に攻撃されるもので、良く言われるのが『百害あって一利なしなので利得権益に目がくらんだ病院に騙されないように、子供には全く打つ必要がない』が未だに広まっているように思える。

 そこでこの記事では、「ワクチンは無意味なのか?」や「ワクチンと水銀の問題はどうなっているの?」と不安に思っている人に向けて科学的な知見から紹介をしたいと思う。

ワクチンは無意味って本当か?

 結論から先に言うと、ただの陰謀論だ。

 ワクチンの効果については信頼できるデータは多くある。

 2011年に31件のデータをまとまたメタ分析で「ワクチンは子供への効果が高く、成人にもそこそこの効果」との結論が出ている。


 2014年では90件のデータをまとまたメタ分析で「ワクチンにはそこそこの効果あり」との結論を出していて、特に副作用もないと結論を出した。

 ここで取り上げた研究の信頼性は一級であり、疑ってもしょうがないレベルと言えるでしょう

なぜワクチンの効き目にはバラツキが生じるのか?

 奇妙なことに、同じデータを参照しているのに「予防接種は無意味である」という主張が偶にあるが、その主な原因としては以下のようになっているからだ。

  • 年齢が若いと効果が出にくい(赤ちゃんとかほとんど効果が出ないこともある)
  • 季節によっても効果がまったく違う(10%しか効かなかった年もある)
  • もともと健康な人が使うと効果がないケースもある

 そもそもインフルエンザワクチンの効果は、良い悪いを含めても、なかなか正確な効果を見極めにくいのだ。

 なので一流科学雑誌でも意見が分かれることがあり、例えばBMJは「厳密な試験だけのデータを使うべき」と主張し、ネイチャーは「感染病みたいな問題については観察研究のデータも必要である」という主張をしていたりする。

 現在は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が「ワクチンは50%〜60%の予防率」との見解を示している。

チメロサールのエチル水銀問題


 ワクチンで言及されやすいのが「インフルエンザワクチンに含まれるチメロサールが神経に障害を及ぼす」というものだ。

 これについてはかなり前にWHOが「危険って証拠はない」という結論を出している。

 というのもチメロサールは体内でエチル水銀に変化しますが、どうやら分子が大きいせいで、脳まで達しないってのが大方の見解になっている。

 また10年以上前からチメロサールの入ってないワクチンが登場して来たので、心配する必要がないとも言える。

 そもそもチメロサールは化学構造にエチル水銀を含む防腐剤で、ワクチンに使われている。

 防腐剤が最初にワクチンの大容量バイアルびんに加えられるようになったのは、1930年代のことだ。

ゴム栓に繰り返し針を刺すうちに、びんに細菌が混入する可能性があるため、防腐剤が使われるよ うになった。

 なぜなら1900年代の初めには、バイアルびんを開封してから何人もがワクチンを接種された後 でワクチンを受けた子供たちにはびんに入り込んだ細菌まで接種されることになり、重度の感染症を引き起こして、命を落とすこともあった。

 そしてチメロサールを防腐剤としてワクチンに添加すると、この問題はなくなった。

 しかし、 1990年代後半に新たな問題が持ち上がった。

 どのような代償があったという のだろうか1999年に、ワクチンにより赤ちゃんや幼児の体内に多量の水銀が取り込まれることを不安視する 声が一部の医師たちから上がったのだ。

 1990年代に起こったワクチンに含まれるチメロサールをめ ぐる騒動は、1970年代のDDTの場合ととてもよく似ていた。

 すぐに用心のためにチメロサールの 乳幼児用ワクチンでの使用が取りやめられ、赤字で警告が記載されるようになった。

 1年ほどの間に、 ワクチンメーカーはチメロサール不使用ワクチンの生産体制を整えたが、B型肝炎ワクチンなど一部のワクチンにはまだチメロサールが使われていた。

 およそ100%の病院がチメロサールを含むB型 肝炎ワクチンを投与しないという決断に踏み切り、結果としてミシガン州で3カ月の赤ちゃんが劇症型 B型肝炎を起こして死亡し、フィラデルフィアではB型肝炎ウイルスに感染した母親から生まれた6人の赤ちゃんがワクチンを受けられず、慢性肝炎に不安を抱えながら人生を送ることになった。

 これらの病院では、チメロサールを含むB型肝炎ワクチンによる(理論上でし か示されていない) 害は、B型肝炎にかかるという(実際に目の前にある) リスクよりも重大であると 誤解されていたのだ。

