教師が陥りがちな7つの誤り:授業効率を高める科学的アプローチ

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実はIQが変化・・・する?

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 IQという言葉を一度も聞いたことがない人は余りいないでしょう。IQとは(Inteligence Quotient)という知能検査によって決まる点数の事を指します。

 この点数が高得点であるほど、俗に言う「天才」という分類に分けられます。

 IQは生涯を通して変化することないという考え方が今でもありますが、反対に2011年の論文では、生まれ持ったIQは変化するかもしれないという結果を報告しています。(1)

 イギリスが行った実験で平均年齢が14歳の学生33人にIQテストを受けさせ、MRIによって脳計測を行いました。

 約4年後、18歳になった学生たちを再び集めてIQテストを受けさせると、言語性IQと呼ばれるものが、±20程度変化している事が分かりました。

 つまり、4年間でIQが20ポイント上がった生徒もいれば、20ポイント下がった生徒もいたという事です。

 脳に良い変化をもたらす具体的な関係性、食事や睡眠なのか、または定期的な運動のせいなのかは分かりませんが、IQが常に一定だという考え方には少し疑問を持つべきでしょう。

 さらに、脳の変化傾向は大人になったとしても起きる事が分かりました。(2)

 ドイツが行った研究で、平均年齢26歳の大人を集めて複数のボールを落とさないようにジャグリングするという課題を与えました。

 練習を始める前と最中、そして終わった後の脳の部位体積を測定します。

 すると、練習開始後には脳の特定部位の体積が急速に増えましたが、課題をクリアできるようになると体積の増加は止まりました。

 このことから、脳は常に新しい事を学ぶことで大きくなり、学習を止めた時に脳の成長も止まってしまう事が分かります。

 つまり、生涯学習という活動を続ける限りは、脳も成長を止めないとも言えますね。

 学校の教師の中は、「頭が悪い奴は一生変わらない」と言った考え方を持つ人が少なからずおり、そこまで酷くなくても「IQは変わらない、だから難しい問題を教えても意味がない」と考えてしまう教師もいます。

 しかし、自分達の教え方次第で、目の前の学生たちが優秀な逸材になるかもしれないという事を知った上で授業をするだけでも、学生に良い変化を与える事になります。

 また古典的ですが、教師期待効果(ピグマリオン効果)(3)と呼ばれる心理効果もあり、教師が学生に期待を寄せているだけで、それを察知した学生が一生懸命努力するようになり、結果的にIQや学校の成績を上げてしまうとうものです。

 まずは、生徒たちを期待することから始めて見るといいかもしれません。

やる気を出させるには褒める、ただし...

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「俺は褒めて育てる」という教師の言葉ほど信用できないものはありませんが、確かに褒めるという行為にはメリットがあります。

 普通、人は与えられた課題に対して報酬を目的として意欲を出す(外発的動機づけ)か、好奇心や向上心によって意欲を出す(内発的動機づけ)のどちらかで行動しています。

 心理学者エドワード・デシによる1971年(4)の研究は特に有名で、子どもの絵を描くと言う行動に「報酬」を与えたせいで、やる気を削いでしまったというものです。

 そしてこれを、心理学では「アンダーマイニング効果」と呼びます。

 しかし、このアンダーマイニング効果を拡大解釈しすぎる人もいて、どんなに小さな報酬も「やる気を削ぐもの」として排除しよう考えたりします。

 ところが、後の研究(5)で言葉を使って相手の成果に対して称賛を与える行為は、立派な報酬となり内発的動機づけを高める事が分かりました。

 ただし、褒め言葉は注意して使わないと思わぬ結果を招いてしまう事もあります。

 2017年の論文では(6)、集めた子供たちを3グループに分けて、カード課題をクリアした際にそれぞれ3種類の褒め方を行いました。

 1グループは「君はとても賢い」(能力を褒める)

 2グループは「よく頑張った」(努力や方法を褒める)

 3グループは「何も無し」(特になし) 

 その後、子ども達がカードの課題に対して、あえてズルを行いやすい状況を作り、どのグループが一番ズルするのかを観察しました。

 結果は、1グループの「君はとても賢い」と能力を褒められた子ども達が一番ズルを行いました。

 実験からは、生まれ持った能力を褒められると、評判を落とさないように難しい事にチャレンジせず、簡単な選択肢ばかり選ぶようになることが分かったのです。

 実験では5歳の子ども達が対象でしたが、その傾向は10歳になっても変わりません。(7)

