人間は、相手に嘘をつく際に表情や話し方でバレるという常識がありますが、実際にはそうではない場合があります。
最近の研究によれば、嘘をつく人の表情や話し方は、本当のことを言う人とほとんど変わらない場合が多く、それを見破ることは非常に困難であることが分かってきました。
特に、プロの嘘つきや社交的な人は、嘘をついていることを察知される可能性が低い傾向があります。
しかし、バレる可能性が低いということは、嘘をついている人がいる可能性があるということでもあります。
したがって、相手の表情や話し方だけに頼らず、言動や背景を含めた複数の要素を総合的に判断することが重要です。
他人の嘘はプロでも見破れない
「デイリーテレグラフ」紙と共同で、嘘に関する全国的調査を実施されたことがあります。(1)
調査の結果、今まで一度も嘘をついたことがない人は、8%もいました。
どうやら、 本当のことを答えられない人たちがいるらしいです。
別の調査では、2週間の会話と、その中でどれの会話が嘘だったかを克明に記録してもらいました。
すると、多くの人がは1日2回程度の大きな嘘をつき、会話の3分の1に、何らかのごまかしがあり、 嘘の8割は相手に気づかれていませんでした。
また80%以上の人が、職を得るために嘘をついたことがあり、ほとんどの人が「雇用主は、求職者が素性や経歴をごまかすのは先刻承知だ」と考えていた。
さらに60%以上の人が、少なくとも一度は浮気をしたことがありました。(2)
嘘を見抜くことにかけては、コイン投げで裏表を当てるのと変わりないです。(大体50%程度)
老若男女に関わりなく、確実に嘘を見抜ける人は少ないようです。
パートナーが真実を隠しているかどうかさえ、わからない可能性があります。 (3)
恋人の裏切りに関す る実験では、長い付き合いのカップルの片方に、とびっきり魅力的な異性の映っているスライドを見せました。
スライドを見ている人は、パートナーに自分はその異性に興味は無いと信じこませなくてはならないのです。
実験の結果、長く付き合っているカップルほど、パートナーの嘘を見抜くのが下手でした。
相手の嘘を見抜けないからこそ、長続きするのではないかと考える研究者もいるくらいなのです。
ですから、我々は相手の嘘を見抜けないことをあまり心配する必要はないでしょう。
なにしろ、嘘を見抜けない人は大勢いるのですから。
カリフォルニア大学の心理学者、ポール・エクマンは、嘘をついている人と本当のことを言っている人のビデオを、さまざまな専門職の人びとに見せ、嘘つきをつけるように頼みました。(4)
ポリグラフ検査担当者、盗難捜査官、判事、精神科医など、みんな一生懸命にやりましたが、だれも偶然以上の成果を出せませんでした。
ではなぜ、人は嘘を見抜けないのでしょうか?
その答えは、テキサスクリスチャン大学のチャー ルズ・ボンド教授の研究のなかにあります。(5)
ボンドは、人が嘘をついているときにどんな行動をとるか調べました。
彼の心理学研究は、アメリカの大学生数百人にチェックシートに記入してもらうようなレベルではありませんでした。
60以上の国の数千人に、「他人が嘘をついていることを、あなたはどうやって判断しますか?」と質問しました。
その答えは、驚くほど一致していました。
アルジェリア、アルゼンチン、ドイツ、ガーナ、パキスタン、パラグアイ、どこでもほとん どすべての人が、嘘つきを見破るサインとして、目をそらす、手を振りまわす、椅子の上でソワソワするなどを上げました。
またビデオを見比べ、映像観察訓練を受けた人にも、デジタル画像を分析させました。
笑顔、 まばたき、手の動きなどを見るたびにボタンを押し、コンピュータに記録しました。
一分間 の映像を分析するのに一時間もかかるが、嘘をつくときと本当のことを言うときの身振りの 違いが厳密に比較できます。
そこで明らかになったのは、嘘つきは本当のことを言う人とまったく同じように相手の目を見つめ、手を神経質に振りまわしたりせず、椅子の上でソワソワしないことでした。
嘘を見抜くことができなかったのは、身振りに頼っていたからで、実際はそういうものは嘘とは無関係だったからでした。
それでは、間違いなく嘘を見抜くシグナルとは何でしょうか?