 乳幼児向けのワクチンにチメロサールが使われなくなってからわずか数年のうち に、7つの研究によりチメロサール入りワクチンに害がないことが示されている。

 確認された唯一の有害事象は、現実にあるリスクよりも理論上のリスクが重視されたことが原因だった。

 水銀という言葉に良いイメージ を持つ人はいないだろう。

 大量の水銀 が体に悪いことははっきりしている。

 実際に、日本の水俣湾ではメチル水銀を含む廃水が流されたせいで、また、イラクではメチル水銀を含む防カビ剤でくん蒸されたタネ小麦を誤って食用にしたことで、 何百人もの乳児や胎児が犠牲になった。

 しかし、水銀は地球の地殻にも含まれる成分であり、完全に避 けることはむずかしい。

 母乳や赤ちゃん用ミルクも含めて) 地球上の水に由来する飲み物には、どれ も少量ながら水銀が含まれる。

  これらのごくわずかな量の水銀なら健康に害はない。

 大量に摂取するこ とで、体に害が及ぼされるのだ。

 少量の水銀でも有害なのであれば、人類は別の惑星に移住するしかない。

 注目すべきは、水銀の量だけに限ればワクチンに含まれる水銀の量は、母乳や乳児用ミルクに含ま れる量よりもはるかに少ないことだ。

 さらに、私たちが日常的にさらされている重金属は水銀だけでは ない。

 私たちの血液を調べれば、カドミウム、ベリリウム、タリウム、さらにヒ素までが微量ながらも 検出されるはずだ。

 しかし、これらの量は健康被害が出る量にははるかに及ばない。

MMRワクチンと自閉症の関連

 1998年にイギリスのアンドリュー・ウェイクフィールドという医師が、麻しん・おたふ くかぜ・風しん混合ワクチン(MMRワクチン)が自閉症の原因になると言い出した。

 イギリスや米 国ではMMRワクチンの接種を控える親が続出し、結果として数百人の子供に入院が必要になり、少な くとも4人が麻疹により死亡した。

 公衆衛生関連団体や学術界も反応し、1件以上の研究が行われて、 はっきりとした結果が出た。結果には一貫性と再現性があった。 MMRワクチンが自閉症の原因になることはない。

 アンドリュー・ウェイクフィールドは間違っていたのだ。

 もしウェイクフィールドが本物の科学者であったなら、自分の説が間違っている可能性を認めようとする姿勢を持ち合わせていたなら山のような証拠を突きつけられて、引き下がったはずだ。

 しかし、彼はそうしなかった。ウェイクフィールドの説は科学者にあるまじき、科学的な根拠を欠 いたいいかげんな説だった。

 それでも、ウェイクフィールドはゆずらず、あらゆるえせ科学者が誤りを 証明されたときに出る行動を選んだ。他の研究者たちが自分の結果を再現できなかったのは、彼らが医薬品業界の圧力を受けているからだと言い始めたのだ。

世界中の何千人もの研究者たち、公衆衛生当局 担当者たち、学者たち、それに小児科医たちが製薬会社の意のままに操られているというこじつけ を、ウェイクフィールドは私たちに信じ込ませようとし、このような不当な圧力がなければ、彼の理論 の正しさが否定されるはずはないと暗にほのめかした。

きちんとした手順を踏んで行われた研究により、自説が否定されたと きに彼らが選んだ道は、誤りを指摘した相手を攻撃することだった。

 陰謀があったと主張する彼らのや り方は、優秀な弁護士のやり口だ。

(法律家の基本原則は、法律が自分にとって有利な場合は法律を盾 とし、事実が自分にとって有利な場合は事実を述べ立てる。どちらも自分にとって有利でないと判断し た場合は、証人を攻撃する。)

もし研究者が陰謀論を口にしたら、その相手が唱える説に根拠はないと思った方がいい。

 「真実を権力に話せばこうなる」という彼らの言い訳はそれらしく聞こえるかもしれ ないが、だからといって正しいとは限らない。

 数学者で疑似科学の誤りを論破するノーマン・レビット は、こんな有名な言葉を残している。

「ガリレオが権威に逆らったからといって、権威に逆らうものが必ずしもガリレオではない」。

 彼らがどれほど一生懸命に自分たちがガリレオだと信じ込ませようとしたとしても。

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