人を理解する難しさと誤解の原因:心理学が解明する人間関係の謎

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 人と交流していると、相手の性格や特徴を何となく理解したような気がします。しかし、本当に分かっているのでしょうか?

 誰しも、他人には言えない秘密を持ちますし、相手の内側を覗くことは出来ません。もし本当に理解していれば、要らぬ誤解を招かなくても済む気がします。

 今回は、なぜ人を理解するのが難しいのかを見て行きたいと思います。

人は謎だらけ

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 まず、大前提として人間という生き物は、非常に「心が読みにくい」存在だと言う事を理解しなければいけません。

 しかし、そのような前提があるにも関わらず、多くの人達は相手に理解してもらう努力もあまりしていません。

 家族や友人なんだから、どうせ言わなくても分かるだろう、という考え方が蔓延しているとも言えますね。

 因みに、「相手は理解しているだろう」とか「自分は正確に伝えた」という考え方は「透明性の錯覚」と言います。

 この透明性の錯覚が顕著に出た研究では、マトニバ大学のジャッキー・フォラウとステファニー=ダニエル・クロードの行ったものがあります。(1)

 まず実験の参加者にペアを組んでもらい、個人間の問題を一緒に解決するように指示しました。

 簡単に解決策が見つかるような問題から、解決策が見つかりにくい問題などバリエーションは豊富です。

 そして話し合いを始める前に、参加者達に対して個別に、交渉における「最重要目標」として、次の5つのどれかを言葉には出さず自分なりの態度に表すよう指示しました。

 1番目は自分の考えを絶対に曲げないようにする。

 2番目は最後に選んだ解決法に対して、相手が満足できるように、こちらの価値観や信念は多少妥協する。

 3番目は双方が妥協する回数を同じにする。

 4番目はベストの解決策を見つける事だけを考える、相手との関係がそれによってどうなるかは気にしないようにする。

 5番目は相手に好感を持たれるようにすることでした。そして話し合いが終わった後に、お互いに相手の目標は、話し合いの態度から見て、上の5つのうちどれだったかと尋ねました。

 結果は、正しく相手の意図を推測できたのは全体の25%に過ぎませんでした。

 次に、自分の意図をどのくらい分かりやすかったのかと尋ねました。

 すると60%の人が「自分の目標はみえみえだったと思う」と答えたのです。

 ここから分かるのは、「分かりやすい人」というのは意外と重宝されるべき人材でしょう。

 わかりやすい人達というのは、相手に誤解されないやり方で、自分を表現しているようです。

 そう言う人間になるためには、自分に関する情報が人に伝わるようにしなければならず、伝えたいと思う自分の特徴や性格を裏付けるものが必要です。

 あなたの人間としてどの点が魅力的か、相手はほとんど何も知らないでしょう。

 人は情報の空白を勝手に埋める傾向があるので、勝手な想像であなたのプロフィールが作るられてしまう可能性が十分にあります。

人は自分の見たいように見る

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 私たちは「他人は自分を公平で客観的に見てくれるだろう」という最大の思い込みをしています。

 人があなたから得た情報、つまりあなたの言葉や行動は、常に相手の偏見や独自の解釈によって屈折して伝わっています。

 私達は目の前の出来事をそのまま見ていると思い込み、個人によって独自の解釈が含まれているとは考えません。

 もし、ここ個人の独自解釈がないなら、同じ考えを共有する宗教組織も度々分裂を繰り返すことも無いでしょう。

 なぜなら、歪みなく同じ解釈をしているハズだからです。

 また、ある心理学チームが200人以上のドイツ人に、ドイツで良く知られる15人の有名人について30の形容詞リストの中から相応しいモノを選ぶように指示しました。

 すると、その有名人が好きな人達同士では相関係数は0.67でした。

 つまり、特定の有名人から感じる良い印象は、その人が好きな参加者の間ではお互いに同じような表現で褒めているという事です。

 逆に好きでも嫌いでもない人は0.44の相関係数で、むしろその有名人を嫌いな人の相関係数は0.33でした。

 つまり、ある有名人が嫌いな人はそれぞれ違う理由で、言いたい放題文句を言っているという事です。

 また「身近な人なら自分と同じように見てくれる」という考えを確かめる為に、学生寮に住む400人の大学生で実験をしました。(2)