 単に叱るだけの教師も駄目ですが、能力ばかりを褒めてしまう教師も、また問題があるという事を理解する必要があります。

子どもに教科書を進んで開かせる方法

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小中学生問わず、学年が上がるごとに授業の内容は難しくなっていきますね。

 特に算数や理科と言った科目は、難易度が高いせいで興味を無くす学生は絶えません。

 かく言う私も、算数や理科と言った科目は今でも苦手です。それ以外では、英語も昔はかなり苦手でした。

 皆さんも教科書を見るだけでウンザリした経験はありませんか?

 学校の教科書は書店に売られているような参考書に比べて、全体的にあまりに面白くない内容が多いため、授業そのものは好きでも教科書が使いずらいという悩みを持つ子どは存在します。

 実際、2006年と2015年の(8)研究を見ても同じ事が言えます。

 中学生736名を対象に、数学の確率問題を使って実験を行い増した。

 あるグループにはアーティストやゲームキャラクターなどが登場する6種類の教材から1つ選ばせます。

 別のグループには、従来の教科書が渡され勉強を行いました。

 そして、勉強前後でどれくらい興味を持っているのか、どれほど勉強を熱心に学んだのかを調べました。

 結果は、教材の選択権を与えたグループだけが、「確率」に対する興味や積極的に勉強をやろうという気持ちが増加していました。

 今現在も、自分の好きな教材を選んで学校で勉強する事は出来ません。

 なぜなら一人一人違う教科書を使うと、お互いにどこまで進んでいるのか判断しにくくなるというような、デメリットがあるからです。

 もし、このような点をクリアできれば、勉強に興味を無くした子どもが、再び「やる気」を出してくれる可能性は十分にあります。

ライバルは少ない方がいい

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皆さんは高校受験や大学受験を経験しましたか?

 幼稚園や小学校ですら受験がある時代なので、親御さんだけでなく、学生や小さな子ども達は日頃の教育指導・学習を怠れないでしょう。

 高校受験は地元と近くの県外が相手でしょうが、大学受験になるとライバルは全国です。

 受験会場には、見知らぬ顔触れの学生が一堂に会して目の前のテストを解きます。

 ところで、2009年に行われた研究では同時にテストを受ける学生が少ない方がテストの成績は良くなることをご存じですか?(9)

 74名の大学生を2つのグループに分けて、一般的な知識を素早く解く問題をやらせました。

 1つ目のグループには「あなた以外に10名の学生が問題を解いて、素早く解けた上位20%の人には5ドル差し上げます」と伝える。

 2つ目のグループには、「あなた以外に100名の学生が問題を解いて、素早く解けた上位20%の人には5ドル差し上げます」と伝える。

 周りには参加者の学生1人以外、誰も居ませんでした。

 すると、10名がライバルであると言われたグループは、100名がライバルだと告げられたグループよりも、短い時間で問題を解いたのです。

 高校受験や大学受験以外でも、どれだけライバルが多いのかを認識しない方が、むしろ良い成績を取れることもあります。

 教師陣は定期試験や受験において、学生の闘志を焚付ける為にライバルの数をついつい口にする時もありますが、逆効果になる可能性は考慮しておいたほうがいいでしょう。

上がった点数は下がる

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よくテストで良い点数を取ったら褒め、次のテストでは悪い点数を取ってしまったら叱る親や先生がいると思います。

 一見すれば、個人の努力が足りないせいにも思えますが、実のところ、そう簡単にかたずけられる話でもないのです。

 「平均への回帰」とい言葉を知っていますか?

 「平均への回帰」とは、例えばAさんがテストでよい点数を取ったとしましょう。

 Aさんは周りから褒められる為、次のテストでも高得点を取りたいと緊張し始めます。

 反対に、Bさんはテストで低い点数を取りましたが、次のテストは高い点数を取りたいと考え始めます。

 すると次のテストではAさんの点数が低下し、Bさんの点数が増加する傾向がありました。

 これはいったいどういうことでしょうか?

 2006年に行われたゴルフの研究からも、最初に良いスコアを出した人は、次に悪いスコアを摂りました。(10)

 逆に、最初は悪いスコアだった人が、次は良いスコアを出しました。

 実は、どんなに一生懸命努力しても極端に成績を取った人は、次の成績が悪くなる可能性があり、逆にとても悪い成績だった人は次の成績は良くなる可能性が高いのです。

 これは、イギリスのフランシス・ゴルドンが見つけた法則です。

 つまり何が言いたいのか?