この疑問に答えるために、研究者たちは、嘘つきと正直者の行動の違いを探しました。
そして、その手がかりが、どうやら話し方にあるらしいと気付きました。
嘘をつくときは、情報をあたえればあたえるほど、バレやすいので、本当のことを言うときよりも口数が少なく、くわしく語らない傾向にあります。
なぜ、ボディーランゲージより言葉が嘘を見抜く手がかりになるのかは、まだ明らかになっていません。
一説では、アイコンタクトや手の動きなどはコントロールしやすいので、嘘つ きはこのシグナルを逆に利用することができるが、言葉ははるかにコントロールしにくいか らだと考えられています。
だから、どんな話し方をしているかを見れば、手がかりが得られます。
相手の表情でウソを見抜く「微表情」トレーニングは使えない
現代の心理学で「微表情」はまともに取り扱われてないと思います。
実際、心理学の定番の教科書で「微表情」を説明してるケースは少ないです。
というのも「微表情」の検証は2000年代からいくつか行われてるんですが、結果はよろしくないのです。
有名なのは2008年論文で、697パターンの表情を1/30-sフレームで細かく分析していったところ以下のような結果になりました。
- 697パターンのうち、微表情の定義に当てはまるものは14個しかなかった:そもそも、1/25〜1/5秒の時間で観察される表情ってのはほとんど存在してない
- 14の微表情を見てもウソと真実を見分けるのは超難しい:14のうち6つが「真実の微表情」だったものの、「ウソの微表情」と変化なし
この研究でわかった「もっとも正確なウソのサイン」は「まばたきの回数が増えたかどうか」だったそうで、表情と関係がないです。
また2010年のレポートで、アメリカでは空港のセキュリティに表情分析が取り入れられ、3,000人の職員が微表情トレーニングを受けたところ以下の様になりました。
- 正しい犯人を捕まえる確率は1%以下しか上がらなかった
これについて専門家は、『結局のところ、表情分析のトレーニングを受けた人々(高度な経験を持つプロの表情分析官をふくむ)は、コイン投げと同じ精度でしかウソを見抜けない。』
かなり厳し目な批判を行っております。
嘘をつく人ほど他人の嘘を信じやすい
ウォータールー大学などの調査では、「嘘をつく人ほど他人の嘘にだまされるかも」という結果が出ました。
数パターンの実験が行われてますが、全体的な調査の方法は以下のように行いました。
- 参加者が普段からどれぐらい嘘を言うかを調べる
- 研究チームが作ったフェイクニュースをどれぐらい信じるかも調べる
その結果、嘘の頻度とフェイクニュースを信じるレベルには相関がありました。
- 普段から「説得的な嘘」をつく人は、フェイクニュースにだまされやすかった
- 普段から「回避な嘘」をつく人は、フェイクニュースにだまされにくかった
「説得的な嘘」ってのは「自分を偉く見せたい」や「他人を説得したい」という動機がもとになった嘘で、「回避な嘘」ってのは「ミスを隠したい」とか「傷つきたくない」って動機がもとになった嘘を意味しております。
「説得的な嘘」をつく人が嘘を信じやすいのかと言うと、「自分の知的能力をより過信しているから」でそうです。
自分を偉く見せたいがために嘘をつく人は、認知能力(簡単な数字や語彙のテストで測定)や自分の思考、感情への洞察力が低い傾向も確認されたそうです。
相手の嘘を減らせる?
テンプル大学の実験で、51人の男女簡単なゲームで競ってもらい画面に現れる青い円を好きな方向に動かして、対戦相手に「どちらに動かしたか?」を当ててもらうというルールでした。
ここで相手に嘘をついてもOKで、もし相手がダマされれば得点アップであります。
このときに全体を2つのグループに分けました。
- 目の前のスクリーンごしに、対戦相手がこちらを見ている様子が見える
- 目の前のスクリーンが白くなり、対戦相手の視線は見えない
アイコンタクトをしながらゲームをした参加者は、格段に嘘をつく確率が下がったんだそうです。
これについて研究者は、『この研究は、アイコンタクトが「嘘」に影響する事実を示した最初のものだ。アイコンタクトには、正直な行動をうながす作用があるのかもしれない。』
人に見られると正直になるってのはわかりやすい話ですが、ここで研究チームは「認知が消耗するからじゃない?」って仮説を立てております。
つまり相手がこちら側を見ている場合、「相手が嘘を見抜いたのでは?」をモニタリングする必要が出てくるので、その分だけ、認知のリソースをたくさん使う必要があるので、うまく嘘をつくのが難しくなる。そして結果的に嘘をつく確率が減るという感じです。
嘘をつくと共感力がなくなる?
ミシガン大学などの研究で、以下のように実験を行いました。
- 259人の男女に「普段から仕事でどんな不正直な行動をしてますか?」と尋ねる
- また別の150人の男女には「コンピューターゲームをしてください」と指示する(このゲームは、ズルをすればいくらでも高得点が取れるように、あえて設定されている)
- 全員に「共感力を測るテスト」を指示する
普段から嘘をついたりズルをすることが多い人たちの共感力が測れるようになっています。
結果は以下の様になりました。
- 普段から嘘をつきまくってる人ほど他人の気持ちを読む能力が低い
嘘をつくと人の心がわからなくなっていくらしい。
なんでこういう現象が起きるかは不明ですが、いずれにせよ共感能力がなくなればかなり、社会的にはコストがかかるので、真面目に生きるのが一番ですね。
参考文献
・(1)R. Highfield-How age affects the way we lie”, The Daily Telegraph, page 26. 25 March 1994.
・(2)A. Vrij-Detecting lies and deceit, John Wiley & Sons: Chichester 2000.
・(3)B. M. DePaulo & W. L Morris-Discerning lies from truths: Behavioural cues to deception and the indirect pathway of intuition’, in PA Granhag & LA. Stromwall (eds.). The detection of deception in forensic contexts. pages 15-40, Cambridge University Press: Cambridge 2004
・(4) P. Ekman & M. O’Sullivan-“Who can catch a lar?, American Psychologist, #46 (0), pages 913-20, 1991.
・(5) The Global deception research team-‘A world of lies”, Journal of Cross-Cultural Psychology, #37(1), pages 60-74 2006
・Jonne O. Hietanen, Aleksi H. Syrjämäki, Patrick K. Zilliacus, Jari K. Hietanen,Eye contact reduces lying,Consciousness and Cognition,Volume 66,2018,65-73.
・Littrell, S., Risko, E.F. and Fugelsang, J.A. (2021), ‘You can’t bullshit a bullshitter’ (or can you?): Bullshitting frequency predicts receptivity to various types of misleading information. Br J Soc Psychol, 60: 1484-1505. https://doi.org/10.1111/bjso.12447
・Porter, Stephen, and Leanne ten Brinke. “Reading Between the Lies: Identifying Concealed and Falsified Emotions in Universal Facial Expressions.” Psychological Science, vol. 19, no. 5, May 2008, pp. 508–514
・Weinberger, Sharon. “Airport security: Intent to deceive?.” Nature vol. 465,7297 (2010): 412-5. doi:10.1038/465412a
・https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0225566