 長く一緒に住むにしたがって、人の自身に対する見方が、相手に近づくのかを見ました。

 すると自分自身とルームメイトの見方に対する相関性は低く、0.2~0.5の間でした。女性の場合はもう少しマシな結果になりました。

 この様に、自分に近い人間ですらお互いの考えを上手く共有するのは非常に難しいのです。

人は認識に使う力を節約する

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 人のステレオタイプを補助するような役割を担う確証バイアスなんかもあります。

 例えば、相手が何らかの理由であなたを「天才」と思っていれば、どんな行動を取っても「知性の表れ」だと思ってくれます。

 反対に「馬鹿な奴」だと思われれば、どんなに成果を出しても「悪い点」ばかりが注目の的になってしまいます。

 そして、その印象を最初に決めるのは「初頭効果」と呼ばれる、最初にその人を観察して得た情報が、その後の情報を解釈したり記憶したりする時に影響を及ぼす心理効果によるものです。

 ある実験では、30問のテストで、生徒Aが前半の15問中14問正解したとします。(3)

 ところが、後半は15問中6問しか正解できませんでした。また別の生徒Bは、前半は15問中6問しか正解しませんでしたが、後半で15問中14問も正解しました。

 両者の総合的な成績は同じですが、どちらの方がより有能に見えるか、数学の教師や専門家に判断させました。

 すると多くの人が生徒Aの方が能力が高いと判断しました。

 なぜなら、前半で好成績を出したことが印象に残り、後半の結果に対して「まぁ、後半はちょっと難易度が高かったよね」などという、言い訳めいた事を評価者が思ってしまうからです。

 一度作られた印象はあとから変えることが、不可能ではないにしても大変困難であり、だからこそ第一印象を正しくすることが大事なのです。

ステレオタイプで判断される

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 幼い顔の人は、大人っぽい顔の人よりも「悪い事をしないだろう」という、ステレオタイプを我々は持っているのをご存知ですか?

 例えば、研究者たちが、少額の裁判における判例を500件以上調べ、被告の「童顔度」が、有罪判決に大きな影響を及ぼしている事を見つけました。(4)

 ある意図的な器物破損の訴えでは、大人っぽい顔の被告は92%が有罪となり、童顔の被告は45%しか有罪判決をされませんでした。

 また過失による損害は、むしろ童顔の被告の方が85%で有罪となり、大人っぽい顔の被告は58%だったといいます。

 しかし、それでも大人顔の人は高い確率で有罪判決を受けてしまうところを見ると、あまり楽観的な結果ではありませんね。

 また、ある調査(5)で約300人近い社員が、問題解決の課題に取り組んだ結果を同僚の55人に評価してもらいました。

 すると、「クリエイティブな能力」と「リーダーとしての資質」には、強い負の相関性がありました。

 これはつまり、課題に対する答えがクリエイティブなほど、リーダーとして相応しくないと思われてしまいました。

終わりに

 人が無意識に考えている部分について触れて行きました。今回紹介したものは、どれも意識かで行われていないものが多く、自分では出来ているつもりでも意外と偏っている事があります。

 しかし、知って意識するのとしないのとでは差が出ると思うので、是非意識して日々の生活を送って頂ければ幸いです。

参考文献

・(1) J. D. Vorauer and S. Claude, “Perceived Versus Actual Transparency of Goals in Negotiation,” Personality and Social Psychology Bulletin 24, no. 4 (1998): 371-385.

・(2) F. J. Bernieri, M. Zuckerman, R. Koestner, and R. Rosenthal, “Measuring Person Perception Accuracy: Another Look at Self-Other Agreemengt,” Personality and Social Psychology Bulletin 20, no. 4 (1994):367-378.

・(3) E. Jones et al., “Pattern of Performance and Ability Attribution: An Unexpected Primacy Effect,” Journal of Personality and Social Psychology 10, no. 4. (1968): 317-340.

・(4) A. Zebrowitz and S. M. McDonald, “The Impact of Litigants’ Baby-Facedness and Attractiveness on Adjudications in Small Claims Courts,” Law and Human Behavior 15, no. 6 (1991): 603-623.

・(5) J. S. Mueller, J. A. Goncalo, and D. Kamdar, “Recognizing Creative Leadership: Can Creative Idea Expression Negatively Relate to Perceptions of Leadership Potential?” Journal of Experimental Social Psychology 47, no. 2 (2011): 494-498.

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