 成績の悪い子どもを叱ってテストの成績が上がると、親や教師の中には「叱ることや罰を与えるのは良いこと」と認識してしまう人が出てきます。

 しかし、「平均への回帰」が起きると、悪い点数を取っても次回は平均に近づいて行くので自然と点数はアップします。

 反対に、良い点数を取っても次回は平均に近づいて行くので、点数が下がります。

 だから、生徒や子どもの点数が上がった理由を正確に捉えないと、見当外れの非効率的な教え方をしてしまう場合があるので注意しましょう。 

集中力が続かないのは授業が面白くないから

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教師陣から「最近の若者は、集中力がない」と話を耳にしますが、確かに2016年の論文にも出ています。(11)

 しかしそれは、自分自身の教え方を顧みない発言になっていなか、改めて考えてみて下さい。

 と言うのも、2010年の論文(12)では少々耳が痛い研究結果も出ているからです。

アメリカの大学で授業中の学生の集中力を、4週間も測定するという実験を行いました。

 各学生には手元にボタンを用意し、授業中に自分の注意力がなくなった感じた時に押してもらいました。

 すると、結果には面白い傾向があり、連続で授業を受けると集中力は徐々に弱まっていくように思われましたが、授業によって集中力に幅があったのです。

 もちろん、この研究だけでは学生の集中力に関して、何かしら結論は出来ませんが、集中力の増減は授業内容や先生の教え方に左右されると言えます。

 学校では集中力が無い生徒も、自宅に帰ると4~5時間近くゲームをやっていられるのは、本来はおかしいことです。

 なぜゲームは長く集中できて、学校の授業は5分も聞いていられないのでしょうか?

 そこに解決のヒントがあると思えます。

終わりに

 教える側は常に色々工夫を凝らさないと行けません。私も、ブログとかで記事を書いていますが、上手く伝わっているとは思えたことは一度もありません。(というか伝わっていないでしょう)

 「うまく説明できたかな?」なんて試行錯誤とリライトを繰り返す今日この頃です。

参考文献

最短の時間で最大の成果を手に入れる 超効率勉強法(学研プラス,2019年)

進化する勉強法: 漢字学習から算数、英語、プログラミングまで(誠文堂新光社,2019年)

(1) Ramsden, S., Richardson, F., Josse, G., Thomas, M., Ellis, C., Shakeshaft, C., Seghier, M., & Price, C. (2011) Verbal and non-verbal intelligence changes in the teenage brain. Nature, 479, 113-116.

(2) Driemeyer, J., Boyke, J., Gaser, C., Büchel, C., & May, A. (2008) Changes in gray matter induced by learning – revisited. PLOS one, 3, 7, 1-5. 

(3) Rosenthal, R., & Jacobson, L. (1968). Pygmalion in the classroom. The Urban Review, 3, 16-20.

(4) Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 18, 105-115.

(5) Eisenberger, R. & Cameron, J. (1996) Detrimental effects of reward. Reality or myth? American Psychologist, 51, 1153-1166.

(6) Zao, L et al. (2017) Praising young children for being smart promotes cheating. Psychological Science, 28, 1868-1870.

(7) Dweck, C. S. (2007) The perils and promises of praise. Educational Leadership, 65, 34-39.

(8) Hidi, S. & Renninger, K. A. (2006) The four-phase model of interest development. Educational Psychologist, 41, 111-127. 

・Høgheim, S. & Reber, R. (2015) Supporting interest of middle school students in mathematics through context personalization and example choice. Contemporary Educational Psychology, 42, 17-25.

(9) Garcia, S. M. & Tor, A. (2009) The N-Effect: More competitors, less competition. Psychological Science, 20, 871-877.

(10) Berry, S. M. (2006) “A Statistician reads the sports pages: Statistical fallacies in sports”, CHANCE, 19, 4 50-56.

(11) Bradbury, N. A. (2016) Attention span during lectures: 8 seconds, 10 minutes, or more? Advances in Physiology Education, 40, 509-513.

(12) Bunce, D. M. et al. (2010) How long can students pay attention in class? A study of student attention decdine using clickers. Journal of Chemical Education, 87, 1438-1443.

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