選択肢を与える心理学:人々の自発性を引き出す秘訣

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 おそらく皆さんも誰かに選択肢を奪われるのが嫌いでしょう。

誰かに指図されるよりは、自分で決めてミスる方が気分的にはいいと考える生き物なのです。

 本記事では紹介する人を動かす心理は、相手に選択肢を与えることが有効な手段とされています。

 社会心理学や行動経済学の分野で研究され、選択肢を与えることで相手は自分が選択した行動に責任を持ち、自己効力感を高めることができます。

そして選択肢の提供は相手の自己効力感や自由意思を高め、自発的な行動を促す効果があるとされています。

 そこで今回は、選択肢を与えて相手を動かす心理について紹介して行きたいと思います。

主体性がない納税が嫌なワケ

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 我々は国民の義務として税金を納めています。それはどこの国でも大差はない。

 しかし、正直なところ、税金を納めるのは嬉しい行為と捉える人に出会う機会はまぁないだろう。

 納税は国民の責務だとしても自分が稼いだお金の30%とか20%を、意気揚々と政府に差し出す人は少ない。

 実際、この苦役から逃げてしまう人もいます。例えば、アメリカにおける年間脱税額は、458億ドル(約5兆円)(1)

 しかもこの数字には、合法的に税制の抜け穴を利用する人の手に落ちる額は含まれていない。

 そこでハーバード大学の3人の研究者は、人々に主体性を持たせれば税金を払う確率も上がるのでは無いかと考えた。(2)

 まず研究者たちは、学生を集めて、様々なインテリアの写真を評価してもらい、実験参加の報酬として10ドルを払う約束をしました。

 ところが、3ドルを「研究税」として、封筒に入れて研究者に返すよう指示されました。

 すると、半数の学生しかこの指示に従う者はいませんでした。そこで少し、やり方を変えて、同じく研究税を徴収するが、その使い道を自由に主任研究者へ提案できるようにしました。

 すると驚いた事に、単に意思表示の機会を与えただけで、研究税を払う人が70%に上昇しました。

  さらにこの現象を調べるため、オンライン調査を行い、参加者の一部には税金の使われ方の仕組みに関する資料を読ませ、別の参加者は自分の払った税金がどのように使われて欲しいのか意見を求めました。

 すると税金の使い道について希望を述べる機会がない人は、3人に2人が法律の抜け穴を利用したいと答えた。

 それに対して、希望を述べる機会を与えられた人でそう答えたのは半分以下だったのである。

 ここから分かるのは、各国は単に税金を徴収するだけでなく、その使われ方までをいくつかの選択肢として国民に提示する方法が、脱税や逃税を減らし、より多くの税金をスムーズに回収する方法だと思います。

選べる事が大事

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選択肢を与える事がいいのは、何も税金に限った事では無いわよ。

 そもそも人間は自分でコントロールできる環境の方が高い満足度をもたらすことを知っているため、選ぶという行為はコントロールの一つの手段として捉えています。(3)

 例えば、どんな大学や高校に行くか?どんな人と付き合うか?さらに個人的なところではどんなゲームをするのか?などなど様々な選択肢を毎日自分自身で選んでいるのです。

 そしてラトガーズ大学の神経学者マウリチオ・デルガード率いるチームは、選択の機会を与えられると人はそれ自体を報酬と捉え、選択肢を与えられたら「選ぶこと」を選ぶという事が分かりました。(4)

 逆に選択肢や自分で物事が決められるコントロール感がないと、健康にも良くない影響が出る事はイェール大学のジュディス・ロディンとハーバード大学のエレン・ランガーによる1970年代に行われた研究の中でも判明しています。(5)。

 実験は、ある介護施設を訪れ「主体性フロア」と「非主体性フロア」に分けました。

 「主体性フロア」では、被験者に「自分の力で身の回りの管理をしてください」という指示を出し、「非主体性フロア」の被験者には「何もかもスタッフが行いますので、特別何もしなくて結構です」と伝えました。

 すると三週間後、身の回りの管理を推奨された「主体性フロア」のグループは、「非主体性フロア」よりも幸福を感じており、また活発に活動するようになっていました。

 ここから分かるのは、相手が子どもや大人でも責任を与えたり、意思決定のプロセスに関わらせることで、活動的にさせたり満足感を促進する事ができる可能性があるという事です。

自分が作ったのは良い物

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 ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートンと同僚が取り組んだ一連の研究に「イケア効果」というものがある。(6)

 イケア効果とは「自分が作ったものには、他人が作ったまったく同じものよりも価値を感じる」という観察研究に基づいた現象である。

 自分が立てたイケアの棚の方が既製品の物より良く見える傾向のこと。

 たとえ仕上がりが歪んで不格好でも、良く思えてしまうものらしい。

 これはコントロールすること、つまり自分でどういう風に組み立るかを決める権利があることが一因ではないかと考えれる。

 だとすれば、レゴブロックも手順通りに作るよりは、自分が思い描いた物をゼロから製作した時の方が喜びが大きいのかもしれない。

 実際、職場でもそうだが、部下を細かく管理しようとしてしまう上司やマネージャーの心理を上手く説明しているのかもしれない。

 中間管理職や教師といった「人に何かを教える」立場の人は、少しばかしコントロール感を相手に与えることで意欲と幸福度を上げる事があるのは、すぐに理解できるだろう(7)。

終わりに

 相手を言いくるめたり説得したりするよりも、一つの手段としてコントロール感を、つまり選択肢を与えてみる事を検討するのは良い判断だと思うわれる。

 押して駄目なら、放してみろというワケだ。

参考文献

・(1) Chris Matthews, ‘Here’s How Much Tax Cheats Cost the U,S Govern-ment a Year, ” Fortune, April, 2016, http://fortune.com/2016/04/29/tax-evasion-cost

・(2) C. P. Lamberton, J. E. De Neve, and M. I. Norton, “Eliciting Taxpayer Prefernces Increases Tax Compliance, ” working paper, 2014; available at SSRN 2365751.

・(3) L. A. Leotti, S. S. Iyengar, and K. N. Ochsner, “Born to Choose: The Origins and Value of the Need For Control, ” Trends in Cognitive Sciences 14, no. 10 (2010), 457-63.

・(4) L. A. Leotti and M. R. Delgado, “The Inherent Reward of Choice, ” Psychological Science 22, no. 10 (2011): 1310-18, doi.org/10.1177/0956797611417005. L. A. Leotti and M. R. Delgado, “The Value of Exercising Control over Monetary Gains and Losses, ” Psychological Science 25, no. 2 (2014): 596-604, doi.org/10.1177/0956797613514589.

・(5) Judith Rodin and Ellen J. Langer, Long-Term Effects of a Control-Rele-vant Intervention with the Instiutionalized Aged, ” Journal of Personality and Social Psychology 35, no. 12 (1977): 897.

・(6) Michael I. Norton, Daniel Mochon, and Dan Ariely, “The ‘IKEA Effect’: When Labor Leads to Love, ” Harvard Business School Marketing Unit Working Paper 11-091 (2011).

・(7) E. A. Patall, H. Cooper, and J. C. Robinson, “The Effects of Choice on Intrinsic Motivation and Related Outcomes: A Meta-Analysis of Research Findings, ” Psychological Bulletin 134, no. 2 (2008): 270.

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